学校から帰って、優司はぼーっとテレビを見ていた。
猫の映像が映っている。
「猫を飼ったらたのしいのかねぇ」
などといっていると、後ろを洗濯物を持ったいわゆる猫メイドロボのラーナが通りかかる。
「優司様、猫さんですか?」
ラーナは自分の耳をひょこひょこさせる。
「ほら、耳」
「みみがありゃいいってもんでも」
「じゃぁ、しっぽ」
「そういう問題でもない」
「んー。猫ロボットだったらうちの会社でも作ってますよ」
「ロボットじゃなくて、こう、生命の息吹って物を感じたいんだよ。そう、癒し系癒し系」
「ロボットじゃ駄目なんですか」
ラーナがしょんぼりする。
「ああ、ラーナが駄目って言っているんじゃないよ」
「そうだっ。じゃぁ、私がねこさんになってあげます」
「は?」
「何でこうなるんだ」
座っている優司の膝の上に、ラーナがちょこんと頭を乗せている。首にはごていねいに首輪まで付けている。
「にゃー。ご主人様〜」
とかいいながら頬を擦り付ける。
優司はラーナのねこみみを撫でながら考える。
「……なんか間違っているような気がする」
ラーナの首を指先で撫でる。
「ごろごろ」
「……口で言われてもなぁ」
「なんか違いますか」
むっくりおきあがって、正座を崩した姿勢になってラーナは言った。
「かなり違う」
「にゃー。じゃぁ、人型であることを生かしてみましょう」
そういうといきなりラーナは優司に抱き付いた。
一般には押し倒したという姿勢である。
「ご主人様、昼寝しましょうにゃぁ」
「ぐわっ」
人間と女の子と変わらない柔らかさと体温に優司はどきどきする。作り物だと分かっていても。
「ひっつくなっ。はずかしい」
「お嫌ですか?」
「嫌じゃないけど、嫌だ」
「私が機械だから、駄目なんですか?」
「嫌だから、そういう言い方は卑怯だってば。香澄や舞に見つかったら誤解されるってば」
「それなら、香澄様や舞様がいらっしゃるまでは」
「すーぐーくーるーってばぁ」
とかいっていると。廊下への扉が開いて、金髪縦ロールの女性が入ってきた。優司のクラスメートで親友の水瀬舞だ。
「あんたらまっぴるまからなにやってるかぁっ」
開口一番、思いっきり叫ぶ。
「にゃぁ」
ラーナは優司に抱き付いたままそう鳴いた。
「にゃぁ?」
舞がオウム返しすると。
「にゃぁ。ねこさんです」
「なにしてるの?」
「ねこさんごっこですにゃぁ。優司様が『猫が飼いたい』とおっしゃっているので、試しに猫になって差し上げているのですにゃぁ」
「頭痛い……」
「俺は『猫が飼いたい』とは言ったが『猫メイドが飼いたい』とは言ってないからな」
「飼ってるじゃん」
「舞様もねこになりませんか?」
「は?」
「ねこさんですにゃぁ」
ラーナが舞を連れて別室に行ったので、優司はしばらくのあいだ静かな時を過ごした。
「……ちょっと前まで、毎日こうだったんだよな」
しばらくすると、ラーナと一緒に、メイド服に着替えた舞が戻ってきた。当然(?)のようにねこみみねこしっぽ、おまけに首輪付きである。
「なんで首輪まで」
「気分の問題ですわよ、にゃぁ。ちゃんとノミ取り付きですからにゃぁ」
「んな無駄な……」
「ところでなんで首輪があるんだよ」
優司が問うと。
「パーティに使えるかと思いましてにゃぁ」
「どんなパーティだよ……」
「それはさておき、ご主人様に甘えに行くにゃぁ」
さておくな、と優司は強く思った。
ラーナはよつんばいになって早歩き(?)で優司の元に駆け寄る。
「にゃぁ、ご主人様の膝、あったかいにゃぁ」
ラーナは舞に手招きして。
「舞ねぇさんもくるにゃぁ」
「ねーさんあつかいかい」
歩いてくる舞に向かってラーナはいった。
「猫はあるかにゃいにゃぁ」
「……床を這えと?」
「そのための汚れていいメイド服にゃぁ」
舞はため息を吐いて、まーしょうがないつきあってやるか、というかんじで首を振り、四つん這いになって優司のところまできた。
見上げられると媚びられている気分になる優司である。
「……なによ」
「こんな舞は珍しいなぁと思って」
「ほっといてよ」
舞は優司の横に、優司にもたれかかるように座った。
「泥棒猫に母屋を取られた気分よ」
「そういうこといいっこなしだにゃぁ」
自称猫の猫メイドに寄りかかられながら優司は思った。
「……猫はいらねぇ」
「にゃぁ、ラーナがかわりに猫になってあげるからにゃぁ」
「……ねぇ、優司」
「ん?」
「猫よりあたしたち魅力ないのかなぁ」
「ぐわぁ。彼女持ち男はみんな猫飼っちゃ駄目なんかいっ」
3人仲良くくっついてひなたぼっこだか昼寝だか良く分からないことをしていると、しばらくして優司の幼なじみの香澄がやってきた。
「……イメクラ?」
「やっぱりそーみえるか」
「にゃぁ。ねこなのにゃぁ」
「猫ごっこだって」
舞が自分の首輪を弾きながらそういう。
「なぁ香澄、いいかげんやめようって言って……」
「あーっ。楽しそうわたしもやるぅ」
「ってまだやるんかいっ」
ラーナは香澄を連れて別室へ。また猫メイド服首輪付きに着替えさせるのだろう。
「こんなかわいい娘たちがいるってのに何が不満なのよ」
舞はそういって、笑いながら優司の胸に顔を摩り付ける真似をする。
「だから猫が飼いたいんだってばよぅ……」
傾いた日差しは暖かく居間を包み込んでいる。