赤い血が床一面に。
人間の頭部が転がっている。
ころんと、私のほうを見て。
私の赤く染まった手を見て、笑っていた。
リルリィーアはベッドから跳ね起きた。
部屋は暗い。薄いカーテンの向こうから光が透けてこない。
まだ夜らしい。
部屋にはだれもいない。ふたり用の部屋を一人で使っている。壁に神官服とエプロンが掛かっている。
リルリィーアは赤い髪にそっと触れた。長い前髪が目元まで垂れ、彼女の表情を隠している。
背中に汗がべっとり。
ぎゅっと髪を握って。
「……寝るか」
ぽてん、とベッドに寝た。
一度汚れたものは二度と戻らない。
いくら洗っても落ちない泥汚れのように。
じゃらーん、じゃらーんと鳴っている。
鐘と銅鑼とその他金属を適当に集めて楽器にしている。起床の合図だ。
いつもはリルリィーアが鳴らしている。
「……あれ?」
飛び起きた。もう明るい。壁の向こうでざわざわ人が動いている気配がする。
「リルリィーアお姉ちゃん?」
部屋の扉が開いて、エプロンドレスを見に着けた10歳ぐらいの金髪の女の子が顔を出してきた。
妹分その1のティナだ。10歳なのに、ここの神殿長なんかやっている。
「……寝過ごした?」
「かなり」
わたわたわた、と毛布を跳ね除けて壁に掛けた神官服を手に取る。
ここは神殿の裏にある孤児院。
親の無い子供たちが共同生活している。
リルリィーアは本業の傍ら、子供たちの面倒を見ている。彼女自身もここの出身だ。
頭が痛い。
寝足りない。
リルリィーアは痛みを飛ばすかのように頭を振った。
ますます痛くなった。
それはそれとして、腕はまな板を手にとって洗ってから、キャベツを掴んで二枚ほど剥いてからまた洗った。
都市ならば水道があるので便利である。井戸まで水組みに行く必要も無く。
リルリィーアはため息を吐いた。その間も腕はかってに動いている。
たんたんたんたんとリズムよく、細かく千切りになっていく。
彼女の横に踏み台が置かれた。
その上に、よいしょっ、とティナが乗った。
ふわふわしている金髪を三角巾でまとめている。
「疲れてる? お姉ちゃん」
ティナはそう言いながらジャガイモを洗い始めた。
土が付いている。
「ちょっとねー」
腕を止めて、もう一度ため息。
そして、包丁を握りなおしてまな板を叩くように連斬。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」
「あ? なによ」
「まな板まで斬ってる!」
手を止めて手元を見ると、キャベツとまな板の千切りの和え物になっていた。
左右に、まだ切れていないまな板だった板っきれ、そして左手の下にキャベツの残りがある。
「……」
「すごい腕」
ティナの突っ込みどころは微妙に間違っていた。