「感謝の言葉を忘れずに」
「…………お腹が空いてたのかもしれない」
そう、呟いてみた。
「…………お前なぁ……」
紗月が呆れる。
私の前には、ややだいなみっくな大きさのどんぶりがある。
空だ。
もちろん、その内容物は私の消化管中に今は安住の地を見いだし
ている。
「しかし。今はお腹が空いていない」
それは確かだ。
「当然だ。それだけ喰って、腹が空いていたら化け物だ…………つ
ーか、俺でもその量はよう食べきらんぞ」
あれだけの量が、よくもまぁ。
と、自分でも思わなくもない。
「うむ。どこに入ったんだろうな」
自分で言う台詞ではない。というのはさておき。
「…………」
呆れたようなため息。
「一週間も音沙汰がないと思ったら…………」
視線が、とても痛い。
不意の出費で仕送りが尽きたのが10日前だった。
「不意の出費で所持金が尽きたことは今までなくもなかったが。今
回はちょっときつかったかもしれない」
我ながら言い訳じみて聞こえるなと思う。…………視線はますま
す痛い。カロリー消費を抑えるために出歩かなかっただけなのだが。
「…………」
呆れ果てたようなため息。
「お前なら無利子催促無しで半月分の飯代ぐらい貸してやると言っ
てただろうが」
それは判っているんだけど。
「最悪の場合って、条件付きだっただろ?」
高々、半月ほど水と備蓄食品を食べて暮らせば解決する状態は、
自分的には最悪とは思わなかったりするのだった。
それに、どう考えても、わたしが紗月から貰った物の方が(奢っ
てもらった飯代含め)多い。
しかし。視線が痛い。
「………………」
呆れ尽きたようなため息。
「餓死寸前とゆーのはふつー最悪といわんか?」
いあ、なんとゆーか。ほら。アフリカで飢餓線を彷徨っている人
たちに比べたら、随分とましな食生活なんではないかと思ったりす
るのだが…………。
とても言葉には出せず、心の中で反論する。
「……………………ごめん」
謝る。
少なくとも、一升炊きの炊飯ジャーを抱えてきてくれた友人に言
える言葉では。ましてや、その炊飯ジャーを空にした後では、その
ぐらいしか出せる言葉が無くて。
「ま、いいけど」
その言葉の後ろに、奈落のような諦念が漂う。
「…………ありがと」
動物的な。如何にも動物的な。餓えを充たした感謝。
その言葉を私は。呟くように口にした。
mailto:不観樹 露生
不観樹露生的短詩