姉妹丼ふたたび


 ミトフェム神殿にはちっちゃな聖女様がいる。
 白い法衣に身を包み、がんばって聖句を読み上げていたり魔力で治療しているのを見るとそれだけでも癒される。
 彼女目当てに来る信徒も多い。いろんな意味で。
「姉妹丼って食べたことがありますか?」
 そう信徒に尋ねる妹分を見てリルリィーアはこめかみに汗をかいた。
 あからさまに引いてるぞ前のお姉ちゃん。
 リルリィーアは聖女様の襟をむんずとつかむと口をふさいだ。
「もぐっ」
「すみません。うちの神殿長、本日少々頭の調子がおかしいんで。すみません失礼します」
 腕の中で暴れるティナを無視して、巡礼に着たお姉さんに一礼してとっとと逃げた。
 祭壇脇の控え室に戻ってから一発ぶつ。
「だから姉妹丼姉妹丼って叫ぶなとなんどもゆーとるだろうが!」
「うー。食べてみたんだよぅ。一度でいいから。そうじゃなかったらせめて感想でも」
 あんたは食べられるほうだっ! (変な趣味に目覚めない限り)
 とは思ったがそんな突っ込みいれられるはずもなくもう一発ひっぱたいた。
「ぶー」
 説教を終えて、ティナを置いて出ると一人の男がいた。
 よく太った男でもてなさそうだ。
 最近こうゆうやつが犯罪を犯すので、本人が何もしてなくても白い目で見られるタイプである。 「こんにちは。聖女様はいらっしゃいますか?」
 男は意外に礼儀正しく聞いてきた。
 ティナ目当てに来る人は結構多い。
 もてまくり。この年にして末が怖い我が妹である。
「ちょっと席を外しております」
 まぁ嘘は言っていない。
「そうですか」
 男はぺこりと頭を下げると、講堂脇の聖像を見ていた。
 胡散臭いが疑っているときりがない。というか根拠がないんで失礼だ。
 白昼堂々変なことをするまい。とりあえず買い物に行ってこないと。
 リルリィーアは買い物籠を取りに裏の孤児院へ戻った。

 リルリィーアが夕飯の材料を買いおわり、裏庭に戻ってきたら、ティナが玄関から出てきたた。
 聖女の法衣からいつものエプロンドレスに着替えている。
「ちょっと出かけて来るんだよ」
 ティナは喜色を顔に浮かべていた。そしてそのままリルリィーアの脇を駆け抜けていった。
「変な犯罪多いから、夕飯までには帰るんだよ〜」
 ティナならまぁ大丈夫だとは思うが、最近、未成年の女の子が誘拐される事件が多くなってきた。
 困ったものである。
 そして夕飯の準備を終えたが、暗くなってもティナは帰ってこなかった。
「おかしいなぁ」
 聖女様といえども十歳児。あとで説教だなと思う。
「どうしたのかねぇ」
「なんか姉妹丼食ってくる、とか言ってましたよ。姉さま」
 隣で食器を並べているコリンがつぶやいた。ティナの三つ上に当たる。
「なんだってーっ!」
 もしかしてティナかわいいから言いくるめられてさらわれたのかもしれない。
「アンパン一個で釣られそうだし」
「いや、それはさすがにないと。信じたい」
「いまから捜査局に行ってありったけの人呼んでっ!」
 そう叫んだところでノックの音がした。
「はぁい? どちらさま?」
 いままでのノリはどこに消えたのか。普通の主婦みたいな軽いノリで裏口へと向かう。
 裏口を開けると一人の男が立っていた。
「ここですよね。神殿裏孤児院って」
「そうですけど?」
「主からコレを、リルリィーアという方に」
「む?」
 手紙だった。
『姉妹丼をご馳走します。よろしければこちらへどうぞ オーエン』
 リルリィーアの顔から血の気が引いた。
 ティナぴんち。
「じゃぁ、私はこれで」
「待ちなさいっ」
 リルリィーアは腰からロープを引き出すと男に掛けた。
 そのまま縛る。
「ぬわっ」
「うるさいこの誘拐犯め」
 容赦なく慣れた手つきであっさりと縛り上げる。
「わ、わけわかんねー。いったいなにが」
「さぁ、ティナはどうしたのっ! 白状なさい」
「知らないっすよ。主が10歳ぐらいの金髪の女の子連れてきたのは見ましたけどその子ですか?」
「……ただの下っ端のようね」
「いや、下っ端なのは間違いないんですがなにがさっぱり」
「ティナ待ってなさい。どんな卑劣な罠があろうが必ず助けてあげるから……間に合うといいな」
「姉さん、せめて間に合わせるって言おうよ」
 コリンが心配そうに勝手口から外を見ていた。

 使いの男から聞きだしてリルリィーアはその屋敷に向かった。
 壁を越えて(犯罪です)裏の鍵を殴り壊して(犯罪です)屋敷の中に忍び込んだ(犯罪です)。
「うー、他人の家だとさすがに気配感じにくい」
 ふらふら廊下を歩いて捜索していると声が聞こえてきた。
「うー、おなかすいたんだよ」
 ティナ!
 監禁されて食べ物も与えられていないらしい。
 本来なら今頃みんなであったかいご飯を食べているはずなのに。
「ほら、いっぱいお食べ」
 男の声がした。
 なにを食べされられるかわかったものじゃない。はしたないので考えたくも無いが。
 リルリィーアはドアを開けて中に入った。
 入ると同時にスカートから抜刀してかまえる。
 中は食堂らしかった。
 白いテーブルクロスの前にティナがちょこんと座っていた。
 縛られてはいないようだ。
 こっちを見てびっくりしている。
「ぬわっ。なにお姉ちゃんっ!」
 彼女のすぐ脇には男が立っていた。少々太ったあまりもてそうにない奴だ。
 なにをするかわかったもんじゃない。
 男もびっくりしてこっちを見ている。
 奇襲はばっちり。
「えー。あの、リルリィーアさんですか? その剣は何か?」
 男は目をぱちくりさせながら言った。
「え?」
 リルリィーアのこめかみに汗が吹き出る。
「お姉ちゃん失礼だよぅひとのうちで」
 ティナは手元のどんぶりを持つとぱくぱく掻き込んだ。
「……なにしてるの?」
「姉妹丼」
「いやそれはただのどんぶりだろうが!」
 男が腹を抱えて笑った。
「ははっ。姉妹丼ってのは比ゆでしてね。うな丼ですよ。ちょっと仕掛けがありますけど」
「うわっ。ご飯の中にもなんかはいってる」
「二段になってまして。中にもうなぎが入ってますよ。姉が上で妹が下。二匹入ってしまい丼ってね」
「……誤解招くような手紙出すなぁ。ばかぁ」 「どうです。リルリィーアさんもおひとつ」
「すみません帰ってやらないといけないことがあるんで」
「うーん。じゃぁ、お姉ちゃんの分もちゃんと食べておいてあげるから」
 リルリィーアは推定誘拐犯の縄を解くためあわてて帰った。


お題もの書き:トリ参加作品

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