木で組まれた桟橋の上を、エプロンを身に付けた赤毛の女性が歩いていた。
赤い前髪は長く、目元まで隠れている。
手にはバスケットを持っている。青い神官服の長い裾が、エプロンと一緒に陸からの風にはためく。
潮の香りがする。
風に背を向けて、青く広がる海を見た。
水平線ぎりぎりのところに、白い点のようなものが三つ見えた。純白の帆を風にはらませた交易船だ。
その上には、あわ立てたメレンゲみたいなでっかい雲が湧き上がっている。
今日もいい天気。
「りるちゃんや、今日も活きのいいのがあがったよ」
声をかけられて振り向く。女性の本名はリルリィーアと言う。
漁船が一隻、泊まっている。その脇で、日に焼けたおやっさんが魚を並べていた。
リルリィーアは、魚はさておき、ひとつのものに目をむけた。
それはうねうねとうねって、自重でぺちょっとつぶれながらも吸盤のついた触手を伸ばしていた。
「なんだいりるちゃん。これ食うのか?」
「う。ほしいけど、子供たち嫌がるんだよね」
スライムの出来損ないのようではあるが、煮るとそのグロテスクな姿に似合わず意外といけるのである。このタコという生き物は。
「こんなんいらんから、おまけにあげるよ」
おやっさんは笑いながら言った。
「ありがとう。んーとねぇ。あとは、これとこれとこれと」
リルリィーアはお昼の材料になる魚を指差した。
夜のつまみができたと喜びながらリルリィーアは歩いていた。
海沿いを歩いているうちに、人が次第に増えてきた。遠距離航路の船舶が泊まる埠頭がある。
広場に出た。そこは人でごった返していた。
旅人と商人と、船から荷物を運ぶ労働者でいっぱいだ。
そこでリルリィーアは、一人の少年を見つけた。
マントをつけて、バックを背負っている。何かをたずねようと通りを歩く人に、何度も話しかけているが、誰も答えてくれない。
みな忙しいのだ。
リルリィーアは近寄り、自分から話し掛けた。
「どうした少年。探し物か?」