扉が開く音にリルリィーアは身体を起こした。何にも覆われていない肩がが月光に照らされる。満月がベッドの上に窓枠の十字を投影している。
入ってきたのはティナだった。
「眠れないの?」
ティナはこくんと頷いた。
真っ白なお姫様がつけるようなネグリジェを着て、大きな枕を抱えてティナが立っていた。
「しょうがない娘ね。十にもなって。いらっしゃいな」
ティナはベッドの上に跳ね上がって、リルリィーアに飛びついた。
二人の唇が合わさる。
しばらくのあいだ、銀の彫像のように二人は固まった。
「いけない娘。こんな娘にはお仕置きしないとね」
リルリィーアはティナの胸元に指を這わせた。
「……なにこれ」
外は雲ひとつない青空。天空高く太陽が上るころ、リルリィーアは捜査局の支部長室にいた。
いつのもドレスの上にエプロン姿である。
紙束を持ってわなわな震えている。
「忘れ物忘れ物って、ああっ。なに見てるのっ」
リルリィーアの友人にして秘書役ノーラが扉を開けて叫んでいた。
視線はリルリィーアの手元。
「……これ、何かしら?」
リルリィーアはにっこりと笑った。
「……えへっ」
「えへじゃないわよっ」
ずばこんっと机を叩く。
「小説書いてたんだけど、いまいちネタがうかばなくて」
「だからって友人売るかこの女」
「大丈夫、売りもんにするときは名前ちゃんと代えるから」
「……」
「美少女神殿長とその保護者ってのはそのまんまだけどね」
「なんか言った?」
「いえべつに」
ノーラは平然としているが、この女ネタになるものはなんでもやる吟遊詩人の鑑だからねぇ。
悪い意味でばっちり信用がおけるタイプである。
リルリィーアは手のひらに炎を出して原稿をまるまる焼いた。
「あーっ。二ヶ月分の努力の成果がぁ」
そのまままどからぽいっ
「ひどーっ。まぁ全文覚えているから書き直すだけだけど」
「次やったら、今度こそ友人の縁切るからね」
「はいはい」
小説は隠れてこっそり裏ルートで流れたらしい。レアでプレミアムが付いたという話である。
幸か不幸かリルリィーアの目に入ったという記録はない。
お題もの書き:月(衛星)参加作品