ひとり残されしもの


 ティナとリルリィーアはミトフェムからオードフェイン目指して旅をしていた。
 石で舗装された街道をてこてこ歩いていた。
 村に通りかかったところで、子供たちが石を投げているのを見かけた。
「やーい。捨てられ子」
 子供たちは口々にはやし立てて、一人の男の子目掛けて石を投げていた。ひとつが頭に当たった。
 ティナは駆け出した。
「やめなさーい」
 動きやすいようにいつものエプロンドレスだった。背中に袋を背負っている。プリーツの入ったロングスカートが揺れる。
 子供たちは手を止めてティナを見た。
「なんだおまえ?」
「いじめちゃ駄目だよう」
「うるさいな」
 子供の一人は、ティナを睨むと持っていた石をティナ目掛けて投げた。
 ティナの背に光が集まる。
 それは双翼になった。背の袋を貫通して白き翼が広がる。ティナの眼前でかばうように展開して石をはじいた。
「ひとになげたら、怪我するんだから」
 子供たちは腰が抜けて地面に座り込んだ。
 ティナは教え諭すように告げているだけだが、親の前でもこんな神妙な姿勢とらないぞといった感じでティナを見上げていた。
 ティナの光翼。“聖女”である証だ。処女のウェーブのかかった金髪も王冠のように輝いている。
 ティナは、石を投げられていた男の子のそばに近づいた。男の子はぼんやりとしてティナを見ていた。
 頭から血が出ている。
 ティナは頭に手を当てた。手が淡い光に包まれた。
「な、なにするんだよ」
「じっとしててね」
 しばらくしてから手を離した。
「もう痛くないよね」
 男の子は目を見開いて、頭をとんとんと手のひらで叩いた。“聖女”の治癒能力だ。
 ティナは白いハンカチで額の血をぬぐった。
 ハンカチをたたみながら、ティナは石を投げていた子供たちを振り返った。
「危険だってこと、わかっているよね?」
 子供たちは黙っている。
「ごめんなさいは?」
「ご、ごめんなさい」
「私にじゃないよぅ。ちゃんとあのこに謝らないと」
 そう、ティナが言うと。
「やめろよ。そんなことさせるなよ」
 男の子はそう言い、走って逃げていった。
「……もうこんなことしちゃ駄目だよ」
 ティナが告げると、残された子供たちは帰っていった。
 遠くではリルリィーアが赤い髪に手を触れてティナのほうを見ていた。


「あー。やになっちゃう」
 ティナはベッドの上に転がるなりそういった。
 今日はこの村で一泊することにした。
 『聖女様が村に来た』ということで大騒ぎ。一階の酒場に村中の人が押しかけて聖女様を見ようとぎゅうぎゅう詰めだった。
「疲れているので休ませてください」
 そういって逃げ帰ってきたのだ。
 リルリィーアは洗濯物を干していた。なぜかエプロンを身に付け、ロープを室内に張って、そこにどんどん干していく。
「いやなら翼見せないでおきなさい」
「そっちじゃないよぅ。……確かに疲れたけど」
 首に札かけてさらし者になったみたいだ。
「せっかく人が親切にしてあげたのに」
 リルリィーアは手を止めて、ティナに振り向いた。
「そんな態度は良くないわよ」
「うぅ」
 それだけで十分、と思ったのか。リルリィーアは干すのを続けた。


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