男の友情
8/11 21:03
彩美はドアをノックする。ドアの中から、体格のいい男が出てきた。
彩美は黙って警察手帳を提示する。
「参考人として任意同行してください」
事務的な言葉に、男は眉をしかめた。
「何で俺が? 犯人は……」
「『身長は180ぐらいで、パンチパーマに赤いシャツ、紫のズボンにエナメルの靴をはいていた。がっしりとした体格で、強面の男。左耳に二つのピアスをしていた』。夜でアルコールが入っていたにもかかわらず、ずいぶん詳しいじゃないか」
「は?」
「人間の記憶なんて、いい加減なものなんだよ。そこまで詳しい様子を、寮生全員が判で押したようにに同じように証言する。カセットテープか、おまえら」
「……」
「同時に、近くにいたはずの大声で騒ぎ立てていた学生の集団を、寮生全員声すら聞いていない。この二つの相反する証言から導き出される結論はただひとつ。ヤクザ者など最初から存在しなかった。おまえらが寮生や友人らに口裏を合わさせて作り上げた、架空の人物だ。そして真犯人は、その影に存在を隠匿しようとした……」
いきなり、男が殴りかかる。彩美は身をかわすと、男の顎にカウンターパンチを叩き込んだ。
「なめるなよ。世の中っていうのは、意外と見ていないようで見ているんだ。おまえらを割り出すのに、1時間もかからなかったよ」
ばたりと、男が倒れる。その音を聞きつけて、別の部屋から手にバットやナイフを持った男たちが、わらわらと出てきた。
「先輩をよくも!」
「やっちまえ!」
口々に勇ましいことを言う男たち。彩美は携帯用特殊警棒を伸ばすと、怒鳴りつけた。
「できるものかよ、おまえらごときに!」
8/11 21:45
「なんかこう、気持ちいいくらいに暴れたね」
一佐は呆れかえった。男子寮はぼろぼろであり、寮生たちはパトカーではなく救急車で運ばれていっている。彩美は怪我どころか、服装の乱れもない。
「なにかこう、最近ストレス溜まっていたの?」
「別に。合理的判断のもとで行動しただけだ」
彩美はさらりと流す。応援に駆けつけた警官に挨拶すると、なにか事務的な打ち合わせを済ませた。それを終えると、一佐を手招きする。
「健全なる精神は健全なる肉体に宿る、とか言うが、体育会系クラブによる集団暴行はなかなか減らないな。今回もそれで落ち着きそうだ」
「典型的な発揚者、情性欠如者だね。自己愛が成長し、自分の身近な存在ー家族や仲間などーにも愛他的行動が及ぶようになるが、成長はそこで止まっており、それ以外の存在には全くの非情。何をしても全く罪悪感を感じない」
「むしろ、罪を共有することにより信頼感が深まるというわけか。お子様なんだろう。要するに」
帰りは送ってやる、と彩美は一佐を車に案内する。
「隠蔽、偽証に関わった人間は100人に達する。それだけの人間が、事件を知りながら、誰一人として警察になにも言わなかった」
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