ベルは、机を両手でどんと叩いた。
「みんな来なさい。話があるわ」
振動で、金髪の縦ロールが揺れている。
フリルのいっぱいついた赤いワンピースに身を包んだ少女は、胸を張って指差した。
「こら。そこのティナ。帰るんじゃない」
「ほえ?」
ティナは振り向いた。こちらはいつもの通り、紺のエプロンドレスだ。隣に、転校生となったカイルが同じように振り向いて立っていた。
カイルの耳の上には、ねこみみがひょこひょこ動いてた。白いシャツに半ズボン、後ろにしっぽが見える。裸足の少年だ。
「なんか、したの?」
ティナが問うと、まったいらな胸を張って。
「探偵団の新しい活動の話ですわ」
そう答えた。
ティナはとなりの猫少年と顔を見あわせた。
「じゃぁ、僕は先に帰っているから」
そういうとカイルは、半ズボンから出ている黒いしっぽを振りながら部屋から出ようと。
「ちょっと少年」
ベルは教室内を走って、廊下に出ようとしていたカイルのかわいい猫耳を、うしろからむんずと掴んだ。
「ぎゃぁ」
ふにふにふにと指先で弄って。
「なんかかわいい」
カイルは振り向いて、ベルの腕をぺちりと払った。
「何をするんだよ」
「友達がいなそうな転入生を、仲間に入れてあげようというのじゃないの。おとなしく感謝してとっとと入りなさい」
「余計なお世話……」
ティナがぼそりと突っ込んだ。
「お黙りなさい」
でこピン一発。
「あうっ」
「今回調べるのは、『港地区に現われた謎の化け物!』ですわよ」
リルリィーアは神殿裏の台所でお昼ご飯を作っていた。今日は非番。青い神官服の上にエプロン姿。
左手でキャベツをつかむと、包丁がまな板をたたたたたたんと連打する。あっというまに千切りになっていく。
「りるりる〜。大変だよ〜」
全然大変そうじゃない声が聞こえた。
リルリィーアは手のスピードをそのままに、振り向いた。アレス捜査官が捜査局の制服のまま、勝手口から覗いていた。
リルリィーアの記憶では、確か特別警戒のための夜勤で、見回りだったはず。
「どうした?」
アレスは入ってくると、リルリィーアにいきなり抱き付いた。
「つかれた〜」
リルリィーアは肩でえいっとアレスを押した。体が離れたところで蹴り一発。
「ぐわっ」
「包丁をもっているところで遊ぶな」
カイルに振り向いて。
「わるい例だから真似するなよ」
カイルはなにか言いたそうだったが、とりあえずこくこくと肯いた。
「うう。新婚生活の基本なのに」
「新婚でも基本でもない。とっとと用件を言え」
「吸血鬼が出たんだよぅ」
「……」
リルリィーアは無言。アレスもだんまり。
「……どうしたんですか?」
カイルが疑問を口にした。
「いやさぁ。いままで吸血鬼吸血鬼、というけれど。この年まで生きて来てさ」
「たしかに、長そうだ」
リルリィーアはアレスに肘を入れて。
「ぐわっ。包丁もって危ないぞ!」
「吸血鬼、吸血鬼と騒がれることはあっても、本物は見た事無いなぁと」
「いないの?」
「あんまり見ないわね」
吸血鬼とは一般に、生命維持に人間の血液を必要とする悪魔(リリス)の事を指す。
しかしながら、吸血鬼は人間を無理矢理襲う必要はない。血が一定量必要なだけだから、無理に襲わなくても、契約した相手から吸ったり恋人から吸ったりすれば問題ないからだ。
襲ってばかりいると、単なる犯罪者として処罰されるだけでメリットなんか無い。
……血液を媒介に、人間の存在そのものを食べる悪魔(リリス)もいるが、それこそ表になんか出てこない。普通。
「今度は本物らしいけどな」
アレスは言った。
「なんで?」
「首筋に歯形が有って、貧血で倒れてた」
「……珍しく、本物っぽいわね」
「そういうことで、とりあえず報告。例の件と関係あるかもしれないし」
「うむ。ご苦労さん」
「ういっ。ところで、りる。ご飯、食べていっていい?」
「作るの手伝うなら」