男の友情
8/11 18:21
夕暮れ時。帰宅途中の瀬川一佐(せがわ・かずさ)は、知人の姿を見つけた。
「藤倉彩美(ふじくら・あやみ)巡査部長、ここらでなにかあったの?」
声をかけられた女性は、ぎろりと一佐を睨む。
「昔から言っているが、階級で呼ぶな。捜査のときは特にな」
「どうしたんだ? 俺の彩美」
ごすっ。
彩美の拳骨が一佐を直撃する。
「痛いじゃないか」
「痛くしたんだ」
「するな」
ふん、と彩美は鼻で笑う。
「で、なにかあったの?」
「ああ」
彩美は道路脇に設置されている自動販売機で、缶コーヒーを二つ買う。
「ほら」
彩美の投げてよこした缶コーヒーを、一佐は空中でキャッチした。
周囲に人影の無いことを確認すると、彩美はここ数年開いているところを見たことないかまぼこ屋のシャッターに背中を預ける。一佐もそれに倣った。
「この近くの学生街で暴行殺人事件が起こった。被害者は学生の女性。時刻はおとといの深夜23:00ごろ。遺体からはアルコールが検出され、酔っていたと推測される。犯人は複数であると見ている」
ふむ、と一佐はコーヒーを飲みながら話を聞く。
「聞き込みによると、ガラの悪いヤクザ者が目撃されている。同時に大学生の集団らしきものも近くにいたらしい」
「新法の絞めつけも厳しいだろうに。しかし、ずいぶん集団の密集した現場だな」
ふう、と彩美は息をつくと、コーヒーを一口飲んだ。
「目撃者も多いし、簡単にけりがつくかと思ったんだが、捜査がここから進まない。そのヤクザ者も大学生の集団も見つからなくてな」
「重要な参考人、あるいは容疑者ってわけか」
「ああ。これから、聞きこみのしなおしだ」
「その前に、もう少し詳しく聞かせてよ。具体的に誰が、どういう証言をしたの?」
ふむ、と彩美はノートを取り出す。
「これは犯行現場の近くの学生寮での証言だ。ほぼ犯行時刻と同じころ、女性に絡んでいるガラの悪い男を見たらしい。身長は180ぐらいで、パンチパーマに赤いシャツ、紫のズボンにエナメルの靴をはいていた。がっしりとした体格で、強面の男。左耳に二つのピアスをしていた」
「……それは、どのくらいの人が証言しているの?」
「学生寮の人間全員だ。外見服装、全て全員の証言が一致している。また、絡まれていた女性の外見服装の証言も、完全に被害者のものと一致している。が、この男に関する情報は他では得られなくて、捜査が止まっている」
「ふむ」
彩美はノートのページをめくった。
「もう片方だが、付近の住民が現場付近で大学生の集団を見ている。まあ、見ていると言ったものの、深夜に酔って集団で歌をがなり立ていたのを聞いた人がいるとか、騒ぎ立てているのをちらっと見たとか、そんなレベルだが」
「迷惑な連中だな」
「捜査中に階級で呼びかける民間人と同じくらいな。警官だとばれて犯人に逃げられることもあるんだ。やめてくれ」
「わかったよ」
彩美は飲み終わった缶コーヒーの缶を捨てる。
「で、こちらは証言がまちまちでな。人数は3から10人」
「幅ありすぎ」
「まあな。全員体格はよかったそうだ。顔つきや服装などはあまり有力な証言が得られていない」
「まあ、夜だからね」
「ああ。で、こいつらならそのヤクザ者の詳しい目撃情報を持っているかもしれないと思って探しているんだが、なかなか見つからない。ヤクザ者を見たという目撃者も、こっちは全く見ていないらしい。酔って徒歩で帰っているのならば、この辺に住んでいると思うのだが……」
「まあ、そうだろうね。司法解剖は?」
「まだ詳しい結果は出ていない」
「そう。その結果が出ればはっきりするだろうね。まあ、犯人はわかっているが」
続く
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