「こひぶみ」



 時折。
 自分が存在していることを忘れる。
 
 自分を大切にしないことは、他人を大切にしないことだ。
 と。
 誰かがいった。
 
 その通りかもしれない。
 
 誰も嫌いにならないということは、誰も好きになれないということだ。
 と。
 誰かは言う。
 
 そうなのだろうか。
 
 誰からも嫌われまいとすることは、傲慢で不遜でそして不可能な行為である。
 と。
 誰かが言う。
 
 そうなのかもしれない。
 
 世界の破滅をどこかで願っている人間は、自殺願望を持つ。
 と。
 誰かが言う。
 
 その通りだろう。
 
 現実と非現実の狭間に。
 自分は、確として存在する。
 はずだ。
 自分の存在に。自信は持てない。
 
 それは終わり無き自己不信と、自己憎悪。
 それは終わり無き自己防衛と、自己救済。
 
「わたしは存在しているのだろうか」
 ここに。あそこに。
 
 他者の存在はこれほど確かに思えるのに。
 自己の存在はこれほど脆く。あやうい。
 現実も非現実も区別無く。
 
 だから、すがる。
 何かに。自己にとって確かに思えるものに。
 他者に。自己ではない何かに。
 
 自己の存在は、自己だけでは規定できないから。
 自己の存在は、自己だけでは定義できないから。
 自己の存在は、自己だけでは肯定できないから。
 
 あぁ。
 あぁ。
 あぁ。
 
 だから、単体では。存在し続けられない。
 何かと関わって。
 全てと関わって。
 世界と関わって。
 初めて、存在を肯定される。
 
 恐怖。
 自己の存在の否定への。
 
 恐怖。
 存在への否定への。
 
 恐怖。
 真実と偽りとの評価関数の誤作動への。
 
 だから。
 存在を肯定される自分を愛する。
 
 だから。
 存在を肯定される自分を求める。
 
 だから。
 否定を恐れる。
 
 あなたはわたしを肯定してくれたから。
 あなたといることで自分を肯定できるから。
 あなたの存在は、わたしにとっての救いだ。
 もっとも恐れることはあなたを失うことだ。
 
 わたしに出来ることは。
 あなたを肯定し続けること。
 ただそれだけでしかないのだけれども。
 
 求めることは、自己の確たる存在。
 ただそれだけでしかないのだけれども。
 
 忘れないように。


mailto:不観樹 露生
不観樹露生的短詩