原文はこちら。鷹見一幸先生の指摘はこちら
書き直したのがこっちで。鷹見一幸先生のさらに突っ込みはこちら
さらに書き直したのがこっちで。鷹見一幸先生のさらに突っ込みはこちら
まず、指摘された部分である序盤だけ直すことにする。
日もとっぷりと暮れた夕食時。
孤児院の広間では、机を輪のように並べて、二十人ほどの子供たちが座っていた。
複数のランタンと暖炉の暖かな火に照らされた子供たちの顔は生き生きとして、実に楽しそうに料理を口に運んでいる。
そんな子供たちを、リルリィーアは優しげな微笑を浮かべて見ていた。
そんな中、一人だけ顔をゆがめている女性がいた。リルリィーアの隣に座った、親友のノーラが、親の敵のように皿を睨んでいる。
魚を半分残して、フォークが止まっている。珍しい。いつもの彼女だったらぺろりと平らげてしまうというのに。
「食欲がないの?」
リルリィーアは心配になった。身体でも壊してしまったのだろうか。
ここから下は、上の文章で削った部分(あとから挿入する)
いつもわいわいがやがやとうるさい子供たちではあるが、食事のこのときだけはゆっくりと落ち着いた雰囲気に包まれていた。
年齢は五歳から十四歳まで。それぞれ、隣の子供と小声で雑談しながら魚料理と格闘していた。
法衣の上に真っ白なエプロンをまとった、孤児たちの母親代わりであるリルリィーアだ。
エプロンの上からでも、彼女のまるまると実った二つの胸がはっきりと見て取れた。それでいて腰のあたりからくいっと細くなる。青い法衣に身を包み、隙のない姿だった。
ノーラは厚手の上着に、足首まであるチェック柄のスカートをはいている。茶色の上着にはポケットがいっぱい付いていて、胸ポケットには鉛筆が刺さっていた。
視線で呪い殺そうとでも言わん限りに、まるまるとした目をさらに大きく開ける。
彼女の愛嬌のある顔が歪んだ。
ここから下は未修整
ついさっきまで一緒に仕事をしていたのだ。具体的にはリルリィーアの書類処理の手伝い。事務能力に優れたノーラがいなければ今頃書類が黒檀のでっかい机からあふれているだろう。
今も山積みだけど。
ノーラは首を振った。
「いやちょっと最近。運動していないな。って、ねぇ」
リルリィーアの動きがぴたりと止まった。すごい嫌なことを連想してしまった。
額に汗が浮かぶ。
「えーと、そういえば最近の天気はどうかしら」
そして露骨に会話をずらす。
「ダイエット?」
リルリィーアを挟んで、ノーラの反対側の隣に座っていたティナが空気を読まずに容赦なく聞いてきた。
ぷっくらと赤いほっぺたを上げて、無垢な笑みを二人に向ける。ウェーブのかかった黄金の髪が、暖炉に照らされてほのかに赤く煌めいた。
まだ十歳で育ち盛り。そのスレンダーな身体には、人を呪わば穴二つ、などという言葉は関係ない。多少背は低い方だが、女性ならそんなに気にはなるまい。
お風呂にはいるときに全部脱ぐと、肋骨が皮膚の下からかすかにわかるぐらいだ。太ももにもまだ肉はろくに付いていなくて、すらりと伸びた足で浴場を駆け回って……転ぶ。
そんなドジっ娘なティナは、いつものエプロンドレスだ。リルリィーアのお下がりの紺色のワンピースの上に白いフリルのエプロン。
姉貴分妹分そろって、しみ一つ無い白のエプロンである。
ティナは、ひょろっとした細い腕をゆっくりと動かし、パンをちぎっては口に運んでいる。
ティナはあんぱんに限らずパンが大好きだった。
「でも、ノーラおばさんはそんなに太ってないと思うよ」
さらに追い打ちをかける。『そんなに』では全くフォローになっていない。
ノーラは眉にしわを寄せるとうめいた。
「うっ。言いにくいことをあっさり言ってくれるじゃないの。ティナだって、あと五年もすれば嫌でも気になるようになるのよっ!」
それは魂の奥底から発する慟哭だった。と表現すると言い過ぎだが、彼女にとってはそのくらい切実だった。女にとっては永遠の課題である。
そろそろ切り捨てても二十代と主張できなくなるし。
「……子供に当たって、どうするのよ。まったく」
リルリィーアがあきれて親友を見やった。
だいたい、自分の娘と同年代じゃないか。そうリルリィーアは思う。
そういうリルリィーアもノーラと同い年ではあるのだが。
今日も仕事で遅くなるので、ノーラは家に帰らず夕ご飯をリルリィーアにごちそうになっているのだ。例のごとく。
このあとリルリィーアとノーラは捜査局に戻ってもう一度仕事だ。
「何でこんなにカロリー高いのよ、ここの料理はっ」
ノーラは机を拳で叩いた。
「といっても、ねぇ」
子供向けに必要なエネルギーと栄養素を十分満たすように計算してある。その分、あまり大人の女性向けではない。
「このくらいでないとみんな満足しないし」
リルリィーアは辺りをぐるりと見回す。
成長期の子供たちが一心に魚や野菜やパンにがっついている。会話もあまりないのは、リルリィーア自身の、日頃の教育のたまものだと信じたい。
……食うぐらいしか楽しみがないわけではない、念のため。
「で、どのくらい増えたの?」
ティナが平然と尋ねた。
同じ言葉が自分に降りかかってくるとは少したりとも思うことがない子供の台詞は、こんなにも残酷であった。
天然って怖い。
「……そういうことは小声で申し訳なく聞くものよ」
リルリィーアが妹分をたしなめる。
「そうなの?」
ティナがきょとんとした目をリルリィーアに向けた。
「そうなのよ」
リルリィーアはうなずく。
「私だって気になるんだから」
小声で付け足した。
「そりゃ、脂肪の下がみっちり筋肉じゃぁ重くなるよね」
矛先を変える相手が見つかった。とばかりにノーラは即座につっこみを入れた。
「うるひゃい」
痛いところを疲れてリルリィーアは親友をにらんだ。
リルリィーアは日頃家事をしたり犯人をぶちのめしたりしている関係で、筋肉が多い。その分同じぐらいの身長の女性と比較してしまうと、リルリィーアのほうが体重が重くなる。
脂肪よりも筋肉のほうが単位あたりの重量が重いせいだ。
「お姉ちゃんもちょっと増えた?」
ティナがさらに追い打ちをかける。
「いうなっ」
ぺちっ。リルリィーアは即座にティナの頭をひっぱたいた。
食事中にはしたないです。リルリィーア。
「あうう」
ティナは頭をさすった。
「ぬ……どこが、ふえたの?」
ノーラはリルリィーアの身体を上から下までなめ回すように見つめて(同性じゃなかったらセクハラです)、ぴたりと一カ所に目をとめた。
「まさかっ」
そして絶句。
ティナは人差し指を立てた。
「んー、ここかなぁ」
それをぷにっ。と突いた。
リルリィーアのあんぱんみたいにまんまるい胸を。
ノーラは顔をくしゃっとゆがめて一気にまくし立てる。
「……あんたって人は許せないわ。なんて不公平なのよ。胸から太るって、あんた、人間じゃねぇだろう、絶対にぃ」
立て板に水を流すように恨み言がつらつらと出てくる。
たしかに、この理想的な体型を見ると世の不公平をねたまずにはいられないだろう。
特に身近にいて全くダイエットの苦労なんかこれっぽっちもしてなんかいない女には。
「だいたい無駄よ、どうせ彼氏なんか、いままで一人しかいないんだから、どうせ使わないじゃないのよ。資源の無駄遣いよ。少しは分けてよ胸に。
「やめーっ。人が気にしているんだから黙れこのマッチポンプ小説家がぁ」
いい加減リルリィーアも腹が立ってきた。
子供たちは二人の叫び声を聞きながら平然と食事を続けていた。いつものことだし。
ティナも自分が胸をつっついたのはほおっておいてパンをはむはむ食べている。
「いったい何が入っているのよ、ここには。水か油か筋肉かぁっ」
ノーラはリルリィーアの胸を、手のひらでむんずとつかんだ。
ぶっちゃけ、大きすぎて指の間から肉が余る。というのはここだけの秘密だ。
「に、憎しみでこれがつぶせたら、と言うか少し分けろ。だいたい、何で子供産んでないのに、何よこの胸資源の無駄よ。どうせ使わないんだから」
リルリィーアはむかついたので、ティナの手からパンを奪い取ってノーラの口にパンを押し込んだ。
「もごもご」
ノーラは口をふさがれて、のどの奥から絞り出すような声を上げた。
「うう……それ最後だったのに」
ティナが恨みがましくリルリィーアを睨んだが、彼女はそれどころではない。
「私だって……私だって好きで大きくなった訳じゃないんだからっ」
そんな無駄に仲のいい二人を見ながら、ティナは自分の平べったい胸に手を当てた。
「うう、わたしもいつかお姉ちゃんみたいに立派なるかなぁ」
十歳のガキがそんなこと考えなくてよろしい。というかあんぱん控えないと、おなかが、あんぱんみたいにぷっくりふくれるぞ。
そんなティナは見たくもないのだ。と捜査局の面々だったら言うだろう。
お題もの書き:ツケ参加作品