世の闇の中の一条の光


 リルリィーアの増幅具が少女の身体を断ち割った。
 殺さずに捕らえるために、刃は潰してあるが切れないわけではない。もっとも今回の場合、少女の身体を構成する魔力が尽きたのが主因ではあるが。
 身体が砂になって崩壊してゆく。
 人を止め、魔力により人でないものになったその身体は、魔力を失うと自己を保てずに消えてゆく。
「あなたは偽善者よ」
 消滅していく中、少女は告げた。
「あなたの本質は人殺し。みんな救う、なんて神にでもなったつもり?」
 崩壊が口まで進み、喋らなくなった。そして頭も完全に砂になり消えた。
 いつの間にか砂も消えていた。
 リルリィーアは左の脇腹を押さえた。古傷がうずく。心拍に合わせてずきんずきんと痛みが来た。

 リルリィーアは神殿の暗い廊下を歩いていた。
 感覚でわかるので明かりはつけていない。
「つかれた」
 ため息ひとつ。
 死んだ兄を生き返らすためにリリスに魂を売った少女。連続失踪事件を追い、手遅れになる前に彼女まで突き止めたかった。結果、五名生贄、一人捕縛の歳に抵抗して死亡。
 偽善なのかねぇ、やっぱり。
 人の身にはどうしようもないとはいえ、少女を救うことはリルリィーアにはできない。兄を生き返らす手段はないのだから。
 リリスに魂を売って生贄をささげても、兄の身体に何か別のものが入り込んで動かすだけなのに。
 広間の前まで来た。扉がかすかに開いていて、中から明かりが漏れてくる。
 子供たちの笑い声が聞こえる。
 リルリィーアは中に入らなかった。
 部屋まで戻って、ベッドの上にごろりと転がった。
 息を深く吐く。
「許されるなら……神にだってなるわ。それでみんなが幸せになれるなら」
 扉を誰かノックしている。
「だれ?」
 扉が開いた。お盆に紅茶セットを載せたティナが入ってきた。
「お帰り。つかれたでしょ?」
 部屋着の上にエプロンをしていた。リルリィーアはあわててテーブルの上のランプに火をつけた。
 ティナは紅茶を注ぐと、蜂蜜を多めに入れてリルリィーアに差し出した。
 ゆっくりと飲んでいると気持ちが落ち着いた。
 ティナはリルリィーアの隣に座った。
「なんかあったの?」
「そう? なんか変かな?」
「むー。元気出してよ」
「大丈夫よ」
 そういって笑ってやった。
 ティナは抱きついてきた。バランスが崩れてカップが揺れたが、何とかこぼさずにすんだ。
 ティナはリルリィーアの胸に顔をうずめるようにしている。
「まだ子供で、お姉ちゃんの力になれないかもしれないけど、そんなに無理しなくてもいいと思うよ」
 リルリィーアは机に手を伸ばしてカップをおくと、背中に手を回してティナを抱きしめた。ちっちゃいので胸の中に軽く収まる。
 ウェーブのかかった金髪に手を触れて、指で髪をすいた。軽く汗をかいている。石鹸の香りがした。
「大丈夫よ、本当に。あなたたちがいる限り」
 風呂上りのためかティナの体が熱い。
 ティナたちを守るためなら神にでも偽善者にでもなってやろうじゃないの。


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