Opening  臨検
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●Prologue

  その船は素晴らしい速度で星の海を渡ってゆく。
  スターボウがきらめき、星の光がいくつもの軌跡を残して流れてゆく。
  船長席に腰掛けていた黒髪の美女は、銃をいじる手をしばしやめ、その光景にみとれた。
  その髪と同じ、ぬばたまの瞳に、星のダンスの光景が映る。
  エンシェントシップ、<レディー・アイリス>。
  はるか昔のオーバーテクノロジーによって建造されたこの船は、100光年もの距離を、ものの1時間で駆け抜ける。
  最新の戦艦といえど、10時間以上はかかる距離だ。
  「…………どうしたんですか?  Masterカナミ」
  背中から不意に声をかけられ、彼女は振りかえった。
  ふわっとした空気の流れとともに、ブリッジの空間に中華風の衣裳をまとった少女が現われる。
  すみれ色の髪と瞳。どことなく神秘的な印象を与えるのは、その姿がホログラフだからだろうか。
  「おどかさないでよ、ディーナ」
  黒髪の女性……カナミは、はにかみながら言った。
  「Masterでも星に見とれることがあるんですね」
  「わるかったわねェ……ところで、目的地到着までは?」
  「624カウント。約10分です」
  答えは即座に返ってきた。ディーナはこの船のブレイン。航法計算など、お手のものだ。
  「あいつら、どうしてる?」
  「パルスレーザーの点検で船外活動中です」
  「あ、そう。きりのいいとこで戻ってくるように伝えてちょーだい」
  「わかりました……そうそう、Master」
  「なあに?」
  ちろ、と舌を出してディーナが言う。
  「さっきの顔、すごく可愛かったですよ。今度彼らの前でやってあげれば……」
  「だーっ、バカ言ってんじゃないの!  とっとと連絡して!」
  顔を赤らめるカナミ。こういう時だけは年頃の娘らしい表情をみせることを、長いつきあいでディーナは知っていた。

  「ふぇっくしょいッ!……くそったれ、だれか噂してやがる」
  「うるさいぞ、フェイル」
  宇宙空間では音は伝わらない。だが、船外活動は二人一組が原則だ。仲間の無線には響く。
  「なんだよ、それなら無線きっておけよ、カリス」
  「そんなことして何かあってみろ」
  「どうなるんだよ」
  「たいへんだ」
  「………………」
  冗談なのか本気なのか判然としないカリスの答えに、フェイルはしばらく呆れたものの、すぐに愚痴を再開した。
  「……くそっ、なんだって大砲のレンズ磨きなんて……」
  いま彼らがやっているのは、パルスレーザー砲のレンズ掃除である。特製のモップをもって、ごしごしと、しかし、傷つけないように繊細に磨く。
  掃除をおこたるとレーザーは使い物にならなくなる。とはいえ、きつい仕事には変わりない。軍隊では懲罰を受けた兵士か新兵がやる仕事だ。
  「なぜか?  しれたことだ。おれたちは居候だからな」
  「それはアンタだろう。オレは、このチームの一員だぜ」
  「なにを言う。三杯目のシチューはぐっと出すくせに」
  「……カリス、あんたヤる気なのか?」
  「モップでよければ相手しよう」
  「……オーケー」
  宇宙モップをかまえてにらみ合う二人。しばらく沈黙がながれた後、身をかがめたフェイルが走り出す。
  「てりゃあああああ!」
  と、二人の対決に能天気な電子音が割りこむ。
  「ぴろぴろぴ〜♪」
  「おや、ディーナからだ」
  「あ、ちょっと、おい! うわぁぁぁぁぁぁぁ」
  ひょい、とよけるカリス。体勢をくずしたフェイルは、そのままレンズの上をすべってゆき、反対側のへりにぶつかってとまった。
  命綱がなければ、そのまま飛ばされてハイパースペースの放浪者になっていたかもしれない。
  「ててててて……よけるなよ!」
  「フェイル、あと10分で到着だそうだ。船内に戻ってこい、だと」
  そう言うと、カリスはさっさとエアロックへ跳んでいった。
  「おい、待てよ、カリス!  くそ、勝負はついてねーぞ!」
  あわてて後を追うフェイル。なんだかんだで仲はよいのかもしれない……


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