※この作品はフィクションです。実在の人物等とは一切関係ありません。
また作者の偏見が多量に含まれているため、現実とは異なる部分が多々あります。
…将来、現実にならないという保障は一切できませんが。
ふかふか
医者は儲からない職業だ。覚えなければならないことがとても多いくせに、実際に使用
する可能性のある技術はそのうち約5%しかない。さらに開業したとしても、一日に訪れ
る客の数が少ない上に一人あたりの診察代はごくわずかしかもらえないからだ。
前世紀までは、医者は儲かる職業だった。どんな偉い人でも、自分の健康を維持するた
めに大量の金を費やしていた。一国の主の体を何のお咎めもなく切れるのは医者くらいな
ものだった。それが今世紀に入ってからは、種族の多様化によって覚えなければならない
ことが増えたくせに、回復魔法が日常的なものになってしまったおかげで客の数が激減し
た。国の保障もなくなった。猫耳人間に誤って玉葱の成分入りの注射をして数分の呼吸困
難にしてしまっただけで、それから数日は夜中に外を歩けなくなってしまった。
全ては「恐怖の大王」のせいだ。旧暦1999年7月に、様々な世界とつながっている
ゲートが地球上の各地に開いてしまう事件が起こった。ゲート自体は1年で閉じられたも
のの、その間に地球に流入した様々な種族と技術は世界を混乱の渦に陥れた。もともと地
球上にあった技術よりも格段に発達した技術が大量に流れ込み、世界各地で起こった技術
の取り合いは地球の十数%を砂漠に変えた。自動小銃と戦闘機による戦争は一度に多くて
も百人単位の死者しか生み出さなかったが、隕石落下魔法と超広範囲爆弾による戦争は最
終的に約30億人の死者を生み出した。新暦2年(旧暦2002年)に統一連邦政府が作
られるまでに起きたこの大戦争が第3次世界大戦、俗に「恐怖の大王」と呼ばれる戦争だ。
あれから65年。統一連邦政府は地球の建て直しに成功し、人口も約40億人まで回復
した。世界各地の都市は復興し、魔法と科学は旧暦時代以上の平和をもたらした。人権は
様々な種族に広がり、世界統一言語と世界統一通貨もほぼ100%の地域で使用可能にな
った。その一方で、各世界で使われていた言語や通貨も保護されていることを付け加えて
おく。
深沢医院は今日もにぎやかだった。周囲100km以内に医者が一軒もないため、簡単
な魔法で治療できない病気や怪我の患者が24時間待合室で騒いでいた。ちぎれた片腕を
大切に抱えた茶髪の大柄な剣士がいる。片目に眼帯をした狐耳の青年がいる。大きなお腹
を抱えた身長1mくらいの妊婦がいる。一見どこも悪くないように見えるおばさんは世間
話をするためだけによく待合室にいる常連だ。おばさんの話に運悪くつかまってしまった
半ズボンの少年の額には小さな角が生えている。その背後では白い羽の生えた少女が携帯
電話で話をしていた。とにかくにぎやかな深沢医院にはいろんな種族がいろんな理由で訪
れていた。
深沢医院には医者が5人いる。金髪で長身のクリストフ先生は医療機器の扱いに長けて
いて、この世界にある医療機器は全て使いこなすことができる。一見20代後半に見える
が、エルフである彼の実際の年齢は600歳を超えている。小柄で眼鏡をかけた老人のエ
シェーデ先生は薬草を扱う達人である。これでも彼がもともといた世界には植物が全くな
いというのだから驚きだ。シュウ先生は子供をあやすのが上手く、彼の4本の手で操られ
るおもちゃをみて泣きやまない子供はまずいないだろう。4本の腕は手術をするときにも
とっても役に立っている。ヘールディグ先生は回復魔法のプロで、彼女の魔法にかかれば
魔法で治る病気や怪我ならたちどころに治ってしまう。不器用で医療機器が使えないが、
彼女には医療機器など必要ないので問題ない。そして、「ふかさん」の愛称で親しまれて
いる院長の深沢先生は全ての医療技術とほとんどの回復魔法を持ち合わせていて、内科外
科小児科産婦人科消化器科脳外科なんでもござれだ。極東地域で5本の指に入る技術
を持つ我らが街のスーパードクターは、今日も24時間人々の健康を守り続けている。