「…………俺はメイドだ。名前はまだない」  俺はそう呟いた。  頭部を僅かに反らせる。  銃弾の衝撃波がこめかみの脇を通過した。  余裕がたっぷりある服の袖口から、俺はデザートイーグル(だっ たか? とにかくでかい拳銃だ)を掌へと捻り出す。  瓦礫と化したタンスの陰の向こう側へと三点射を送り込む。無論、 ただの威嚇にしかならない。だが、奴の頭を上げさせない効果はあ る。 「新入りメイド一人だと思って嘗めてんじゃないぜ? こちとら、 いささかぶち切れてるんでね」  左袖から閃光手榴弾を転がし出す。右手の三点射の合間に軽くア ンダースロー。  タイミングを計って左袖で目を隠す。分厚いメイド服の生地は光 を遮るにはもってこいだ。  閃光。呻き声。  ふかふかの絨毯をひと蹴りしてジャンプ。  転がりながら三点射を二回。  血まみれの男が視界に入る。 「死ぬんだ。それが報いだ」  銃口をまっすぐ腹部に向けてから三点射。  血まみれの男は血まみれの肉片へにクラスチェンジした。 「二階侵入者。殺戮完了」  そう無線機に報告した俺の口は、どうやら笑っていたらしい。 「遅い」  無線機の向こうから文句をつける声が聞こえた。 「あんたは戦闘を楽しみ過ぎよ」  俺は、見えない事を承知の上で肩をすくめて見せた。 「メイドの仕事は殺戮と破壊だけじゃないんだから……ねぇ? 新 入り、聞いてる?」 「あいにくと、この通信機は頑丈すぎだ」  このメイド服もな。と、あとに続ける。  頑丈すぎて、多少の戦闘では読者サービスにもならない。まぁ、 機能優先なだけにそんな事もある。 「で、まだ目標は残っているのか?」  まだ、血の匂いが嗅ぎ足りない。アドレナリンが、まだ俺に行動 を強制している。 「三階。もう一人の新入りが苦戦しているわ。援護に行って」  援護、ねぇ。 「援護よ。殺戮じゃないんだからね」  念を押される。 「了解」  俺は、頭にたたき込まれている屋敷の構造を思い浮かべた。  真上にいるはずの同期の新入りとの位置関係を把握する。  俺はスカートの下から指向性爆薬を取り出して部屋の中央にセッ トした。 「上のもう一人の新入りに、伏せろって伝えてくれ」  俺も伏せる。  指向性爆薬の爆発は上下方向にセットしてある。  俺は真上にいるはずの敵を天井ごと爆砕した。 「けほっけほっ」  落下してきた天井の破片には人間だった部品が混ざっている。 「あわわ、床に大穴開いちゃってるよぉ」  とりあえず、真上の敵の排除には成功したらしい。 「っていうか、敵さんたちも居なくなっちゃってる? 落ちちゃっ たのかな?」  盾にしたタンスの影から天井の穴を見上げる。  俺と同じエプロンドレスの女がこちらを覗き込んでいる。もう一 人の新入りらしい。 「生きていたか」 「ふえ〜ん」 (以下シーン部品) 「ぐっ」  対戦車ライフル…………さすがにこんなもんの直撃を受けたら如 何にメイド服が頑丈とはいえ、しばらくは行動不能だ。 「クソッ。奴ら、メイドってものをよく知っていやがる」  だが、このぐらいでメイドに勝てると思ったら大間違いだ。 「あ、あの………」 「奴らにメイドがどんなものか教育してやる」  俺は凄まじく楽しくなっていた。 「お望み通り、ぶち殺してやる」  俺はデザートイーグルをぶっ放した。 「あの、そういえばまだ自己紹介もしてませんでしたね、あたし………」 「メイドに名前は要らない。俺はアフガンでそう教わった」 「え、そ、そうなんですか?」 「貴様、得意の得物は何だ? 拳銃は見たところ駄目だし、近接戦 闘の訓練を受けたようにも見えないが」 「えーっと…………」 「狙撃か?」 「あの、お料理とか、お掃除とか、お洗濯なら…………」 「後方要員か……」