スノビズム


 

6/8 20:56


 彩美がバスルームに消えていくのを見ると、一佐は彩美の鞄に手をつけた。その様子を、弥生がとがめるように見る。
「なにしているのよ」
「情報収集」
 それだけ言うと、一佐はぱらぱらとノートをめくる。
「彩美さんは優秀な人だからね、既に犯人を絞り込んでいるようだよ」
 そう言って、ノートを広げて弥生に見せる。
「事件当時、被害者と接触する可能性のあった人間はこの三人」

鈴木秀雄(22) 男
 城北大学四年生。
 資産家の息子。金遣いが荒く、高級外車を数台乗り換えたり、マンションを住み替えたりしている。派手好き。
 女性関係も多く、被害者とも関係があったと見られている。
 『めぞん・どーる』303号室在住。事件当日21:00頃マンション入り口の防犯カメラで帰宅を確認。一人暮し。アリバイなし。

「この男、刺すより刺されそうな男ね」
 弥生が顔写真を見ながら、つぶやいだ。顔を見る限り、二枚目の優男である。
「刺されそうになって、刺し返したとか」
「部屋に乱闘のあとは見られないわね」
 弥生はいつのまにか、別のページもぱらぱらと見ていた。
「乱闘しても、片付ければいいんじゃないのか?」
「鑑識がそこまで無能だとは、思えないわね」
「次行こうか」

樋口聡子(26) 女
 被害者と同じバーのホステス。第一発見者。被害者とは友人関係。
 経済状態は普通。両親に仕送りも行っている様子。
 『めぞん・どーる』102号室在住。事件当日は、昼間に一回出かけたきり。
 一人暮し。アリバイなし。

「この人物に、被害者と性交は無理ね」
「どうかね。被害者から精液は検出されていない。場合によってはありえる」
「あのねえ」
 弥生は頭を抱えて、ページをめくる。
「この人には、動機はなさそうね」
「誰が何を考えているかなんて、わからないさ。殺人の動機なんて、大概は他人から見ればくだらないものばかりだしな」
「なんでそんなことばかり言うのかしらね、この男は。次」

鷲田謙太郎(38) 男
 某大企業重役。会社内での評価は高い。被害者とは愛人関係。妻子あり。
 近郊に一軒家を所有。
 事件当日、21時頃マンションに入っていくところが入り口のカメラで確認されている。23時頃マンションを出ていっている。

「愛人関係、ねえ。男ってなんでこうなのかしら」
「この際男女は関係ないだろう。そしてなぜ俺をにらむんだ?」
「……別に」
 弥生は不機嫌な表情のまま、腕を組む。
「愛人関係のもつれ、が考えられるわね」
「金で解決しろよ。もともと、金で結ばれたものじゃないのかな」
「……一佐、人間は感情の生き物よ」
「知ってる」
 一佐は現場の写真と資料が添えられたページを開く。
「どう思う?」
 弥生は、写真と資料を見比べる。
「被害者は背後から、首を一突きされて死んでいるわね。即死。場所が居間であること、背後から襲われていることから、顔見知りの犯行と考えられる。部屋に争った形跡はない。物取り目的のために荒らされた形跡はある。被害者の着衣に乱れなし……一佐はどう思うの?」
「そうだね」
 一佐は食べ終わったカレーの皿を流しにつけると、居間に戻りながら考える。
「犯人はこれが初犯。遅発持続型。性格は情性欠如者で、自己合理化を行っている。あるいは境界例性格障害。自己顕示者。犯行は計画的。恐らくは職業犯罪。現代的犯罪者タイプ。幼少期に親に拒否されている可能性がある。そして、これらのプロファイルに該当する容疑者はただひとり」
「ほう」
 いつのまにか、綾美が裸のまま、バスタオルで頭をふきながら、一佐の後ろで話を聞いていた。
「え?」
「ふりむくな」
 ばっこん。

 続く
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