刃なき剣持ちし法の王 (ファイル3)


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『以前出合っている』。なんのとこだ? 「貴様には覚えがないようだがな。だが、たしかに我と貴様は出会っている。隣の聖女にでも聞いてみるんだな」
 クリスはメイリアを見た。
 メイリアはドラゴンを睨んでいた。
 クリスの視線には答えない。
「まぁよい。些細なことだ。それよりももっと重要なことがある。我の提案を受け入れるのなら貴様らの身の安全は保障しよう」
「何を言う。父、父上の敵がーっ」
「ちょっと落ち着け。気持ちはわかるから話だけは最後まで聞け」
 クリスはガーネットを抑えた。
「そこのガーネット嬢を我に献上せよ。しからば他のものには手を出さぬと誓おう」
「……献上って、何するんだよこんなのもらって」
「こんなのとは何じゃっ!」
 ガーネットが怒った。
「あの馬鹿ドラゴンは、年端の行かない少女を氷漬けにして巣に飾って鑑賞するのが趣味なのよ!」
「うわー」
 クリスはうめいた。
「なんて非生産的な」
「……そこか、そこなのか突っ込みどころは」
 メイリアがじとーっとクリスを見る。
「ちがう?」
「普通は、『そんな邪悪なことは許せません』とかいいなさいよ捜査官」
 いやだってさ。
「飾って楽しいのか?」
「振るな、こっちに」
 首を逆にひねってガーネットを見る。
「そのような戯れ言聞く耳持たぬ」
 正面に戻す。
「何故理解できぬのか?」
 ドラゴンに表情があるとしたら、アレが真顔ってものなんだろう。とクリスは思った。
「……まぁいいや」
 クリスはため息をついた。
 とりあえず氷龍の提案は、族長としては考慮に値するが人間としてとても飲めない。
「とにかく、貴様はわらわが倒すのじゃ」
 ガーネットが叫んだ。そして、メイリアをみて言葉を続ける。
「あやつはわらわ一人で十分じゃ。そこで見ているがよい」
「お、おいっ」
 クリスは叫んだ。それはいくら何でも無茶だ。
「父の敵。わらわの槍、その身体で受けるがよい」
 ガーネットは槍を掲げて高らかに宣言した。穂先が燃え上がる。
 ガーネットは走り出した。
「くっ。行くぞメイリア」
「うん」
 クリスとメイリアは並んでガーネットの背を追いかけた。
「なんであんな無茶なことを」
「誰かさんが鈍感だからみんな苦労するのよねぇ」
「誰が?」
 メイリアは答えなかった。
「愚かな。氷漬けになって頭を冷やすがよい」
「凍ってるときって意識あるのかな?」
 メイリアが走りながら疑問を口にする。
「知らん」
 クリスは会話を切って意識を前に向けた。
 氷龍はブレスを吐いた。
 ガーネットはそれを火槍で切り裂く。
 氷が直接蒸発していく。
 左右から鉤爪が来る。
「メイリア、頼む」
「聖女メイリアの名において願う。世界をつかさどる七つの精霊よ。かの武器に聖なる祝福を」
 祈りながらメイリアは光翼を展開。
 左の鉤爪を受け止める。羽が衝撃で飛ぶ。光に変化して消えていく。
「よ、よけいなことをっ」
 ガーネットが叫んだ。
「いいから。敵に集中するっ!」
 クリスは剣を抜いた。
 ガーネットの前に出る。
 煌々と輝く白い光の刀身で右の鉤爪を受けた。
 胴体ががら空きだ。
「いけーっ」
 ガーネットは氷龍の腹めがけて槍を伸ばす。
 槍が龍の腹に当たる。
 ドン、と大きな音がし、脇腹に機械でくりぬいたような綺麗な大穴が貫通した。
「この程度か?」
 ドラゴンの喉から声が漏れる。
 クリスの眼前を、白い帯が覆い隠した。
 それは氷でできた尻尾だった。
 尻尾がガーネットを側面から質量で叩き飛ばした。
「のわわーっ」
 攻撃直後、死角からの一撃によけられもせずにまともに食らった。
 槍がガーネットの手から離れる。
「愚かな人間よ。これが我の奥の手じゃ」
「それ手じゃなくて尻尾うわっ」
 戻る尻尾がクリスを襲う。
 クリスは鉤爪を押して、その反動で下がった。
 鼻先を尻尾が掠めた。
「まったくもーっ!」
 メイリアは拳を構えた。右手が白く光っている。
 魔力を込め、踏み込んで龍の腹を一発殴った。
 聖女の、本来は治癒力に使うはずの魔力を拳一点に込めた一撃だ。
 白い光が吸い込まれる。
 ぼぐっ、と重い音がして龍の身体が一部にひびが入った。。
 だがそれだけだ。
「効かぬぞ、聖女」
 ドラゴンの鉤爪に殴られてメイリアは吹き飛んだ。
 メイリアはころころ転がったが、すぐに起き上がる。
「メイリア。大丈夫か?」
「大丈夫よっ」
 ガーネットを横目で見る。
 立ち上がろうとしているが丸腰だ。
 氷龍はブレスを吐いた。
 ガーネットは転んでおり、冷気を切り裂く槍も手元にはない。
 クリスがかばうには遠すぎる。
 ガーネットは膝を突いた状態で凍り付いた。
「ふむ。もうちょっと美しい姿勢で永久保存してやろうかと思ってはいたが……これはこれで萌えるか」
 クリスとメイリアは並んで構えた。
 龍の脇腹の大穴。腰の部分が半分ほどえぐれている。
 あそこに何とか一撃当てれば何とか倒せるかもしれない。ガーネットの槍ぐらいの威力が必要だが。
 打つ手がなくて二人は動けない。
 氷龍は口を開いた。
「これで解ったであろう。汝らでは我には勝てぬ」
 鉤爪で凍ったガーネットを器用に引っかけ持ち上げる。
「一週間後、再び来る。そのときまでに子供たちを差し出すか、村一つ全滅するか選ぶがよい」
「待て、ガーネットをどうするつもりだ」
 クリスが叫んだ。
「我が巣で永遠に飾っておいてやろう。この姿のままな」
 氷龍は翼で羽ばたくと飛び上がった。

続く


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