アナログゲームへの誘(いざな)い M.Morris  アナログゲームというジャンルがある。実はこのジャンル、昔からあったものではなく、デジタルゲームの対義語として定義された言葉だ。だから、電源を使わないゲームがアナログゲームということになる。狭義ではボードゲーム・カードゲーム・TRPGの3種、ちょっと解釈を広げるとオセロ・囲碁・将棋・麻雀・花札などが入り、さらに広げると鬼ごっこやかくれんぼ、サバイバルゲームまで入ってしまう。解釈を広げすぎると野球などの球技も入ってしまう(試合のことをゲームって呼ぶでしょ)が、さすがにこれは広げすぎだろう。  どこまでをアナログゲームと呼ぶかはその場その場で変わってしまい、明確な線引きというのはまず不可能である。球技はまず入れないとしても、鬼ごっこはアナログゲームかという問題に共通の回答は出せない。さらに、オンライン対戦カタンなどはアナログゲームに含まれるのかという別の問題もある。この問題はひとまず置いておこう。  さて、この「アナログゲーム」、実は和製英語である。では何と言えばいいかと探すと、Unplugged Gameという呼び方が見つかる。(コミケのジャンル分けでは、これを和訳して「ゲーム(電源不要)」になっている。)もとはおそらく音楽用語のunpluggedで、これは「スピーカー・アンプ・シンセサイザーなど、電気を必要とするものは一切使わないで」という意味である。コンセントに挿しこむものがplugで、これを使わないからunpluggedである。(余談だが、音楽でunpluggedという場合、たいていは歌+ピアノ伴奏のことを指す。)  しかし、ここで終わってしまってはいけない。僕も最近知ったが、このUnplugged Gameも実は和製英語である。では実際に英語で何と呼んでるかというと、tablegame(テーブルゲーム)という言葉があるくらいで、それより広げようとするとgameになってしまう。まぁ、最近ではAnalog GameやUnplugged Gameという言葉が“逆輸入”されているようで、ゲーム関係の分野ではこれらでも通じることが多いらしい。  前段の問いである「どこまでがアナログゲームか?」への答えとして、このtablegameに含まれる範囲、すなわち囲碁将棋の範囲までがアナログゲームだというのが一般的回答である。  さて、世界で一番遊ばれているアナログゲームは何だろうか。これはあくまで僕の予想で、実際に統計を取ったわけではないが、ほぼ間違いなくplaying cards(または単にcards)だろう。日本語で言うと「トランプ」である。この「トランプ」という言葉は実際には「切り札」という意味で、52〜54枚のカードセットのことを「トランプ」と呼ぶのはおかしいのだが、広まってしまったんだからどうしようもない。また、トランプは単なる道具であり、色々な遊び方があるのだが、まあ「世界で一番遊ばれているアナログゲームはトランプ」という言い方は間違ってはいないと思う。  近年、少年事件の多発で「ゲームは害悪」という主張がまかり通っている。アナログゲームにとってはいい迷惑である。デジタルゲームの大部分は一人で遊ぶものなのに対して、アナログゲームの大部分は相手がいないと遊べない。しかも、ただ相手がいるだけではダメで、相手とコミュニケーションできなければならない。ここが重要なポイントで、逆にいえばコミュニケーションできる相手とちょっとした道具さえあれば、いつでもどこでも誰とでも遊べることになる。(ここ、野暮なツッコミは禁止ね。)  そしてまた、アナログゲームをプレイすることによってコミュニケーション能力が育つというメリットもある。たいていのアナログゲームでは、自分勝手なプレイをしていてもほとんど勝つことができず、相手を利用し時には相手に利用されなければ勝てないようになっている。ここでコミュニケーション能力が重要になり、また育てられていくわけである。  極端な(そして一方的な)言い方をすれば、コンピュータゲームはひきこもりを生み出すが、アナログゲームは社会に順応できる人を生み出す。まあこれは極端な言い方なのだが、はたして逆は成り立つだろうか?少なくとも、アナログゲームを普通にプレイしていて、ひきこもりになった人間を僕は知らない。  おっと、ひとつ重要なファクター(要素)が出てきた。「勝利」である。たいていのゲーム(アナログゲームに限らず)では勝利条件が設定されているが、それとは別に、全てのゲームに共通する勝利条件というものがある。いわゆる「楽しんだ者勝ち」である。これは実際、ゲームで設定された勝利条件よりも重要な勝利条件になる。  考えてみてほしい。ここに2人のプレイヤーがいる。1人はゲームで設定されている勝利条件に達するために、どんなことでも(そう、本当にどんなことでも)やって、そしてゲームで大勝した。もう1人はゲームのルールに従って勝利条件を目指し、結果的には大敗したが、それでもゲームを楽しんでいた。さて、あなたはどっちのプレイヤーを目指す?どっちのプレイヤーと一緒にゲームしたい?そして、最終的に多くの勝利を積み重ねることができるのはどっち?  白状するが、僕は今でもたまに前者のプレイヤーになってしまうことがある。その多くはたまたまそうなってしまっただけだが、意図的に間違ったルールを教え、あるいは重要なルールを教えないことも稀にあった。でもどうか僕を蔑まないでほしい。これは全てのプレイヤーが陥ってしまう穴なのだ。僕らが生物で、他人と競っている以上、少しでも有利になろうとするのは自然の摂理だからだ。  重要なことは、その穴に陥ってしまったことに気がついたら素直に謝り、そうなってしまったことを反省し、そして再び繰り返さないように努力することである。ほとんどのプレイヤーは、ちょっとしたペナルティだけで許してくれ、そして再び一緒に「楽しんだ者勝ち」の勝利条件を目指すことに協力してくれるはずである。  長々と書いてきたが、結局のところ重要なことは「楽しむこと」である。自分が楽しむための一番の方法は、一緒にプレイしている人が楽しくプレイできるように配慮することである。みんなでゲームを楽しもうではないか。  ボードゲームの中にはひとつウン千円の物があるが、楽しむためにわざわざ買う必要はない(あれはより多くのゲームを楽しみたい人用です)。一組百円のトランプで十分である。ちょっとした空き時間、夕食後、あるいは休日に。家族や友人とトランプで遊んでみてはどうだろうか。忘れかけていた楽しさが、きっとそこにはあるだろう。 ----- おまけ。 ひっそりとアナログゲーム関連のHPを開設しています。お暇な時にでもどうぞ。  http://www.trpg.net/user/morris/