脂肪はどこにツケられるか(修正版)


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 日もとっぷりと暮れた夕食時。
 複数のランタンと暖炉の火をを明かりにして、広間に孤児院の子供たちが集まっている。年齢層は五歳から十四歳までの範囲でバラバラで、二十人ばかりいる。
 机を輪のように並べて、夕食だ。子供たちは隣の子供と小さな声で話しながら、魚料理と格闘している。
 それを、子供たちの母親代わりであるリルリィーアが笑みを浮かべて見ている。
 ぐるりと視線を回して、ふと一カ所で止まった。  隣に座った、親友のノーラが、魚を半分残してフォークを止めているのだ。
 珍しい。
「食欲がないの?」
「いやちょっと最近。ねぇ」
 リルリィーアの動きがぴたりと止まった。すごい嫌なことを連想してしまった。
 額に汗が浮かぶ。
「えーと、そういえば最近の天気はどうかなぁ」
 そして露骨に会話をずらす。 「ダイエット?」
 リルリィーアを挟んで、ノーラの反対側の隣に座っていたティナが空気を読まずに容赦なく聞いてきた。
 まだ十歳で育ち盛り。そのスレンダーな身体には、人を呪わば穴二つ、などという言葉は関係ない。多少背は低い方だが、女性ならそんなに気にはなるまい。
 お風呂にはいるときに全部脱ぐと、肋骨が皮膚の下からかすかにわかるぐらいだ。太ももにもまだ肉はろくに付いていなくて、すらりと伸びた足で浴場を駆け回って……転ぶ。
 そんなドジっ娘なティナは、ひょろっとした細い腕をゆっくりと動かし、パンをちぎっては口に運んでいる。
 ティナはあんぱんに限らずパンが大好きだった。
 ノーラは眉にしわを寄せるとうめいた。
「うっ。言いにくいことをあっさり言ってくれるじゃないの。ティナだって、あと五年もすれば嫌でも気になるようになるのよっ!」
 それは魂の奥底から発する慟哭だった。と表現すると言い過ぎだが、彼女にとってはそのくらい切実だった。
 そろそろ切り捨てても二十代と主張できなくなるし。
「……子供に当たってどうする」
 リルリィーアがあきれて親友を見やった。
 だいたい、自分の娘と同年代じゃないか。そうリルリィーアは思う。
 そういうリルリィーアもノーラと同い年ではあるのだが。
 今日も仕事で遅くなるので、ノーラは家に帰らず夕ご飯をリルリィーアにごちそうになっているのだ。例のごとく。
 このあとリルリィーアとノーラは捜査局に戻ってもう一度仕事だ。
「何でこんなにカロリー高いのよ、ここの料理はっ」
 ノーラは机を拳で叩いた。 「といっても、ねぇ」
 リルリィーアは辺りをぐるりと見回す。
 成長期の子供たちが一心に魚や野菜やパンにがっついている。会話もあまりないのは、リルリィーアの日頃の教育のたまものだと信じたい。
 ……食うぐらいしか楽しみがないわけではない、念のため。
「で、どのくらい増えたの?」
 ティナが平然と尋ねた。
 同じ言葉が自分に降りかかってくるとは少したりとも思うことがない子供の台詞は、こんなにも残酷であった。
 天然って怖い。
「……そういうことは小声で申し訳なく聞くものよ」
 リルリィーアが妹分をたしなめる。
「そうなの?」
 ティナがきょとんとした目をリルリィーアに向けた。
「そうなのよ」
 リルリィーアはうなずく。
「私だって気になるんだから」
 小声で付け足した。
「そりゃ、脂肪の下がみっちり筋肉じゃぁ重くなるよね」
 矛先を変える相手が見つかった。とばかりにノーラは即座につっこみを入れた。
「うるひゃい」
 痛いところを疲れてリルリィーアは親友をにらんだ。
「お姉ちゃんもちょっと増えた?」
 ティナがさらに追い打ちをかける。
「いうなっ」
 ぺちっ。リルリィーアは即座にティナの頭をひっぱたいた。
 食事中にはしたないです。リルリィーア。
「あうう」
 ティナは頭をさすった。
「ぬ……どこふえたの?」
 ノーラはリルリィーアの身体を上から下までなめ回すように見つめて(同性じゃなかったらセクハラです)、ぴたりと一カ所に目をとめた。
「まさかっ」
「んーここかなぁ」
 ティナは人差し指をたてるとぷにっ。とついた。
 リルリィーアのあんぱんみたいにまんまるい胸を。
「……あんたって人は許せないわ。なんて不公平なのよ胸から太るってあんた人間じゃねぇだろうぜったい」
「やめーっ。人が気にしているんだから黙れこのマッチポンプ小説家がぁ」
 ノーラはリルリィーアの胸を手のひらでつかんだ。
 ぶっちゃけ大きすぎて指の間から肉が余るというのはここだけの秘密だ。
「に、憎しみでこれがつぶせたらと言うか少し分けろだいたい何で子供産んでないのに何よこの胸資源の無駄よどうせ使わないんだから」
 リルリィーアはむかついたので、ノーラの口にパンを押し込んだ。
「もごもご」
 ノーラは口をふさがれて、のどの奥から絞り出すような声を上げた。
「私だって……私だって好きで大きくなった訳じゃないんだからっ」
 そんな無駄に仲のいい二人を見ながら、ティナは自分の平べったい胸に手を当てた。
「うう、わたしもいつかお姉ちゃんみたいに立派なるかなぁ」
 十歳のガキがそんなこと考えなくてよろしい。というかあんぱん控えないと、おなかが、あんぱんみたいにぷっくりふくれるぞ。
 そんなティナは見たくもないのだ。と捜査局の面々だったら言うだろう。


お題もの書き:ツケ参加作品

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