リルリィーアがなかなか結婚できない理由


 宗教行事を独占的に司る神殿では、当然結婚式も行う。
 若いカップルが申し込みに来た。らぶらぶでべたべたでいちゃいちゃであった。
 神殿長のティナは、二人を見送ってから、つい傍らのリルリィーアお姉ちゃんの顔を見てしまった。
 十歳なのでまだそのへんの機微がよくわかってない。
 応接室の中央にはテーブルがあり、カップが四つ置いてあった。どれも空っぽだ。
 窓から西日が差し込んで、テーブルの上にカップの影が伸びている。
「何か言いたいのかしら?」
 赤い前髪が長くて目元まで隠れているせいで、お姉ちゃんの表情はよくわからない。でも、怒っているのは長い付き合いでぴんときた。
「うう、なんでもないよ」
 ティナはあわてて手を振った。
「お姉ちゃんが早く結婚しないと周回遅れでもう取り返しが付かないなんてぜんぜん思ってないから」
「やかましい」
 リルリィーアはぶすっとした。
 十五で成人である。リルリィーアはそろそろ孫がいてもおかしくない年である。
「いーのよ。私にはいっぱい(孤児院の)子供たちがいるんだから」
「旦那さんはいないけどね」
 チョップ一発。
「あう」
「いいのよ。今で満足しているんだから」
「自分に嘘つくとつらいって聖典に書いてるよ」
 ぺちぺちぺちとリルリィーアに頭叩かれた。
「いたいんだよぅ。虐待だよぅ」
「黙れ」
 例によって例のごとくじゃれていると、いきなり応接室に声が響いた。
「相変わらず男がいないようね。我が妹よ」
 いつのまに入ってきたのか、そこにはメイドがいた。
 紺色のメイド服に白いエプロン。リルリィーアと同じく赤毛で前髪が長い。
 リルリィーアは即座に立ち上がり、スカートの中から剣を抜いて振り上げた。
 がちっと剣が止められる。
「いきなり斬りつけるの。はしたないわよ」
 鞘から剣を半分抜き、刀身でリルリィーアの剣を受けていた。
「何しにきたのよ。妹と呼ぶな。あんただって人に言えないんじゃないのよ」
 リルリィーアはまくし立てた。
「質問はひとつずつにしなさいな」
 メイドは告げた。
「例の連続失踪事件のことで話があったんだけど、それより妹の悩みを聞くほうが大事よね、姉としては。それから、妹のことを妹と呼んでなにが悪い。あとこー、私は別に男にもご主人様にも不自由してないから」
「うう、ちゃんと表から入ってきてほしいんだよ」
 ティナがぼやいた。
 彼女はメイベレッタという名前のメイドさんである。ここの領主である王女エルミリア付きの。
 姉妹らしいがリルリィーアは否定している。双子みたいにそっくりなのに。世界は広い。
「ちゃんと扉から入ってきたわよ。わざわざお茶汲んでね」
「気配消さないでよぅ。人のうちで」
 メイベレッタは剣を鞘に入れてスカートの中に突っ込んだ。例によって体積が合わない。
 テーブルの上の銀の盆を取った。
 あれ? あんなのあったっけ。とか考えていると紅茶の香りがした。
 いつのまにかカップの中に琥珀色の液体があり、湯気を立てていた。
「……」
 いつのまに。
「まぁ、このくらい基本よね」
「当然ね」
「……化け物が二人いるよぅ」
 平然としている赤毛の二人組みを半分あきれて見やった。
「妹も頑張ればこのくらいできるようになるわよ」
 メイベレッタがティナを見て(だと思う。目元まで隠れいてるので例によってさっぱりだが)言った。
「なりたくないよーな。って、妹じゃないと思うんだけど」
「何を言っているの。妹の妹は妹に決まっているじゃない」
「孫じゃなくて?」
 ティナは首をかしげた。
「……ティナ、黙っていたほうが頭が良く見えるぞ」
「うう、ひどいよ」
 ティナはぽっぺたを膨らましてリルリィーアをにらんだ。
「で、まぁ。妹の幸せを願うのが姉の勤めということ」


back to