「ししょ〜。朝ですよ〜」
階下から声が響いてくる。
顔が陽光でちりちりしている。
今日も沙羅の声で目が覚めた。
とんとんとんと階段を元気よく駆け上がってくる。
起きようとしたら、右腕が妙に重かった。
「うにゅ」
俺の枕元では金髪の女の子が、俺の腕を枕にして寝息を立てていた。
腕を俺の胴体に回して、ぎゅーっと抱きついていた。
かわいくて俺はアリスをなでてやった。
パジャマ代わりに貸した俺のシャツを着ている。首がしまるのかいやなのか、上から三つボタンが外れ、めくれていた。背中に髪が流れて、陽光にきらめいている。
どん、っとドアが開いた。
「ししょー。ご飯さめちゃいま……」
セーラー服の上にエプロンをつけた、右手におたまを持った沙羅が、俺を見て固まった。
かちこんと。
「ん……あ、ぱぱ。おはよう」
アリスが目を開けた。
「ああ、おはよう。……どうした、沙羅」
「し、し、信じてたのにーっ」
サラの投げたおたまが俺の顔を直撃した。
「ぐわっ」
「師匠は、師匠は高校生以下は射程範囲外だっていっているのにぃ」
「全然信じてねーだろう」
アリスが、俺の胸に頬を擦り付けてくる。猫みたいだ。
「師匠がクライアントの美人秘書とか女子大生とかフランスの女優までつれこんでも、まさかこんな年端の行かない子供にまで負けるなんて思ってなかったよぅ」
沙羅が半分泣きながら駆け寄ってきた。
ぎゅっとこぶしを握って。
「お、おい。馬鹿。やめろっ」
「この浮気ものがぁ」
俺はベッドからアリスを抱えて飛んだ。
沙羅のこぶしが、さっきまで俺が寝ていたところを撃った。
ぼぎっ、と鈍い音がしてベッドが真ん中から真っ二つに折れた。
あんなもん食らったら死ぬ死ぬ。
アリスを抱えてベッドの下に落ちた。尻を打った。
アリスは意外に重かった。
「うぅ。重くないもん」
「いいから向こう向いてなさい」
アリスを押しやって立ち上がる。
「うわーっ」
沙羅は俺に飛び蹴りをしてきた。
スカートの中が白い。
足元に転がっていた枕を足で跳ね上げる。それをつかむと盾の代わりにして蹴りを受け止めた。
「ぱぱがいっぱい抱いてくれたからもう大丈夫だよ」
……えーとあのそのアリスさん。
「あー、はい。そうですか」
腹を銃弾で打ち抜かれたような衝撃が走った。
一流の格闘家なら、十センチあれば有効打撃を与えられるという。
完全に気を抜いていたところに一撃食らってぐらりと倒れる。
「死ね、女の敵がぁ」
沙羅の拳がテンプルにって洒落にならん……
気がつくと、アリスが俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「あっ。ぱぱ、目覚ました」
ソファーに寝ていたらしい。起き上がろうとするとずきりとこめかみが痛んだ。
「……よく生きてるよな」
で、なんか腕が動かないと思ったら後ろ手にロックされている。手首に金属の感触が。手錠か?
ずりずりと芋虫のように這って体を起こす。
「えー。沙羅さん、いったいこれは何でしょう?」
沙羅はフライパンを操る腕をとめると、振り向いた。
「師匠が朝っぱらからやりたいことやってるから、すっかりさめちゃって。暖めなおしですよ」
あのー。俺のせいじゃないと思います。それとまたベッド代掛かるんですが。
「それはさておき、全部白状するまでご飯抜きですよ師匠」
「……沙羅