その部屋は、昼間という時間に相応しくなく暗い。外が全く明るいだけにな
おさらそう感じられる。窓のブラインドはきっちりと閉まっているし、蛍光灯
は点灯していない。漏れる光線の中で舞う埃。空気の生暖かさは、部屋の片隅
にある集中暖房のスチームのせいだ。
空気は動いていない。入れ替わることもなく、廻っているだけだ。何か湿っ
た臭いがこもっている。
ひっそりと音も立てずにファックスが動いて、紙を吐き出す。
部屋を埋め尽くす書籍の山の中に埋もれた長椅子の上に、長身、長髪の男が
音もなく姿を現した。ファックスの紙を取り上げて、しばし見つめる。
度の入っていない眼鏡が、ブラインドの隙間の明るさを写し、目元は隠され
ている。僅かに歪めた唇の端から少し息が漏れる。
紙を机の上に積み上げられた書籍の柱の上に置いて、しばし動かない。右腕
が上がって、人差し指が眉根に当たり、さらにしばし。
強めの鼻息。
「そうだな」
彼は短くそう呟くと、左手でコードレスになっている受話器を取り上げた。
短縮に続けて08とプッシュすると、受話器を愛でるように目を閉じる。待つ
ことしばし。コールの十五回目に、相手が出る。
「ああ、わたしだ」
電話の向こうからは、女性の声。文句を言う気配。それが一段落するのをゆ
っくり待って、苦笑らしき物を浮かべる。
「では、仕事だ。衛星からの情報が届いた。検出されたのは明確に非科学反応
だ。すぐに現場に向かってもらう」
またひとしきり文句を言う気配。
「そう、北陸だ。行ったことはなかったかな」
そう言って、彼は、都市名を告げる。
「すでに現地の支部には連絡を送っておいた……あぁ、取りあえず、現場を保
全するようにはなっているはずだ。まぁ、くれぐれも、愚かなことにならない
ようにな」
受話器をおろす男。椅子に腰掛けて、机の上で腕を組む。
「問題は、ないはずだがな」
呟きの余韻とともに、静寂が戻る。
部屋はやはり暗い。