月に一度の心掛け


 赤宮瑠香が外出から戻ってくると、刀治圭はキッチンでパスタを茹でていた。
「へぇ。珍しい」
 普段家事と無縁の男の様子に、瑠香はからかう。そのまま、
「手伝うわ」
 壁にかけてあるエプロンに手を伸ばす。
「いや、もう終わる。どうせ、たいしたものじゃないし。それより、宮古を呼んできてくれ」
「あの娘、いるの?」
 週の半分ほどは家事をしている圭の妹の名を聞いて、瑠香は首をかしげる。
「ああ。部屋にいる。寝てるかもしれないけど」
「病気?」
「持病らしい」
 あの娘、そんなの持ってたの? と不思議に思いながら、エプロンはもとあった場所に戻し、キッチンを出て宮古の部屋に向かう。

「宮古、入るわよ」
 一応断ってから、ドアを開ける。
「起きてる?」
 ベッドの上から、唸り声のようなものが聞こえてくる。
「う?」
 機嫌悪そうな宮古が、布団の下から睨んでくる。なんか猫に似てるな、と瑠香は思う。
「なにか用?」
「圭がご飯できたから来るように、って言ってたけど。食べれる?」
「……行く」
 宮古はそう言うと、のそのそと、ベッドから起き上がってくる。
「どうしたの? 風邪?」
「別に。どうもしない」
 宮古は不機嫌そうに、バスのような猫を柄がプリントされたパジャマのまま部屋を出ようとする。
「待ちなさい。圭を萌え殺す気? せめて着替えてからいきなさい」
「むー」
 宮古はカチンときた様子で、瑠香を睨むが、大人しく従った。おや珍しい、と瑠香は思う。いつもなら、一言二言文句が出るはずなのに。
「本当に具合悪そうね。病院行ったの?」
「病気じゃ、ないから」
 宮古はぼそり、と呟いて、クロゼットを開ける。
「え?」
「ただの、生理現象だから」
「あー」
 なるほど、と瑠香は納得する。

 宮古が瑠香に付き添われて、ふらふらとキッチンにやってくる。テーブルの上には、クリームソースのパスタが3人分用意されている。
 ふらふらと、宮古は瑠香に椅子に座らせられる。
「いつの間に仲良くなったんだ?」
 普段仲の悪いふたりに、圭は意外そうな顔をする。
「うー」
「ま、弱っているのを痛めつける趣味は、持ってないしね」
 唸る宮古に、瑠香が意地悪く笑う。
「それに宮古も、お兄ちゃんにも相談できないことも、色々あるみたいだし」
「瑠香っ!」
 焦るような宮古の言葉に、瑠香は声を立てずに笑った。
「後で薬を買いに行くわ。車を出してくれる」
「ん。別にいいけど」
 瑠香はくるくると、上機嫌にフォークにパスタを絡める。
「ん。圭にしてはまともにできてるじゃない」
「市販品だからな」
「今度色々教えてあげる。と、いうか、キッチンにある本読んだら作り方は書いてるわよ。わたしも、そのとおりにしているだけだし」
「作るのめんどくさい」
「たわけめ」
 瑠香は食事をしながら、一生懸命食べている宮古を見て、口元をほころばせた。
「ま、後片付けはわたしがしとくわ。ご苦労様」

クリエーターズネットワークテーマ『月』参加作品。

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