拾っちゃいました


 雲一つない青空からの日差しが窓枠を白く染めている。
 リルリィーアはかまどの前で、でっかいフライパンを振っていた。それを片手でぶんと振り上げると、肉と野菜が宙に舞った。野菜炒めを二十人分まとめて作っているのだ。
 いつものように、青い法衣の上にエプロンを身につけ(いつもつけっぱなしだ)、楽しげに軽々と振っている。細い腕なのに力持ちだ。
 台所にいるのはリルリィーア一人。隣の広間は静かだ。皆外に出ているのだろう。天気もいいし
 もうすぐお昼。お腹をすかせた子供たちが戻ってくる頃だ。
 勝手口の扉がばたんと開いて、入ってくる複数の足音が聞こえた。
 ほらきた。リルリィーアの口元がゆるんだ。
「ごめん、お姉ちゃん。拾ってきちゃった」
 お使いに行かせていたティナが申し訳なさそうに言った。
 また猫でも拾ってきたのだろうか。
 リルリィーアは胡椒をとるとフライパンにばらまいた。
 仕上げで忙しいので、視線を野菜炒めに固定させたままで、うんざりしたように答える。
「まったく。だから、うちにはペットを飼う余裕なんかない、って言っているじゃないの」
「えー、でも」
 ティナは不満げにというよりも困ったようにつぶやいた。
 そんなにかわいそうな雌猫でも拾ってきたというのか。
「でも、じゃないの」
 ここは一発びしっと言ってやらねばなるまい。リルリィーアがフライパンを置いて振り向くと、そこには二人の少女がいた。ティナと、もうひとりは見たことのない娘だ。フリルのついた黒い服を着ていた。
 背は二人とも同じぐらいだ。ぎゅっとしたくなるほどちっちゃくてかわいい。少女は黙ったまま不安げにリルリィーアを見上げている
「……犯罪になる前に返してきなさいっ」
「えーっ」
 黒い服の娘はティナの背後に隠れた。
「ああ、ごめん。怒っている訳じゃないのよ……それはさておき、どうしたのよ」
「うん、実は……」
 ティナが話したのは次のようなことだった。

 時間をさかのぼること三十分ほど前のことである。
「うわーっ。まぶしい」
 きらきらと反射する海面に、ティナは手で目を覆った。
 久々の快晴である。
 ティナはお使いで港湾地区に行っていた。港湾地区とはミトフェムの町の海沿いの地区である。
 海岸では、波止場にちっちゃな漁船が連なって泊まっている。向こうには外洋船が泊まっている。そこから木箱を担ぎ出して、倉庫へと運んでいく男たちの列が見えた。
 重そうだ。
 わざわざ遠くから運んでくるんだからきっと高いんだろうなぁ。値段が。とティナは思った。
 お使いの瓶入り蜂蜜を三つかごに入れて、ティナは波止場から離れた。
 ちょっと寄り道してしまった。お昼までに帰らないとお姉ちゃんが……ぶるっ。
 ティナは身震いした。お仕置きされる前にとっとと帰ろう。
 エプロンドレスの裾をひらひらさせながらティナが歩いていると、ふと耳に何かが聞こえた。
「悲鳴?」
 気になる。
 ティナはのこのこと声のする方に歩いていった。
 お姉ちゃんみたいな立派な人になるためには、困っている人を見捨てるわけにはいかないのだ。聖女としても。
 わりと最終的にはにっちもさっちもいかなくてリルリィーアに丸投げすることも多いが。さすがに悪人をどつき倒すのは十歳児であるティナにはいろいろときつい。
 (続く)


お題もの書き:逃げる参加作品

back to