「ひとごろし」



 五月といっても五月晴れの日ばかりではない。
 私の部屋の窓の外は。切れ目のない雲に覆われて。
「人殺しかな」
 紗月が呟く。
「猫を殺すのが好奇心なら…………人を殺すのは優しさなのかもしれない」
 かもしれない。それが紗月の口癖。
「優しいだけじゃ人は殺せない。優しく、それでいて冷たくないと」
 私は返す。
 かもしれない。そうじゃないかもしれない。
 ただ、こんな時間を紗月と持つことは不快ではなかった。
 それだけは確かなこと。
「俺は殺されているのかな。それとも殺しているのかな?」
 呟き。
 鳶の声。
「そのどちらでもあり得る。それは対立命題じゃないな」
 そのどちらでもあり得る。互いに殺し合っている。
 さおたけ。たけや。さおたけ。
「腐るのと死ぬのと。どちらが自分だろう?」
 紗月。もうすぐ、梅雨の季節だ。
「紗月が選ぶ道が。紗月だろう」
 死ぬのも。殺すのも。生きながら腐れ果てるのも。
 ……………断じて死にも殺しもしないのも。
「人に答えを求めるな、か。確かにね」
 余裕を作って。笑みを作って。
 それでも頬の皮膚がわずかに余裕を失っていて。
「…………………きついね」
 その言葉を聞き流して。私は、今年始めて入れたアイスコーヒーを飲み干した。


mailto:不観樹 露生
不観樹露生的短詩