「これ、落としたでしょ?」
彼はにっこり笑って私を見ていた。
上半身はだかの美少年がもう一人の美少年を背後から抱きしめている表紙をばっちり表に向けて私に差し出す。
なんてものを見られてしまったの。
かーっと頬が赤くなる。
ろくに顔を見ることもできず、彼の手から文庫本をひったくると私はお礼も言わずにとっとと逃げ出した。
ばくばく言う心臓を無視して早足で階段を下りた。
隠れるように人と人の間をすり抜けて地下道を進む。
私は彼に一目惚れした。それはさておき今日の夕ご飯どうしよう。昨日はサンマだった。
ああ、明日のテストの準備しなきゃ。
自動改札に定期券を叩きつけ、通り抜けたあと、ちらりと後ろを確かめた。付いてくるわけが無いのに。心の奥で期待している自分が馬鹿みたいで私はため息をついた。
私の馬鹿。
せっかく……せっかく彼と話す機会だったのに。
はぁ。
もっとこう、ハンカチとかなら良かったのに……ボーイズラブなんて。
はふぅ。
タイムサービス寄って帰ろう。弟も帰ってくる。腹減った〜腹減ったとまた騒ぐ。人の気も知らないで。