文明の利器
4/21 23:36
大型のライトが夜闇を照らし出し、その下で制服姿の警官が動いている。
「せーの!」
数人の制服警官が投げやりな掛け声をかけると、ロープを引く。ずぶずぶと音がして、池から若い女性の死体が上がってきた。
「ああ、何でこんな日に限って夜勤なんだろう」
「うっ。当分肉食えねえよ」
「貴様らぶつくさ言うな」
制服警官たちのうめき声の中、死体が水揚げされていく。
一佐は警官たちの中に知った顔を見つけて、声をかける。
「藤倉彩美(ふじくら・あやみ)巡査部長」
声をかけられた若い女性刑事は、一佐の方に歩み寄る。
「階級で呼ぶな一般人」
「彩美、良い夜だね」
「眠いんで、くだらない冗談に付き合っている暇はない。とっとと説明しろ」
「俺も眠い」
一佐は軽くあくびをする。
「ここから、しばらく歩いたところに犬の死体がある。車に轢かれた形跡があるが、その轢かれた回数は一度や二度ではない。そして、ここから女性の遺体が発見された。遺体の死因を見れば、この二つのフラグメントをつなぐオブジェクトはただひとつ」
「池の中に死体があると、なぜわかった?」
「サイコメトラがいてね」
「なに?」
「いや、池の周囲の手すりのところに、水と泥と血の跡がついていた。あと、地面にもね。かすかに、だけど」
「間抜けな話だ」
「同感だよ」
一佐はため息をつく。
「犯人は、向こうで犬の散歩中の被害者を、車で轢き殺した。犯人は被害者をその場で車のトランクに詰め、犬を解体して人間の血を隠蔽しようとした。そして近くのこの公園で、二手に分かれる。片方が池に遺体を沈めて処理している間、もう片方は公園の入り口で見張りをして、携帯電話で連絡を取って目撃者に備える……」
不意に、彩美の無線機が鳴り、一佐の言葉をさえぎる。彩美は無線機の言葉に耳を傾け、うなづいた。無線はすぐに切れる。
「犯人、捕まった?」
「ああ。検問に引っかかった。飲酒運転で、法定速度の60キロオーバー。暗く見とおしの悪い道路で、轢いたらしい」
「莫迦か」
「世の中莫迦が多すぎる。これから調書取れるか? あまり時間はかけさせない」
「帰りの電車がなくてね。帰り送ってくれるのなら」
「おまえの連れはな。おまえは歩いて帰れ」
「ひどい」
「なんなら、一泊してもかまわないぞ。深夜の公園で女の子と、なにやってたんだか」
「あのね……」
一佐は、遺体の女性に手を合わせている和奈に、声をかける。そのまま、彩美と並んで公園の前に止まっているパトカーに向かう。彩美はいらいらしながら、ため息をついた。
「戦争や災害があったわけでもないのに、年間一万人以上が死んでいる。怨恨も、殺意もなくな」
「やってらんない、よな」
一佐の言葉に、彩美は憮然とする。
「それでも、やらねばならない」
「……彩美さんのそういうところは、尊敬に値すると思うよ」
「なんだ、気持ち悪い」
「素直に喜ぼうよ」
一佐は空を見上げる。数億年前に発せられた光が、人間たちの営みと無関係に光っていた。
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