桜を横目で見ながら


 なんで私はこんなところにいるのだろう。
 校庭に色づいた桜を横目で見ながら、ため息をつく。
「どうしました? 桜さん?」
 クラスメートの……いかん、名前忘れた……女の子が心配そうに私を見ている。
 金髪の帰国子女もといハーフっぽいがおっとりとした娘でぽにゃんとしている。胸まで。
 世の中って不公平。
 純白のヘッドドレスが揺れている。それを見ると、私のため息がますます深くなった。
 身を包むのは紺のワンピース。
 そこの汚れなき白いエプロン。
 なにが悲しくてこの現代でメイド服なんぞを着なけりゃならんのだ。しかも学校で。
 私もそれを着せられている。
 校則なんだから仕方がないとはいえ、どう? と思う。
 確かにこう、親のいない私を引き取ってくれて、あまつさえ学校にまで行かせてくれるなんて。
 って、あまつさえ、ってこの用法でよかったっけ。あとで辞書引こう。
 学校に行かせてくれるなんておじさまにはいくら感謝してもしたりないが。
 もうちょっと学校選びやがれこの野郎と心の中でぶーたれるぐらいはたぶん神様でも許してくださるだろう。
「あら、桜さんはご主人様とお別れになったのがそんなに悲しいのですかね」
 もうひとり、別の娘が寄ってきた。
 彼女は真っ赤な髪をしていて、あげくに前髪が長ぁーくて目がすっぽり隠れている。
 ヘッドドレスの白さが妙に映える。
 これって校則違反じゃないのか、そもそも。
 その娘はかわいそうな羊でも見るかのような視線を向けてきた。
 わたしゃドナドナ売られるのか。
「まぁ、そうなのですか。うらやましいですわ。既にお仕えするご主人様がいらっしゃるなんて。はぁ」
 いや、そこで夢見る乙女モードに入るな。
「大丈夫ですわ。私も桜さんも幸いにして既にお仕えするべき主を頂戴しておりますが、まりあさんもここで立派なメイドになればきっといいご主人様と巡り会えますわよ」
「そうだといいですわ。桜さん、そんなにご主人様に甘えては、その、ほどほどに」
「んなわけあるかー」
 淑女にあるまじきことながら、私はつい爆発してしまった。はぁ。
 ……そういえば、なんで目が見えないのに視線が分かったんだ。私は……

 話は半年ほど前にさかのぼる。
「桜は中学卒業したらどうするつもりかな?」
 父親代わりであるおじさまが尋ねたのは、中学校最後の夏休みが始まった最初の日だった。
 おじさまは私が入れた紅茶を一口飲むと、私に向かってにっこりほほえんだ。
 こうしているとすごくいい人なんだが。若くてかっこいいのに……
「はい、全寮制で奨学金をいただける学校がありまして、可能ならばそちらに進みたいと思っております」
「桜ちゃん。うちから出てくってっ!!」
 おじさまは驚きの声を上げた。
「そ、そんなにうちにいるのが嫌なのか……」
「いやまてまてまてどうしてそうなる……のですわ」
「最近一緒にお風呂に入ってくれなくなったし」
「いつの話ですか」
「こんなおじさんよりも若いツバメのほうがいいんだ……」
「なんの話よ」
 高級品(だと思う。ふかふかだし)のソファーの下から真っ白なハリセンを取り出した。
 容赦なくひっぱたく。
「ぐぼへっ」
 おじさまはふらつきながらも紅茶をこぼさない。さすが慣れているだけのことはある。
「なんでそうなるのよっ。ですわ」
「いや桜ちゃん、無理に敬語使わなくていいから。今更」
「えへっ」
 とりあえずごまかす。
「おじさまにいつまでも甘えるわけにはいきませんから」
 ソファーに戻ってハリセンを下に隠す。
「そう、私としてはいつまでも甘えてもらってもいいんだけどねぇ。桜ちゃんかわいいし」
 そういうことを真顔で言われると、顔が熱くなってしょうがない。
「まぁ、父親としては桜ちゃんの意思を尊重しましょうかね……ところで、一個いい学校があるんだけど行く気ない?」
「? どこですか」
「うん。学費ただで全寮制。寮費も出てあと仕事をこなせばお給料も出るんだけど」
「むむ。それはおもしろそうですね。見てみようかな」
 結局、そこ以外奨学生全部落ちちゃったわけなんだけど……

 年が変わって三月。卒業式が終わって次の日、宅配便が着た。
 でっかい箱で。私宛だ。
「おじさまー。なんか来たですわー」
「ああ。制服だよきっと。せっかくだから着てみなさい」
 着てみた。  とりあえずおじさまの部屋にハリセンをかついでそのまま行くと、おじさまが喜んでいた。 「似合ってるよ」
 顔面に容赦なく突っ込む。 「な、なんじゃこりゃー」
「なにって、メイド服だけど」
 ほかに行く当てもなく、私はおじさまを思う存分ハリセンでぶっ叩いたあと泣きながら荷物を発送して聖エミリア学園へと向かったのだった。


お題もの書き:開花参加作品

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