彼と、別れた。
「友達に戻るだけ」
「いままでより、それぞれの重荷が少し減るだけ」
「………なにも、かわらないから」
そういったのは、彼だった。
わたしは、彼を好きだった。
でも、その時わたしのこころには別の人の影もあった。
やりたいこともあった。
彼は、あまり束縛しないでいてくれた。
でも、わたしにはそれでも”束縛”になっていた。
だから、別れようと 思った。
一度離れて………友達に戻って。
それでもそばにいたいと思えば追いかければいい。
そう思って、別れたはずだった。
事実、わたし自身はほぼ彼を”友達”として、つきあっていた。
いままでと変わったか、といわれたら「変わってない」と答えただろう。
「かえって仲良くなったような気がする」と。
でも、それは違っていた。
彼は、わたしを「友達だ」とは思って、いなかった………。
別れた後も、「恋人」のフィルターを通してみていた。
わたしも、それはわかっていた。
「彼はわたしの事を友達だとは思えていない」………と。
でも、その”中途半端”な位置が居心地よくて。
わたし自身はなんの気負いもなくいられるスタンスが心地よくて………。
彼の気持ちを、利用した。
「利用してしまっている」という感覚がまったく無かったとはいいきれない。
でも、利用しようと思って行動したことはなかった。
結果的にそれが他人の眼から見たら「利用している」に他ならないとしても。
彼は別れてからも「もう一度付き合いたい」「よりを戻したい」とよくいっていた。
わたしも、彼もことを嫌いになったわけではないし、いまでも好きだ。
好きだからこそ電話での長時間の話もするし、彼に多少束縛じみた言葉をいうこともあった。
でも、”もう一度付き合う”のには、抵抗があった。
それはわたしの中の”付き合う=sexをする関係”というものだった。
わたしはsexははっきりいって好きではない。
というより、おかしな言い方かもしれないが、粘膜の接触が好きではない。
つまり、deepkissすらもできればしたくない、というのが本音なのだ。
ただ、矛盾しているとおもわれるかもしれないが、人肌はとても好きだ。
腕をくむ、手をつなぐ、抱きしめる………コミュニケーションは好きなのだ。
わたしの場合、「コミュニケーション」は友達ともするものなので、彼にも同じように接してきた。
もしかしたら彼はそのせいで、わたしの事を「友達」と思えなかったのかもしれない……
そして、わたしの中には「もっとたくさんの人とつきあってみたい」というひどく傲慢な気持ちも あったのだ。
それは、曲や詞を作る為でもあったが、なによりも自分自身の欲望であったことは否めない。
自分の中の醜い部分は周りには見せず、よい部分だけを強調して。
それが、自分をどんどん汚していくと、わかっていたのに………
そして、彼はパンクした。
「やっぱり、友達には思えない」と。
「別れると約束したけれど、恋人としてみて、接していた」と。
そして「”恋人”に戻っていままでのままでいるのか、”友達”になっていままでとは、違う接しかた にするか………どちらかを選んでほしい」と。
「自分は、できることなら恋人としてつきあっていきたい」………と。
わたしは、選ぶことが、できなかった。
なにもいえなかったのだ。
いままでの”中途半端”な位置が居心地よすぎて。
「今のままがいい」と思ってしまって。
それが、彼にとってどれだけ残酷なことなのか、わかっていた。
それでも、選ぶことはできなかったのだ………
……つまり、わたしは子供だったのだ、ということ。
あれもこれも、とすべてを手にいれなければ気がすまない、大きな子供………
自分では「結構社会を知っていて、しっかりしている」「甘えん坊」「案外わがまま」……
そんな人間だと思っていたが、なんのことはない。
ただ、単純に”精神的に子供”だっただけのことである。
そして、それがわかった瞬間、悲しくなった。
そして、その時に「彼と付き合うのとはっきり別れるのとどっちが得か」という”損得勘定”で動こうとした意識にも気がついた。
自分が、情けなくなった。
こんなにも「よくばり」で「わがまま」で。
人を傷つけてでも、自分が傷つきたくなくて。
どうしようもなく、弱い人間なんだ、と、思って。
堕落して、どこまでも落ちていってしまいそうな気がした。
もう、自分の気持ちすら、わからない。
彼のことを好きなのか。
付き合いたいと思っているのか。
それとも、もう二度と付き合えないかもしれなくても別れる方を選ぶのか。
………ニドト、アエナイト、シテモ、ワカ、レル、ノカ………。
ワカラナイ………………
***
「考える時間、ほしい?」
そうきいたのは彼のほうだった。
わたしは、自分に嫌悪感を感じていた。
そして、なによりも自分自身の気持ちがまったくわからなくなっていた。
だから、彼の問に「うん」と答えた。
「じゃあ、時間をおこう」
「きみが、どうしたいかきめるんだから」
「自分の気持ちは………決まってるから」
そういって、「それまでは、電話も………しないから」
電話は切れた。
切れたというより、わたしから切ったようなものだった。
彼が話している間。
話していない間もわたしは無言でいたのだから。
その夜は やはり眠れなかった。
自分への嫌悪感、彼への罪悪感……… そして別れるか否かの選択。
幾度考えても、結局堂々巡りで結論などでない。
「彼と別れること」
それは今までの関係をすべて断ち切るという意味………
本来なら、最初に”別れた”時にそうなるはずだった状況になる、それだけだった。
でも、別れてからいままで、付き合っていたときと変わらず………
いや、あのころよりもつきあっているような関係でいてしまったから。
いま、この関係が崩れるのが怖かった。
なんて自分勝手な考えだ………
わかっている。
でも………それでも………
付き合っているのではなくても、そばにいてほしかった。
………それが、本音、なんだと思う。
そして翌日。
朝はまるでいつものように「おはよう」のメール。
わたしは、返事を返さなかった。
どうするか。
どうしたいか。
結論などまったくといっていいほどでていない………
「あの時にああしていれば」などと後悔はしたくなかった。
だから、返事は、返さなかった。
”返事を返さない”ことは”結論がでていない”という意味なのだ。
そして、昼。
彼から、電話がかかってきた。 わたしは出るか否か迷った。
こころのうちでは迷ったけれど、手はコールキーを押していた。
「もしもし」
「………はい」
「今日は仕事は?」
「新しいとこの面接いくから………」
「何時から」
「12:50………」
そんな、普段とほぼ同じ会話。
そして、彼はいった。
「昨日のこと、落ち込むことないから」
「昨日はいいすぎたと、思って………」
「きみが、思うとおりで、それでいいから」
わたしは、いった。
「わたしの思うとおり。それはいままでの中途半端なままでいい、っていうことなんだよ」
「それで、いいの………?」
「君が、そのほうがいいのなら、それでいい」
「また、近い未来で、結論がでるかもしれないし………」
「また、近い未来で、結論がでるかもしれないし………」
「………いつもの、元気な君が、好きだから」
「君に落ち込まれると、自分もつらい………から」
………優しすぎる彼。
わたしのことを、一番に考えてくれる、彼。
わたしは………自分のわがままさや優柔不断なところを見せつけられたようで、苦しかった。
でも、その反面、ほっとした。
まるっきり今まで通りにはいかない。
気持ち的に変わってくる部分もあるだろう。
それでも、「今まで通り」でいられることに安心感を覚えていた。