ティナはあんぱんを食べながら道を歩いて……
「あうっ」
石に蹴躓いた。
お姉ちゃんが言うとおり、買い食いをやめないからそういうことになるのである。
それはさておき、食べかけのあんぱんは放物線を描きながらちょうど井戸の中へと落っこちてしまった。
「うー、最後の一個だったのにぃ」
ティナは半泣きになりながらエプロンドレスの裾を払った。真っ白いエプロンに泥が付いた。
泣いているのは転んでいたいのかあんぱんをなくしたからか。
「これ」
女性の声がした。
ティナが顔を上げると、井戸から女性が上半身を出してティナを見ていた。
手には金の玉と銀の玉があった。
「うわっ」
ティナは驚きの声を上げた。
「うー、どうやって浮いているんだよぅ」
あんたが言うなという気もするが、ティナは慌てて井戸に寄ってのぞき込もうとした。
「やめなさい」
女性は右手に玉を持ち替えて、開いた左手でティナを押しとどめた。
ちょっとこめかみがぴくぴくしていた。
「女には他人に見せたくない秘密というものがあるのです」
「そうなの?」
「そうなのです。お嬢ちゃんも大人になったらわかりますわ。嫌でも」
そして女性は咳払いをした。
「こほん。前置きはこのくらいにして。お嬢ちゃんが落としたあんぱんはこの金のあんぱんですか? 銀のあんぱんですか?」
「あんぱんは金でも銀でもないよぅ」
食べられないし。
ティナが非難の目を向けると、女性はほほえんだ。
「貴女は正直者です。お礼にこの金と銀のあんぱんをあげましょう」
女性はティナに金と銀の玉を押しつけると井戸の中へ消えていった。
「うわっ。わけがわかんないんだよぅ」
ティナが慌てて井戸をのぞき込むと誰もいなかった。
腕から銀の玉がぽろりと落ちて落下していった。
とぽーん。
いい音が井戸に響いた。
「うー。どうしようこれ」
ティナはつるんぺたんな胸元の金の玉を見た。それはちょうど食べかけのあんぱんの形だった。
ずっしり重い。
ティナが肩を落としながらてこてこ石畳の上を帰ると、パン屋のおじさんが声をかけてきた。
「よう、ティナちゃん。元気ないな」
「うー。あんぱん落っことしちゃったんだよぅ」
「ははは。相変わらずおっちょこちょいだなぁ」
ひどい言いぐさである。
「ん? それどうしたんだい?」
おじさんはティナの持っている金のあんぱんを見た。
「うー、井戸に落っことしたらなぜかこれになったんだよぅ」
謎説明である。
「そうか。ティナちゃんだしなぁ。うん」
おじさんはうなずいた。なんか脳内で繋がったっぽい。
「そうだ、おじさんにそれをくれたら代わりにあんぱんをいっぱいあげよう」
「えっ。やったー。ありがとうおじさま」
現金な娘である。これで聖女様っていうんだからあまり信徒には見せられません。
ティナは紙袋いっぱいのあんぱんを貰ってスキップしながら帰って行った。
残された金のあんぱんをテーブルの上に置いて、パン屋さんはぺたぺたさわってみた。
「まさかこれ、本物ってことはないよなぁ。はははっ」
とりあえずマスコット代わりにおくことにしたのである。
お題もの書き:黄金参加作品