男が一人、雪の上で血を吐いていた。
月光に銀色に染まる中、赤いものが口と腹からあふれて雪を染めていく。
無念そうに雪を握り締めるが手に力はない。
その傍らに男が一人立っていた。短剣を振って血を飛ばすとそれを懐に収める。
「悪く思うな。ちょっとだけ恋する相手が悪かったって事だ」
男は去っていった。傷は致命傷で凄腕の治療師でも生きながらえさせることは不可能だ。
足音が遠ざかる。
音はすべて雪に吸い取られて消えた。
男の手から力が抜けた。
外套や男の黒髪の上に雪が積もっていく。
頬に触れた雪は水となって流れた。
「あー。誰か倒れてるよぅ」
雪が赤く染まっていた。
そこには半分埋まりかけの男が寝ていた。
外套の上に雪が軽くかぶさっている。埋まっているという表現はオーバーかもしれないが埋葬。そんな言葉が浮かんだ。
リルリィーアは赤い髪の上に雪を乗っけていた。手提げを持っている。
ティナはすばやくしゃがみこんで男の身体に手を触れた。
ティナの背に光翼が現れる。
聖女の証であるそれは
ティナのちっちゃな手に光が集まり、それが男の身体にしみこむように広がっていく。
「うー。久々に全力なんだよ」
そしてティナと男の体全体が神々しく輝いた。
腹の傷が塞がっていく。
リルリィーアはそれを見てとりあえず安堵した。
「それにしてもひどい話だ。冬至祭だってのに」
リルリィーアは懐から隼を模した証を出した。捜査局の身分証で、尻尾の部分が笛になっている。
雪の街に非常召集の笛が三度鳴った。
しばらくしてから巡回中の捜査官が二人組みでやってきた。
「うげっ。支部長」
リルリィーアはため息をついた。
「挨拶だなアーク。……乙女としては傷つくぞ」
「失礼ですが支部長の防御はいろいろと固いのでまぁむりかと」
ハイキックが飛んだ。
「ぎゃふっ」
「とりあえずその男、神殿まで運んでくれ」
リルリィーアはティナが抱きかかえている男を視線で指した。
「……えーと、どこみてます?」
「察しろよ」
リルリィーアの前髪は長くて目元までばっちり隠れているのでどこを見ているかはよく見えない。
慣れれば雰囲気でわかるようになる。とはティナの言。
「運ぶからテッドは手伝え。あとアークは見回りしている全員に呼びかけろ。通り魔が出たってな」
「了解」
蹴られて雪の上に転がった男は状態を起こしながらリルリィーアを見上げて敬礼した。
「なんか板とかないかな。内臓めちゃくちゃなのくっつけたあとだから無理させたくないんだよ」
「ひとっ走り担架持ってきます?」
「うーん。頼むわ」
「了解」
捜査官二人がいなくなり、リルリィーアとティナと男が残った。
男はティナに抱かれて安らかに息をしていた。
ティナは男を膝枕して心配そうに見つめていた。
「……寒くない?」
「靴の中に雪入ったんだよ……」
リルリィーアを先頭に、神殿裏の孤児院に戻ってくると子供たちが出迎えてきた。
廊下の脇の、広間に通じる扉から顔を見せて、あわてて引っ込む。
「ごめんもうちょっと待ってね」
男を乗せた担架が奥にいく。
「これお願い」
ティナは持っていた籠を男の子に渡してすぐに続いた。
「火とかちゃんと見るんだよ」