神殿付属の孤児院の向かいは捜査局になっている。
捜査局支部長であるリルリィーアは、ときどき部下を連れてきて夕飯を奢ることがある。
ティナが食べ終わった食器を片付けていると、青い捜査局の制服に身を包んだ二人が話しているの声が耳に届いてきた。
「一度でいいから姉妹丼してみてぇなぁ」
「うむ、あれは男のロマンだ」
姉妹丼とは何だろう?
以前親子丼というものをお姉ちゃんが作ってくれた。ご飯の上に卵でとじた鶏肉が入ったオリエンタルテイストな一品であった。
東に住んでいる人は贅沢らしい。
親の鶏肉と、子供の卵が入って親子丼。
では姉妹丼とはいったい何か?
とりあえず聞いてみるのが一番だと思った。
ティナは二人の背後から声をかけてみた。
「ねぇ、『姉妹丼』って、なに?」
「うわっ」
なぜか二人は驚いた。あわてて振り向く。
「なんだティナちゃんか。びっくりさせるなよ。支部長かと」
捜査官の一人は、ティナの頭をなでた。
「で、『姉妹丼』ってなに?」
「うーん。ティナは子供だからわかんなくていいんだよ」
「ぶー」
「ティナはコーヒーを飲むとき、砂糖とかミルクとか入れるよね?」
「両方入れるよ」
「それは太るからやめとけ」
捜査官はきっぱり言った。
「で、あれをブラックで、砂糖もミルクもなしで飲めるようになってこそ大人なんだよ」
「うわぁ、苦そう」
ティナは眉を寄せた。
「で、どんな味なの? おいしいの?」
「そうだな。たとえると極上のステーキ肉と川をパリパリに焼き上げた鶏肉をいっぺんに食べるような豪華さなんだよ」
「……いいなぁ」
「そのうちティナちゃんがおおきくなったら教えてや……あははは」
いきなり捜査官のお兄ちゃんが笑い出した。
視線を追って振り向くとリルリィーアおねえちゃんが立っていた。
「お前ら子供になに非教育的なこと教えているこのバカタレがぁ」
リルリィーアの容赦のない拳が三人に降り注いだ。
ティナの脳天から衝撃が足元まで抜けた。くらくらする。
「うう。なんでわたしまで」
「いいからあっち行ってなさい」
しっしっしっと追い払われる。
「あんたたちなに考えてるのっ!」
お姉ちゃんが説教かけている。
無理もない。
ステーキ肉と鶏肉、両方ともめったに食べられないご馳走だ。
それをいっぺんに食べるなんて贅沢すぎて神様に怒られてしまう。
「うーでも」
それでも一度は食べてみたいかな、と考えてしまったティナは心の中で謝った。
神様、ごめんなさい。一度でいいから姉妹丼なるものを食べさせてください。
お題もの書き:トリ参加作品