「音流」
タムタムタムタム
タムタムタムタム
音がある。何もない空間に音だけが流れる。
タムタムタムタム
タムタムタムタム
それは音なのだろうか……
誰一人として、いや、何一つとして聞かぬ音が空間をただ埋めて行く。
空間には物体がある。物体の存在は空間なくしてあり得ず、空間もまた物体なくしては存在し得ない。よってこの空間にもまた物体がある。音とは空間の振動だ。物体は空間にある以上、空間の振動の影響を受ける。それが聞くということだ。
タムタムタムタム
タムタムタムタム
空間を満たしていく単調な振動。繰り返す。減衰もしない。増幅もされない。ただそこにある。振動は物体ではない。だから存在はしない。ただ空間の状態としてそこにあるだけだ。
タムタムタムタム
タムタムタムタム
この空間において時間は一定に流れている。いや、時間単位としての振動の他に何も基準が存在しない以上、振動が時間の定義なのだ。距離と時間の関係式は振動のみを媒介として成立している。だから……そのようなことに意味はない。ただの同語反復なのだから。
タムタムタムタム
タムタムタムタム
振動は減衰しない。空間のすべてを定常的に埋め尽くしている。
タムタムタムタム
タムタムタムタム
空間と物体は相互依存の関係にある。振動と時間、距離は同じく相互依存の関係にある。物体はその状態の変化によって振動を起こす。振動は物体の状態に変化を与える。それが歌うということであり、聞くということだ。
タムタムタムタム
タムタムタムタム
この音を聞くものは誰もいない。
存在している物体は音を聞かない。
誰も歌っていない。だから音は増幅されはしない。
誰も聞いていない。だから音は減衰しもしない
タムタムタムタム
タムタムタムタム
音は繰り返す。聞いた物が再び歌い調和を作る。それが響くということだ。だから音は響くこともなく続く。
物体はそこにある。ただあり続ける。
繰り返す、繰り返す繰り返す繰り返繰り返繰り繰り繰繰……
タムタムタムタムタムタムタムタムタムタムタムタム……
真実は一つではない。
事実もまた。
一つではないということは二つ以上、あるいは零以下である。
二つ以上の真実は互いに矛盾する。矛盾するからこそ一つになることが出来なかったのだ。
故に、矛盾を含むことを認められない認識にとって、真実はない。すなわち零以下である。
互いの関係に矛盾を含む真実同士は互いに相手の矛盾を指摘する。
どれほど指摘しようと尽きることはない。
したがって、矛盾は精緻になり続ける。時の果てるまで。
空間内の物体は振動を認識しない。
故に、二つの真実が存在する。
空間は振動している。空間は振動していない。二つの真実は相容れない。相容れないが故にそれは矛盾と呼ばれる。
歌わない物体は聞かない。物体は聞くことによってしか己を変えることはない。歌わない物体は自分の歌を聴かない。だから物体は自分を知らない。誰も歌わない歌を聴く物はいない。だから物体は他の物体を知らない。
物体は外の何者をも認識しない。
物体は自らすら認識しない。
だから物体は孤独である。
だから物体は何も聞かない。
だから物体は何も歌わない。
孤独な物体(単数か複数か、果たして存在するかさえ定かではない)たちの隙間を縫って、音はただ単調に流れる。
タムタムタムタムタムタムタムタムタムタム……
mailto:不観樹 露生
不観樹露生的短詩