西大陸最大の神殿、ミトフェム本神殿。
その裏には付属の孤児院がある。
リルリィーアは自室でベットの上に腰掛けて外を見ていた。
目元まで隠す赤い前髪なので、本当に見えているのかは本人以外には知ったことではないが。
夜なので暗い。
さっきまで入っていたお風呂(庭にあるのよ)と、向かいにある捜査局の明かりが見える。
庭は漏れた光でかすかに深緑に見える。
晴れてはいるが月は無い。
窓から入ってくる秋風がリルリィーアの風呂上りの肌から熱量を奪う。
寒いんで閉めた。
「おねーちゃーん」
ティナの声がした。
「どうした?」
ティナは半開きの扉を、体で押し開けて入ってきた。
白いパジャマだった。風呂上りでふわふわの金髪が湿っている。
手を合わせて、あいだになにかを包み込むようにしていた。
「お願いがあるんだけど……」
「ペット禁止」
「うぅ」
ティナは足でドアを閉めて、リルリィーアに寄ってきた。
「どうした?」
「これも、だめかな?」
ティナは手のひらを開いた。
一匹の虫が飛び出し、空を舞った。
「虫なんかどうするんだ?」
「えへへ」
ティナは笑いながら窓際の机に寄った。
そこには部屋を照らすランプがある。ティナはそれを消した。
真っ暗になる。窓からガラス越しにかすかな光が漏れてくるだけ。
「あっ」
そして、壁に青い光の点があった」
「えへっ。すごいでしょ」
ティナは告げた。
無い胸でも張っていそうだが、暗くて見えない。
「こんなところに蛍がいるのか……」
「ねぇ、これならいいでしょ? 綺麗だし」
リルリィーアは頭に手を当てた。しばらく考え込んでから、口を開いた。
「なぁ、ティナ」
「ほえ?」
「こいつの寿命、どのくらいだか知ってるか?」
「知らない」
「長くて一週間ぐらいだ」
「そうなの……」
蛍は部屋の中をゆっくり飛んでいる。ティナのパジャマに止まり、左袖を淡く照らしている。
明るいが熱は出ないので熱くはない。
「でだ、蛍にとってはうちの中にいるのと外を自由に飛ぶのは……いや、蛍は何のために生まれてきたんだ? ティナ」
「うう。そんなの聞いたらわがままいえないよう」
ティナが歩き始め腕を無意識に振ると、蛍は離れてティナの頭の上に移動した。
ティナは窓に寄ると、そっと押し開けた。
蛍は部屋の中を一回転してから、窓から飛んでいった。
「さよなら。元気でね」