「久しぶりだね、レイア。」
「イシュカこそ。……5年ぶり、かしらね?」
「もうそんなになるのかい?再戦からさ。
 あいつがでかくなるわけだ。」
「成長期だもの、変わるわ。
 傭兵になったんですってね、息子さん。」
「ああ。私に認められる男になるんだとさ。
 ……『黒の一番』って傭兵部隊知ってるかい?」
「いいえ。
 正直、ATにはもう関わりたくないのよ。」
「ボウで”女狐”とまで言われたやり手マッチメーカーの台詞たぁ思えないね。
 ……やっぱり、あいつのことかい?」
「もう忘れたわよ。
 ……どうせ、”黒い炎”に焼かれたんでしょ。」
「無理はいけないねぇ。
 ……もうじき会えるさ。きっとね。」
「!? …それってどういう意味?」
「さて、ね。
 早めにこの街出ないと息子の入った傭兵部隊に鉢合わせしちまう。早いけど、そろそろ行くよ。」
「思わせぶりなこと言っておいて、そのまま行ってしまう訳?」
扉の閉まる音。後には途方にくれた女が残された。

「青の騎士ベルゼルガ物語外伝」アフターストーリー

アストラギウス暦7215年、ギルガメスとバララントが再戦。
この戦いは数ヶ月で大きく形を変えた。
まずバララントの主星が消滅。そしてギルガメス星は突然の疫病によって沈黙した。
指導者を失った両軍は混乱。各地で独立の気運が高まり軍は分裂、戦争は各地での内戦へと形を変えていった。
それから5年。アストラギウス銀河は群雄割拠の時代を迎えていた。

FirstBlackStory

−再会−

惑星クトスミル。再戦前までは前線から大きく離れていたこともあり、さほど被害を受けなかったこの星。
今ではその豊富な資源を虎視眈々と狙う各国の標的となり、この宙域の火種と化していた。
硝煙の匂いをかぎつけて各地から群がる傭兵という名のハイエナ達。
そんな中に傭兵部隊『黒の一番』の面々の姿もあった。

「黒の一番」(FirstBlack)。ここ5年で大きく成長した傭兵部隊である。(とはいえ、ほとんどの傭兵がここ数年で生まれたものだが)
部隊名と同名の大型強襲陸揚艦とAT1個中隊、専属の整備兵を擁するその規模はすでに傭兵団と言っても差し支えない。
彼らの名を高めているののに一役買ったのは部隊長のシオン=レイヤードであろう。
謎に包まれた過去とその乗機ラフィングドッグの名は半ば生ける伝説として兵達の間で語られていた。
曰く、「同僚とたった2機で敵基地を壊滅させた」
曰く、「軍の機密を盗んで逃走していたが、壊滅したんで表に出てきた」
曰く、「専用機ごと逃走した軍の強化人間だ」
など、眉唾物の話がさらに尾ひれをつけて広まっている。

惑星クトスミルにあるイバキ宇宙港。
「黒の一番」の新しい任務はここの警護と敵部隊の迎撃。
クトスミル1、2を争う激戦区。ここから物語は始まる。

「あれ?隊長は?」
きょろきょろと黒の一番の面々を見渡しながら、まだあどけなさを残した少年がそういった。
他のメンバーと同じく右肩に太い黒のラインが入った野戦服に身を包んだその少年の名はノイス。若干14歳の最年少隊員だが、AT乗りとしての腕前は一流とはいえなくとも見劣りするものではない。
足りないのは実戦経験だけだが、何度かの戦闘を経てそれなりに度胸と自信がついてきた将来有望株である。
「まだ書類が残ってるとよ。」
巨漢が答えた。副隊長のコールである。
「それは大変ですね。
 ……まだ何か残ってたんですか?」
コールの横にいた長い黒髪の女性が答える。エリカ=サウザンクレイン。AT隊の紅一点。
「宙港の駐留許可だとさ。毎度の事ながらどっか肝心なところが抜けてやがる。」
コールが心底楽しそうに笑った。
「隊長がぼやいてましたよぉ。
 コールは雑務処理が嫌で俺を隊長にしたんだって。」
「それについては黙秘権を行使させてもらおうかぁ?」
コールの太い腕がノイスにがっちりとフェイスロックを決める。
「いだいいだいいだいぃぃぃぃっ!」
隊員から笑い声が上がった。

傭兵の集まる場所で繁盛できる職種にまっとうなものはない。
酒場、売春、ヤミの武器屋が相場である。
「ストラックス」もそうした傭兵相手に繁盛しているバーだが、ママのレイア=イアスは赤毛の妖艶な美人で人気が高いがAT乗りを相手にするとすこぶる付きで機嫌が悪くなるので有名だった。
キィ。
「邪魔するぜ。」
乾いた音を立ててドアが開き、ストラックスにコールが入ってくる。
「いらっしゃい。始めてみる顔ね。」
「ああ、しばらく世話になる。」
カウンターにどっかと腰をおろすコール。
「ねえ。あなた傭兵でしょ?」
黒の一番という傭兵隊を知らないか?とレイアが聞こうとしたときだった。
「コール副隊長!一人でさっさと行かないでくださいよ!」
大きな声をあげてノイスが入ってきた。後ろでは何人かの隊員が「しょーがねーなぁ」といわんばかりの苦笑いをしている。
ノイスとレイアの目が合った。
「……あれ?レイア、さん?
 ああ、やっぱりそうだ!お久しぶりです!覚えてますか?ノイス=シュリンクです!」
「ええ。元気そうで何よりね。つい昨日までイシュカさん来てたわ。
 もうどこか別の街に行ったみたいだけどね。」
「母さんが?」
いきなりの事の成り行きに面食らった他の面々を代理してコールが問い掛ける。
「おい、ノイス。知り合いか?」
「ええ。レイア=イアスさんっていって、ギルガメス星で母さんが世話になったこともあるマッチメーカーです。
 それよりもうちの……」
「おい。おまえらなんでこんなところで固まってるんだ?」
入り口付近で聞こえた男の声。
「あ、隊長。」
「なんだ?ノイスか。
 また因縁でもつけられたか?」
入ってきたのは髪を短めに切り上げた一人の青年。年はどう見積もっても20後半を越してはいないだろう。「黒の一番」の所属を示す肩に黒いラインの入った野戦服を着ている。
温和そうな笑みを浮かべ「お人よしの好青年」という言葉がぴったりきそうなこの青年こそが「黒の一番」隊長のシオン=レイヤードだとは誰が思うだろうか。
『あ……』
シオンとレイアの目が合った瞬間、ストラックス内を異様な緊張を伴った静寂が支配した。
……………
しばしの沈黙を破ったのは思い切り引きつった笑いを浮かべたシオンだった。
「や、やぁ、レイアさん。お久しぶり。元気だった?」
スコーン!
次の瞬間、レイアの投げたグラスがシオンの頭を直撃した。

ストラックスは未だ奇妙な緊張が支配している。
発生源の一人シオンはカウンター席の隅で黙々とグラスを傾けているし、もう片方のレイアはこちらも黙々とグラスを磨いているだけ。
「……修羅場、ですね。」
エリカが状況を確認するかのごとく洩らす。
いかな歴戦の猛者ぞろいである黒の一番の面々でもこの状況では難を逃れるかのように隅のテーブル席を占拠してただその様子を見守る事しか出来ない。
「ノイスよ。シオンとあのママ−レイアって言ったな?
 一体どういう関係なんだ?」
小声でノイスに話し掛けるコール。
ノイスは隊内で唯一シオンが傭兵になる前の過去を知っている人物である。
「隊長がバトリングやってた頃、レイアさんが隊長の専属マッチメーカーだったんですよ。それだけだったと思います。」
だが、ノイスとてシオンのすべてを知っているわけではない。
「……なるほどな。納得できたぜ。」
ノイスの声が聞こえた隊員の幾人かがため息を洩らす。
「どういうことなんです?」
「子供にゃまだ早ぇよ。」
ノイスはわけもわからないまま、その言葉に頬を膨らませた。

「それじゃ、隊長。俺ら先行くから。」
ついに雰囲気に負けて他の面々が席を立った。
店内にはシオンとレイアが残される。
「……黙って出て行ったことはすまないと思っている。」
それまで沈黙を保っていたシオンが口を開いた。
「まだ吹っ切れてないんでしょ?
 ポッドベリーがなくなっていたから。」
「……ああ。悲しいかな俺は5年前と何も変わってない。
 迷って、迷って。まだ迷っている。」
「本当に変わらないわね、あなたは。
 迷って、迷って、しょうがないからがむしゃらに前に進むだけ。」
苦笑とはいえ、初めてレイアの顔に笑みが浮かんだ。
「そう言わないでくれないかな?自覚はしてるんだ。」
「自覚があると直りは早いって言うけどね。」
そういうとレイアは店の看板をclosedに変える。
「いいのか?」
「いいのよ。あなたの部隊にひいきにしてもらうから。
 まさかあなたが隊長さんとはね。」
「他のみんなに祭り上げられたただの神輿さ。」
「そうでしょうね。あなたは軍人よりただのAT乗りの方が似合うもの。」
「5年前も言わなかったか?その言葉さ。」
「さあ?
 ここにはどれぐらいいるの?」
「契約は3ヶ月。戦況によっては延長もありうるそうだけど。」
「結構長いわね。また、よろしくね。」
「ああ。」
レイアがグラスに酒を注ぐ。
「乾杯しましょうか?」
「……5年ぶりの再会に。」
「変わらない馬鹿に。」
『乾杯。』


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