『あなたは神を信じますか?』


前編 〜ShiHoRi〜


intermission 事情聴取



 その部屋は相も変わらず暗い。相変わらず外は好天で、それを拒否するよう
に閉め切られたブラインドにも変化はない。変化がないといえば、その室内に
篭もっている湿った匂いも。
 冬の寒気も部屋の中にまでは侵入して来てはいない。スチームの発する小さ
な持続音だけが柔らかな永遠を求めて静かに空間を埋めている。
 薄暗がりの中で、長髪、長身の男が長椅子に少し寝そべるように腰掛けてい
る。いるのだが、室内の風景の中に溶け込んで、その気配を感じさせない。腕
を組んで軽く眼を閉じている。
 微妙に室内に緊張が走る。空気に予感がこもる。
 空気の中を音が動き出す気配の寸前。音をさせない動きで男の手が動く。
「わたしだ」
 男の声が室内に静かに吸収される。男の手にはどこから現れたのか受話器が
存在している。受話器の向こうから女の声がなにやら響いている。それだけが
この部屋にとって異質な存在感を持っている。
「なにがだね」
 静かな男の声。再び女の声。やがて、聞いていた男の眉がわずかに動く。
「君の担当の事件だ。君の裁量内で処理したまえ。君にはそれだけの権限と能
力がある。わたしに許可を求める必要はない」
 男の口調は全く変わらない。男が話している間だけ、受話器の向こうの声
が途絶える。その時間だけ、部屋は元の秩序を取り戻している。
 再び声の闖入者が、空気をかき乱す。
「それも任務に不可欠なのかね?」
 静かな問い。女の反論。
「それもいいかもしれない。あの時のことはそろそろライブラリに入れてもい
い頃だ……まして、彼が来るのなら」
 男の言葉の意味が、受話器の向こうには伝わらなかったのか、女の口調が疑
問符を多く含んだ物になる。しかし、男は答えない。答えを挟む隙間がなかっ
たという事もあるかもしれない。
 声が途切れる。女の沈黙に向けて、男がゆっくりと発声する。
「善処しよう。今度は横槍は入らない。裏切りもな……」
 男の声は深く静かに電話線を通り抜けていく。
「追って指示を送ることにしよう」
 女が何か文句を付ける。
「君に対する信頼は全く揺らいではいない。君にはもう少し上司に対する信頼
感が必要かもしれんな」
 男の声に少しからかうような雰囲気が入る。
「期待しているよ……友絵」



next:contents:previous
mailto:不観樹 露生
不観樹露生的小説
不観樹露生的