大きなおいも


 ミトフェムの城壁を出ると新しい小屋が大量に立っているのが見える。ガルド帝国との戦争で逃げてきた難民が住んでいる。
 霧の森との境の辺りに畑があり、そこで農作業をしている人がいる。
 食料が足りないので畑を作ってお芋や野菜を育てている。
 夏のある日、ミトフェム領主と神殿長と捜査局支部長が畑の様子を見に来たことがあった。
 神殿長ティナと領主エルミリア王女は並んで畑を見ていた。
 遠くで爆発音が響いている。
 捜査局支部長リルリィーアと、王女付きメイドのメイが畑を増幅具でぶったたいて開墾している。
 二人とも赤毛で前髪が長く目元まで隠れている。さすがにティナ達からだとそこまではわからないが。
「新兵器があるんですよ」
 王女様は足元にある箱から、一本の紫色の液体の入った細い管を取り出した。
「この薬を使えば収穫量は十倍に増えます」
「うわー。すごい」
「はい、そのはずです
 ティナは感心したように目を大きく見開いていた。  その『はず』というところに突っ込むひとがいなかったのがのちの喜劇の始まりだった。

 秋になった。もうちょっと郊外に出ると黄金色の草原が広がっているのが見えるが、霧の森近くにあるのは芋畑である。
「なんでこんな〜」
 リルリィーアは悲鳴を上げた。
 足を掴まれて、身長の倍ぐらいの高さまで吊り上げられている。
 植物の蔓に。
「うわーっ。大丈夫おねえちゃん?」
 大丈夫なわけないだろう。
 長い前髪が逆に垂れて顔が珍しく露出している。
 いつものようにスカートだが、魔法でもかかっているのかなぜかスカートは足にまとわり付いてめくれることはなかった。
 リルリィーアは右手を目の上に当て、顔を隠しながら、体を振って暴れているが、ちと体勢が悪すぎて外れない。
「このっ。ティナ、手伝って」
 リルリィーアは開いている左手で、足を指差した。
「うん」
 ティナは翼を広げた。聖女が神から与えられた純白の羽である。
 ティナは飛び上がると、彼女にしては珍しく持っていた武器を振るった。
 鎌を。
 リルリィーアを掴んでいたツタが切れて、リルリィーアの体が落下を始める。
「お返しよっ」
 リルリィーアは逆立ち状態のまま手を広げた。
 手のひらに赤い炎が集まる、それは一瞬で両手を広げたぐらいの大きさになる。
 そのまま落下。直径10mぐらいあった巨大芋の上に押し付けるように火球が触れ、爆発した。
 爆風とともに土が飛び散った。
「……けふっ」
 塵がおさまると、咳き込みながら立っているリルリィーアの姿があった。
 ティナを見上げると、リルリィーアはスカートのすそから剣を引き出した(どこに入っていたのやら)  足元を四回ぐらい切りつけると、突き刺してから引き上げた。
 外側は黒くこげているが、中はきれいに焼けて、蒸気が出ていた。
「せっかくだから食べる、ティナ?」
 巨大な焼き芋を前に、リルリィーアはそう告げた。


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