ベッドの下に物を置かないように


 御石剣が友人の優を見回りついでに訪ねた。
 白い袴と胴着に身を包み、右手には木刀を持ち、紙袋を小脇に抱えている。
 ノートサイズだ。
 しかし優は留守だった。代わりにメイドの聖が玄関先に出てきた。
 当然のごとくメイド服だった。現代には珍しいロボットではない生身のメイドである。
 オレもこんなメイドがほしいなぁと剣は思った。
 やっぱり時代は和風じゃなくて洋風だよな。巫女なんか萌えなくて。
「何用?」
 聖が玄関先まで出向いて尋ねた。
 視線が冷たい。微妙に。
「優は」
「優様は香澄とお買い物です」
「デート?」
「買い物って言っているでしょう」
 聖はちょっと怒った。
 そんな本質突かれたからって怒ることはあるまい。昔からご主人様一筋なんだからなぁ。うらやましいものだ。
「まぁ、もうじき帰ってくるってことか。ちょっと上がって待ってるよ」
 剣はスニーカーを脱いでひょいっと上がった。
「ああっ。勝手に他人の家に入らないで」
「聖の家でもないだろう、ここ」
 剣は階段を上がって優の部屋に入った。
 カーテンが開いていて、隣の家の窓とこちらの窓がちょうど向かい合わせになっている。向こう側のカーテンはしまっていたが。
 部屋の中はよく片付いてた。聖が来る前も幼馴染の香澄がこつこつ片付けていたが、専門家がやるとかっちり隙がなかった。
 机の上にパソコンが乗っている。なまじ優らしいところといえばこいつぐらいしか残ってないかも。
 剣はクッションを勝手に使って座った。
「ヒマだ」
 ちらりと自分が持ってきた紙袋の中を見る。
「せっかくお宝持ってきてやったのに……」
 剣は紙袋と木刀を床に置いた。
「ヒマや……」
 部屋にはテレビもあるが剣は特異体質で電化製品を弄ると一瞬で壊してしまう。
 紙の本なんて貴重品で神社(剣の自宅)にでも行かないとねぇ。
 とりあえずころんと横になった。

「……こねぇな」
 一時間経過した。
 聖が一応客扱いで持ってきたオレンジジュースは飲み干して、中の氷が全部水になってグラスの底に溜まっている。
 うまかった。
「んー。見回りもあるしまた後で来るか」
 紙袋を持ってしばし考える。これどうしよう?
「見つからないとこにおいておくか、と」
 ベッドの下にこっそりそれを放り込んだ。
 ガラスのコップと木刀を掴んで階段を降りる。
「あら? 帰るの」
「ああ、ご馳走様でした。と」
 聖にコップを押し付けて玄関に向かう。
「またくるって、優にな」

 聖はコップを洗ってから掃除を再開することにした。
 剣がいたせいで掃除できなかった優様の部屋を、だ。
 掃除機とバケツ、雑巾を持って部屋へと上がった。
 掃除機をかけているとベッドの下に紙袋を見つけた。
 あけたら女の裸が見えた。
「……」
 いまどき珍しい、紙の本である。しかも男性向け。
「……優様。男の人ですものね」
 ため息をつきながら聖はそれを机の上に並べておいた。

「ただいまー」
 香澄が優とともに帰ってくると、聖は居間で編み物をしていた。
「セーター?」
 紙袋をキッチンに置く。
「はい。これから寒くなりますから」
「むー。……マフラーは去年やったし……パンツ?」
 優は香澄たちを見て苦笑していた。
「さあっ。買い物手伝ったんっだから、宿題見せて」
「いやべつに頼んでないんだけど」
「いいからっ」
 香澄は優を引きずるように部屋に上がる。
「あとでお茶もって行きますね」
 聖の声が後ろから聞こえる。
 優の部屋に入った。
 珍しく机の上になんかおいてある。たいてい聖が片付けてしまうのに。
 なんか肌色だった。
 いやみったらしく大きな胸を強調する姿勢で金髪の女性が前かがみになっている写真だ。
「……どうしたの?」
 優がひょこっと香澄の脇から部屋に入って、そして固まった。
 香澄は震える腕でそれを取るととりあえず二つに引き裂き、それをまとめて棒状にして優の頭をぶった。
「あうっ」
「これ、何?」
 どすの利いた声で幼馴染を問い詰める。
「し、しらないよっ。何でこんなもんが」
「へー、ふーん。そー。あんたがわざわざ骨董品やからこんな年代物を買ってこない限りこんなところにあるわけないじゃないの」
 香澄は半泣きに気なりながらぺちぺち優をぶった。
「ほ、本当に知らないんだよ」
「うーん。優様がそんなに困っていらしたなんて」
 盆に紅茶を載せた聖が入ってくるなり口を挟んだ。
「ひ、聖さん。聖さんは信じてくれるよね?」
「ダメです」
 即答した。
「このたびは優様の好みについて少々詳しく問い詰めさせていただきたいと思います。メイドとして」
「うーん。私も幼馴染として同意だな」
「ひーっ」
「とりあえずそこに正座なさいませご主人様」
「さぁ、きりきり吐くっ」

 剣は見回りを終えて優の家に戻ってきたが、中かからわいわい声がするのに気が付いてきびすを返した。
「明日にしよう」
 そのまま全力ダッシュ。
「すまん優。この借りはいつか返す」

 写真集は散々ネタにされた挙句庭で聖によって焼かれてしまいました。
 もったいない。


お題もの書き:掃除参加作品

back to