長い内乱の果て、再び統一を果たしたヴァレリア島。
その王都ハイム。
1人の男が街を歩いていた。
全身黒ずくめの鎧。背中には「バカ」がつくほどでかいグレートソード。
「なんだあの男?」
こんな出で立ちでは目立ってしょうがない。
「・・・・・まさか!・・・・そんな・・・
それを見た住人の1人があわてて衛兵所へ駆け込んでいった。
「・・・そうか、わかった。
もしその報告が本当なら、君たちの手には負えない。・・・・・僕が行こう。」
ハイム王城内。
あわてふためいた衛兵が騎士・ラエスニールの元に駆け込んできたのはつい先ほどの事である。
衛兵の報告は、ラエスニールを驚愕させた。
暗黒騎士団の生き残りらしき男を見かけたという報告が入ったというのだ。
暗黒騎士団のほとんどは空中庭園での戦いで死んだ。しかし、騎士団長のランスロット・タルタロスとその腹心はまだ見つかっていない。
ラエスニールを含む騎士団員が全力を持って捜索中だが、未だその足取りをつかめずにいるのだ。
「それでは、こちらでも全力で男の行方を調査します!」
「わかった。見つかり次第、騎士団に連絡を。」
「はっ!失礼します!」
衛兵がでていった後、ラエスニールは腰の剣を見つめる。
ファフニール。「竜殺し」と呼ばれる名剣だ。
「・・・・まだ、平和は遠いのか?」
「なにしょぼくれてるの?」
不意に声がかけられる。
驚いて声のした方を見ると、1人の女性がたっていた。
「アリア・・・・君か。いつからいた?」
「ついさっきからよ。・・・・・大変なことになってるわね。」
アリアは苦笑しながら言う。まるで他人事だ。
「他人事のように。・・・・・まったく、君も近衛騎士団の一員なんだぞ。」
今度はラエスニールが苦笑した。
ラエスニールもアリアも内乱中は神龍騎士団に所属し、英雄デニム・モウンと共に内乱を戦い抜いた歴戦の勇士である。
そのまま内乱終結後は女王の勧めで近衛騎士となっている。
「わかってるわよ。
・・・・・でも、もしかすると相手はあのランスロット・タルタロスよ?・・・・勝ち目は、あるの?」
「わからない。・・・・・でも、僕も竜騎士の称号を持つ騎士だ。遅れを取りはしないよ。
それに、もう争いは終わったんだ。いつまでも奴らをのさばらせるわけには行かない。」
「ふう、・・・・・・昔っからその妙な正義感は相変わらずね。
いいわ、つき合いましょう。確かにあなたの言うとおりだしね。・・・・・・それに、私自身気になることもあるし。」
「気になること?」
「空中庭園跡に何者かが入りこんだらしいの。
・・・・・その報告の前後に、その付近で黒い鎧を着た不審な男がいたって報告が、あるのよ。」
「!・・・・・やはり、暗黒騎士団か?」
「断定は出来ないわ。・・・・・・・でも、可能性は高い。」
「ぐずぐずしてはいられないな。」
そう言うやいなや、ラエスニールは駆けだしていた。
「やれやれ、せっかちなんだから。」
苦笑して、アリアもラエスニールの後を追う。
ガキィン!
なにか、金属同士を強く打ち付けたような音が夜のハイムに響いた。
「この音は・・・・・剣戟?!」
ラエスニールとアリアの元にもその音は届いていた。
「間違いないわね。誰かがこの近くで戦ってるわ。」
「急ぐぞ!」
二人は夜の街を駆け出す。
剣戟の元は、やはり戦闘だった。
黒い鎧を着た男が、盗賊風の男と戦っている。
鎧の男の手には一振りの巨大な剣。
盗賊風の男は手に巨大な棍棒を持っていた。
「二人とも、おとなしく武器を捨てろ!」
ラエスニールが叫んだ。
「あらあら、不意打ちのチャンスが台無し。」
後に槍を構えたアリアが続く。
ラエスニールの姿を認めた鎧の男が叫んだ。
「近づくな!こいつは危険すぎる!」
「遅いわ。」
盗賊風の男が呟く。
低い、この世のものではない、悪鬼の声。
「な、何なの?!」
アリアが驚愕した。否、ラエスニールも驚愕していた。
盗賊風の男が、変貌していく。
皮膚が裂け、翼が現れる。
角が、牙が、男の体から生えてくる。
そこにいたのは、人間ではなく、伝説にのみ語られるオウガ。
まさにそれだった。
「ガルフ・・・・・・蘇ったか!」
強い怒りを込めて、鎧の男が叫んだ。
続く