雨風邪
風邪を引いた。
それ自体は良くあることである。
「で、原因は?」
呆れたように尋ねるのは紗月である。
「雨。傘がなくてずぶ濡れになったからだろうな」
37度をわずかに超える程度の熱。動けないというわけではないが。
「去年もこうして見舞いに来たような…………」
うるさい。
「傘ぐらいコンビニで買えばいいものを」
ぐぅ。
「財布に50円ちょっとしかなくてな。それに、夜だったから銀行もやってない」
反論。
「身体強くないんだから………置き傘ぐらいしておけよなー」
あぁ。風邪を引いている以上。反論のしようはないか。
梅雨の雨の中、ずぶ濡れになりながら自転車を走らせるのも気分がいいなど
と一瞬でも考えた自分が愚かか。
「今度からそうしよう」
とりあえずは。そう答える。
布団の中から。
紗月のため息がなんとなく聞こえた気がする。
「うどん、出来たぞ」
勝手知ったるうちの台所から、私が滅多に作りはしないような出し汁の香り
が流れてくる。
身を起こす。
「ありがと」
うどんうどん。
関東風で汁が黒いが。わたしは、盆の上に置かれたそれを食べる。
暑い。
月見の卵の黄身が破れる。汁が濁る。
「明々後日の試験。ちゃんと受けれるように体調直さないとな」
口はうどんで塞がっているのでこくこくと頷く。
紗月は受験資格を取り損なっているから。受けられない試験。
あ。熱のせいだろうか。
妙にウェットだ。自覚する。
「どうした?」
その問いに答えずに。うどんをすする。
出汁をとったらしい煮干しを、ついでに囓る。
「いや、別に」
額の汗と一緒に、なんとなく目尻からこぼれそうだった水分を拭き取る。
なんとなく。暑い。
そとはまだ。雨が降っている。
mailto:不観樹 露生
不観樹露生的短詩