序章:旅の始まり


 相変わらず暑い太陽が照り付けている。しかし、海からの風が程よく冷たく、
太陽の熱でほてった肌を冷やしていく。ここは港町のオルグ。ここから出港する
船も多く、人の出入りはかなり激しい。当然のごとくすさんだスラム街も発達し
ている。しかし冒険者にとってはこの上ない情報交換の場である。

 この町の中心から少し外れた場所にある一軒の酒屋。2階以上は宿屋も兼ねて
いて、夕暮れのせまった今の時間、そこそこの賑わいをみせている。今そこに新
たな冒険を求めて1人の若者が姿をみせた。若者はまだ冒険を志したばかりであ
る事が明白な、大きさの合わない中古で安物の皮の鎧、手には鞘に入ったショー
トソード、背中にはシールドと背負い袋といういでたちである。ヘルメットは無
く、顔はむきだしである。髪は長く伸ばしてあり、首の後ろ辺りで黒い皮ひもで
無造作に束ねてある。

マスター「はい、いらっしゃい!おや。新顔だね。冒険がしたいのかい」

若者「え、ええ………」

 若者は心なしか緊張しているのだろうか。初めての酒場だけに、無理もない。

マスター「なにそんなに固くなってんだ?まぁゆっくりしていきなって」

 元冒険者であったマスターは新しく入ってきた若者を頼もしげにながめ、その緊
張をすこしでも解きほぐそうと、終始なごやかに話しかける。

マスター「誰だって冒険を始める時は緊張するものさ。わしだって最初は凄く緊張
 して、店の入り口でいきなりこけたもんさ。おかげて皆からはすぐに知
 り合う事が出来たものだけどな。」

若者「そ、そうなんですか(^^;)」

 若者は少しはにかんだ笑顔をみせた。店のマスターが思ったほど固い人でない事
が分かって、緊張がほぐれたのだろう。

若者「すいません。水を一杯貰えますか?」

マスター「あいよ。水ね。酒はまだ飲んだことがないのかい?」

若者「ええ。まだ酒は飲んだ事がないです………」

男A「おいおい。冒険者になるならまずは酒に強くならねぇとな。」

男B「でも飲めない奴はとことん飲めないらしいけどな。でも飲める酒の量と冒険
   者としての資質には関係がないっていうからな。酒が飲めるからっていい冒
   険者とはかぎらねぇんだよ」

 人の好いマスターの影響なのか、店の客がみんな若者をこれからどのように冒険
者としてたくましくなっていくか楽しみなようである。

男A「まぁ。とりあえず1杯どうや。俺のおごりだ。な?………おーいマスター、
   こいつにエール酒一杯、俺のおごりでやってくれ。」

若者「そ、そんな………結構です」

男A「そんな固い事いうなって。先輩の言う事はおとなしく聞いておくもんやって」

 マスターは苦笑いをしつつも、とりあえず薄めのエール酒を若者の前に置く。

男A「さぁ、ぐいっと。どや。」


………それからしばらくして、外は真っ暗になった頃。


マスター「え?という事は、家出してきたのか?」

若者「ええ。そうなんです。どうしても親が冒険者になんかなるなってきかないの
   で。だけど、やっぱり冒険談と同じような経験をしてみたくて。」

 酒の回りとともに、若者の口もいくらかなごんだようだ。若者が冒険者としてこ
こに来るに至った経緯をマスターはじめ皆に話していた。

マスター「そりゃええ心掛けだな。ただ、親御さんには心配かけんようにな。たま
 に連絡の1つや2つ、してやるもんだぞ。なに、私にまかせておきな。
 この店にいる人はみんな、あちこちに行くからな。そういう人に頼めば、
 どこにでも伝言を伝える事が出来るさ。」

若者「ええ。もし何かあったらお願いします。ところで、今晩、上の部屋に泊まれ
   ますか?」

男A「何固い事言っているんだよ。朝まで一緒に飲み明かそうぜ。な?な?」

マスター「おいおい。からむのもそのくらいにしておけ。初めて酒を飲んだにして
 はもうずいぶん飲んでいるだろう。それに、今日初めて来たばっかりな
 んだ。緊張してたんだろう。疲れるのも無理はない。ほら。21号室の
 鍵だ。そのの階段を登って、すぐ右手にある部屋だ。1人部屋だから、
 ゆっくりしていきな。」

若者「あ、有り難うございます。」

 そう言って若者はそそくさと部屋に消えていった。

マスター「ふふ。かわいい嬢ちゃんだね。」

男A「な、なに、あいつ女だったのか?」

マスター「そうさ。性格は結構男勝りするとみた。だから男に見えても不思議じゃ
 ないけどね。でも私の長年人間を見てきた目は胡麻化せないね」

男A「さすが、マスター、凄いねぇ。でも、あれはあれで結構サマになってたしな
   ぁ。気にいったぜ。俺たちのグループに入れてもいいかい?」

マスター「さぁねぇ。あの嬢ちゃんが何と言うか。でもとりあえず紹介はしてやっ
 てもいいよ。明日の朝、またここに来てくれ。その時に紹介する。」

男A「分かった。それじゃ、酒をもう一杯くれ」


そうやって夜はふけていった………


サイバラ

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