インターミッションその1:レイン


時系列は、やや遡る……。


「イオン!! イオン=インディペンデンスじゃない!?」
酒場に入った一行をまず出迎えたのは、この声だった。
先頭に立っていたユノーが声にまず反応して声の主を探ってみると、やや
閑散とした食堂の真ん中からやや右寄りのテーブルに、立ってこちらを見て
いる女性がいる。一見しての印象は……そう、「優しげだな」という所か。
「……レイン?! レインか?!」
声の主を確認するや否や、イオンはレインの方に駆け出していっていた。
「久しぶり!! どう、詩歌の方は?! いい詩、書けた!?」
「ハハ!! 生憎とね、まだまだだよ!!」
二人の間では、なおも笑い声とともに話しが続いている。こんな様子を見
て、しかもイオンが冒険者であるという事を考慮すれば、レインも冒険者で
あり、そして一時期二人は一緒に行動していたことがあるという事くらい簡
単に想像できるのだが、生憎とそこまで『冒険者』に成り切っていないエリ
ネには、まだそこまでは思い付かなかった。
二人が再会の慶びあっているうちに一行はテーブルに移動し、邪魔しない
ように料理を幾つか注文した。
で、取り合えずの自家製野菜を使ったサラダ――これがまた頗る多い。何
でも食料を運んで来てくれた事への、ささやかな礼らしいが――を食べ終え
て、タップが早速茹で豆を肴にエールを食前酒と一本空けた頃、漸く二人は
我に返ったらしい。レインがこちらを見て、「ああ。パーティ組んだんだ」
と言った。それに対して、今迄喜色満面だったイオンの顔がふと曇り、ポソ
リと肯定の言葉を吐く。
「あ、そんなつもりで言ったんじゃ……。ホラ、『物語と歌を作るために、
一人でゆっくりとした旅をする』って言ってたじゃない」
焦り気味に言うレイン。
対してイオンは、
「いや、大丈夫。それより紹介するよ、これも何かの縁だろうからさ」
と言って、テーブルについた仲間達を、キリから始まってユノー、メロゥ
スと時計回りで紹介していく。エリネが御辞儀して最後だ。
「で、こっちはレイン=ヴォルズンク。随分前に、色々と御世話になったん
だ」
深々と御辞儀をするレイン。何というか、気品すら感じられなくもない。
「宜しくね、お嬢さん」
キリが、邪険とも取れる言い草で挨拶するが、レインはやや困った顔をし
たものの、特に何も言わずに席についた。
「なんか……イオンさん、いつもと雰囲気が違いません?」
不思議に思ったエリネは、隣で出来上がりかけているタップに答えを求め
た。
「ん〜? ま、あっちの嬢ちゃんと一緒にいると、昔の自分に返るとか何と
か、そんなとこじゃないかい? そんな事よりさ、ホレホレ、一杯どうだい?
嬢ちゃん」
「あ……いえ。今日は……ちょっと……」
「な〜に言ってるんだい。酒場に来たんだから酒を飲むのは当然じゃないか
い。ホラホラ」
「い、いえ……だから、今日は……」
酔っ払ったオヤジより厄介な代物は、『良家の奥様』以外に存在しない。
タップといえど例外ではなく、しつこくエリネに酒を勧めている。
そんな様子を見かねたのやら、エリネにいいとこを見せたいからかは判ら
ないが、フィラントが関ってくる。
「タップさん、何やってるんです。嫌がってるじゃないですか」
「んん〜? なんだぁ、お前さんが呑みたいってか〜? よっしゃ、いいだ
ろ〜。いっちょぅ呑み比べといこぉぜぇ〜」
問答無用でフィラントのコップに酒をドボドボと注ぐタップ。何とも答え
ていないのだが……。
「ホレホレ。グーッと、グーッと」
わざわざ一気のみする謂れはないのだが、ここまでやられてしまって引き
下がるには、彼の若さは強すぎた。
「よぉーっし!!」
「止めなよ。二日酔いになったって知らないよ?」
と、キリが止めようとするが、ンなコタ知ったこっちゃない。若いフィラ
ントは注がれた地酒を一気に飲み干す。
「どぉーですッ!! さっ、次はあなたの番ですよ!」
「なぁーにぃー?! 言われなくても、これぐらい軽ーく呑みきってやるぜぃ!!」
「おおーっ!! 行け行けー!! オレもやるぞーッ!!!!」
「ちょっと! これは俺の皿だぞ!? ユノー!! だから人の皿を取るなって
の!!」
「何やってるんですか。ちょっと、タップさん! 止めなさいって!!」
一気呑みに賛成反対関係なく、いずれにせよ、テーブルは盛り上がる。
そんな様子を見て、レインは微笑んで言った。
「仲のいいパーティね」
「ああ。エリネも私も、ついこないだ参加したばっかりだというのに、もう
みんな打ち解けている。『あれ』以来、二・三回パーティに混じったが、こ
んなに早いのは初めてだよ。レインの時よりも、早いんじゃないかな」
彼女にしては珍しくピッチが早く、既に酔いかけている。レインのピッチ
につられているのだろう。
「……そう。良かったわ」
心底、安心したという感じの微笑み。
「何で、そう思うんだい?」
「ん〜〜」
しばらく、考え込む。
「……判らない、わ。只なんとなくね」
その表情が曖昧な笑みへと変わる。
その時、ふと、キリが割り込んできた。
「なあ、アンタ。なんで旅してるんだい?」
突然の質問に、やや面食らいながらもレインは答えた。
「なんで、って……。そうですね。詩を作るため、かな……」
垂れ下がる深緑の髪をいじりながら答える。
「じゃ、イオンさんと同じく吟遊詩人なんですか?」
ワイワイ騒ぐ男性陣についていけなくなったのか、エリネがこちらの輪に
入ってきた。
「ううん。イオンに詩を教えたのは私だけど、私はあくまで詩人よ。ただ、
旅と戦いの中に本当の人間性を見出そうとして、旅をしているの」
エリネに向かって、優しげに言う。
「後は……そうね、私は同時に伝承の研究もしているの。それで、色々な土
地に行って、そこの伝承を聞いて集めるのよ」
『へぇ〜』
エリネと、キリの声がハモる。
「レインは、フォルニアの大学に籍をもってるんですよ」
続けて、イオンが付け加える。フォルニアとは、ここネミラから北に行っ
て山脈を越え、更にディーフェンシェイウンを横断して平原を越えた辺りに
あるエーレ内海に面した王国で、その歴史と文化のレベルでは大陸一と賞賛
される国である。
またキリが質問する。
「じゃ、その研究してる伝承って、一体何なんだい?」
「そうですね……。今現在は、南方大陸の神話を集めているわ」
「南方大陸……の?」
エリネがオウム返しに聞き返す。
「しかし、神話じゃぁ大して面白くないだろう」
キリが再度尋ねる。しかし、レインは首を横に振った。
「いいえ。それが、かなり違うのよ。そうね、一番大きく出てるのでも、せ
いぜいファラリスの軍勢がせいぜいね。後は南方独自の名前ばっかり」
そう言うレインは、とても楽しそうだ。
「へぇー。そりゃ面白そうだな。いっちょ、ここで話してくれないか?」
「あ、私からもお願いします!」
二人から頼まれて、レインはやや困ったような顔をしたが、
「ま、いいですよ。ただ、まだ調査したばっかりなので、詩にも何にもなっ
ていませんけど……」
そう断ってから、レインは語りはじめた。
遥か南方の、神人達の英雄譚を……。

〈続く〉
-----------------------------------------------------------------------

リレー小説目次へ
TRPGに関する情報へ
サイバラのホームページへ

E-mail address : saibara@big.or.jp