くま狩り


「くまを狩りに行こう」
 唐突にそんなことを口走った刀治圭を、赤宮瑠香はきょとんと見つめた。
「は?」
「だから、くまを狩りに行こう」
「くまって、あのがおーっていうくま?」
「がおーで判別ができるかどうかはわからないけど、多分そのくま」
 夕暮れの教室。電波な会話を繰り広げる、ふたりのお年頃の高校生の男女。
「山にでも行くの?」
「いや、川」
「???」
 瑠香は頭の中に、川で鮭をとっているくまの姿をイメージする。右手をぴっと鮭を捕まえているくまの腕を真似て、左に素早く振る。
「これ?」
「それそれ。わかっているじゃないか」
「いや」
 わかんねーよ。
「ほら、早く行こう。急がないと、絶滅してしまう」

 どんどんどん。
 火薬の破裂する音と、焼けた匂いがあたり一帯に立ち込めた。
 その中、瑠香はライフルを構えて、くまを狙う。狙いは額。一撃で決める。
 ぽんっ。
 間抜けな音がして、コルク弾がテディベアの額を打ち抜く。哀れくまは倒れ、棚から墜落して行った。
「大猟大猟」
 圭は輪投げやら射的やらでせしめた大量のくまのぬいぐるみを紙袋に入れて、なにやら喜んでいる。
「これは、どんな趣向?」
「いや、妹がくまのぬいぐるみを欲しがってるんだよ。でも、買うと高いだろう」
「あー、そう」
 瑠香は呆れて、怒る気にもならない。
 どんどんどん。
 頭上では、延期に延期を重ねた季節外れの花火が、空を飾っている。
「でも、わたしが狩ったものよ?」
「出資したのは俺だ」
 言い争いながら、並んで河川敷での花火大会の中を歩いていく。

クリエーターズネットワークテーマ『クマ』参加作品。
目次へ戻る
一行掲示板に感想を書く