彼女の相手は、小舟に荷が勝つ

注意:これは「梅雨中の雷は晴れ近し」の後で、「くま狩り」の前の話になりますが、あまり気にしないでいいです。


「そういえば、一緒のボートに乗ったカップルが分かれるって言い伝えって多いわよね」
 休日。ふたりっきりで、公園の池のボートの上。赤宮瑠香はそんなことを呟いた。
「突然、何を言い出す」
 憮然とする刀治圭。ボートに乗りたいと言い出したのは瑠香自身なのに、そんなことを言えば、彼の機嫌も悪くなるというものだ。
「なんとなく。どうしてかしらね?」
 微妙な関係での、微妙な会話に圭は眉をひそめる。
「それはあれだろ、乗ったはいいけど、ボートの操縦がうまくいかずに、喧嘩になるからだろ」
 ぎぃ、と圭は一回力強くオールを漕ぎ、後は流れるままに任せる。細かいことを気にしないのがコツらしい。
 瑠香は成程、と頷いて、
「じゃあ、カップルってどうしてボートに乗りたがるのかしら?」
「……瑠香は、なんでボートに乗ろうなんて言い出したんだ?」
「いや、世間一般として、そういうものかなって思ったから」
「……無理して、そういうのにあわせなくていいぞ。無理させても、俺も嬉しくないし」
「うん。でもまあ、世間一般的なものも、やってみたかったから」
 瑠香はお互い不器用だな、と思いながら、湖面を眺めた。定番のデートスポットらしく、楽しそうにボートに乗っているカップルが何組か。それなのに自分たちは、それらしい会話もできない。
「まあ、理由としてはあれだろうな」
 圭の言葉に、瑠香がふと視線を上げる。
「吊り橋理論とかいって、揺れるものの上に二人でいると、恋が芽生えるんだそうだ」
「それは、カップルになるために乗る理由にはなっても、カップルで乗る理由にはならないわね」
 冷たい瑠香の言葉に、それもそうだな、と呟く圭。そのまま、左手のオールに力を入れた。ボートは緩やかに右側に弧を描き、水面を滑る。
「でもまあ、思うにボートがうまくいかない程度で別れるなら、所詮その程度だってことじゃない? 人生には、もっとうまくいかないことだってたくさんあるんだから。ボートで別れるだの、成田で別れるだの、所詮そこまでのことだったってことよ」
「瑠香は手厳しいね」
 圭の言葉にそうかしら、と呟きながら、瑠香は視線を下に向けた。ゆらゆらとゆれるボートの上、はぁ、と吐息をついて、青い顔で両手で顔を覆う。
「……どうかしたのか?」
「……酔ったみたい。気分悪い。なんかもう、あなたのこと嫌になった」
「池に叩き込むぞ」


クリエーターズネットワークテーマ『小舟』参加作品。
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