コンベンションで失敗せずに「GM紹介」を行うためにどうすればよいか。そのためには、聞き手がいかなる目的意識を持ってるかについての理解し、聞き手が求めている内容を十全に提供することに注力するのが良い。
本文は大きく分けて三つの塊からなっている。一つは失敗しないGM紹介に関する理屈の部分。もう一つは実例を踏まえながら紹介の組み立てと工夫を習得する部分。最後は回避すべき事態にどのようなものがあるかについて述べる。
なお、本文内の二重囲み文は、各文のポイント部分を抽出したものである。
「GM紹介」とは、コンベンションなどにおいて、GM候補者がプレイヤー候補者に向けて行う、用意してきたゲームについての簡単な紹介を指す。
事前に参加者がどの卓に入るかが決まっている一部を除き、ほとんどのコンベンションでは開会式の前後に「GM紹介」の時間が用意されている。
GM紹介とは、GM候補者がプレイヤー候補者に向けて行う、用意してきたゲームについてのプレゼンテーションを指す。
尚、ここでいうゲームとはシステムのみならず、シナリオおよびその運用方針をまとめたものである。また、1人が使用できる時間は数分に限られるが、パンフレットにGM候補者から提出された資料を掲載するコンベンションもある。
「GM紹介」は、当日のセッションをより楽しむために、プレイヤーとGMのより良い組み合わせを実現することを目的としている。
TRPGは多様なプレイスタイルを受容する反面、プレイスタイルの組み合わせによっては、参加者同士で擦り合わせの努力した上でも、凄惨な結果となる危険性を持つ。
また、対面コミュニケーションを前提としているため、苦手なタイプの人と同席して一日を過ごすことは、趣味/娯楽という観点からは好ましくない。
そこで、TRPGにおいて大きな役割を果たすGM候補者のスタンスを紹介し、プレイヤー候補者たちに判断材料を提供することで「不幸な組み合わせ」が生じる確率を少しでも低下させるのが「GM紹介」の主な目的である。
「GM紹介」は本来のGMの役割ではなく、その優劣によってマスタリングの技量を明示するものではない。しかし、コンベンションGMに対してはGM紹介の技量が要求される。
GMの役割はセッション手続の運用(マスタリング)にある。そして「GM紹介」はセッション外の作業にあたるので、GM紹介とマスタリングの間に直接の関係はない。
このため、GM紹介の上手さとマスタリング技量には因果関係はない。つまり「GM紹介が上手いGMは、マスタリングが上手」「GM紹介が下手なGMは、マスタリングが下手」とは言えない。
しかし、コンベンションGMにおいては、ある程度はGM紹介の技量が要求される。なぜなら、GM紹介の成否がセッションに及ぼす影響が小さくないからである。
GM紹介が成功すると楽しいセッションとなる可能性が高まり、GM紹介が失敗すると苦痛なセッションとなる可能性が高まる(あるいは卓がそもそも成立しない)。
GM紹介が成功した場合、卓にはGMの用意したゲームの方向性と自分のやりたいことが合致したプレイヤーが集まる。人間は「自分がやりたいこと」を行う場合は意欲が沸くため、セッションは活気のある楽しいものとなる可能性が高い。
GM紹介が失敗した場合、卓にはGMの用意したゲームの方向性と自分のやりたいことがあまり合致していないプレイヤーが集まる。人間は「自分がやりたくないこと」を行う場合は意欲が削がれることがあるので、セッションは活気のない詰まらないものとなりかねない。これを挽回することは不可能ではないが容易ともいえない。
また、プレイヤー候補者たちが危険回避的な性向であれば、自分のやりたいことと合致しているかどうか不明な卓は選ぼうとしなくなる。そのため、GM紹介に失敗してしまうと卓そのものが成立しない可能性も高まる。
成功にまでは到達していないものの、失敗ではない場合、卓にはGMの用意したゲームの方向性と自分のやりたいことが不一致していないプレイヤーが集まる。
この状態であれば、開始前やセッションの過程を通じて意見の擦り合わせを行うことで、楽しいセッションを遊ぶことは十二分に可能である。
GM紹介について考える際には、成功することよりも失敗しないことをまず目指すのが妥当である。そこで「失敗しないGM紹介」について考えていく。
本文は「GM紹介に成功する方法」ではなく「GM紹介に失敗しない方法」を目指す。これは「成功する」よりも「失敗しない」の方が敷居が低いということと、高確率で「失敗しない」状態に持っていくことが先決であると考えるためである。
「失敗しない方法」を追求した結果、「成功する方法」への到達が一時的に遠のく可能性もあるが、成功できないデメリットは、失敗するデメリットよりも軽微と考えて目的を絞り込むこととした。
GM紹介を失敗しないためには、聞き手(プレイヤー候補者)が持っている目的意識を理解するのが第一歩である。その上で、彼/彼女らが欲している情報をきちんと提供し、失言をしないよう注意することで大部分の失敗は回避できる。
短い時間で紹介を的確に行うためには「聞き手が知りたいこと」を洩らさず提供することが望ましい。そのためには、なぜプレイヤー候補者たちがGM紹介を聞くのか─「聞き手がどのような目的意識を持ってGM紹介に臨んでいるのか─についての理解から始める必要がある。
そして目的意識を理解した上で、必要な情報を遍く提供し、行うべきでない態度や言動を慎むことで失敗は回避することができる。
プレイヤー候補者は、用意されたゲームの概要についての情報と、GMのスタンス・コンベンション適性・コンディションを知るために紹介に耳を傾ける。
プレイヤー候補者は、まずなによりセッション概要についての情報を求めている。
そして、それと同等以上の比重でGMのスタンス・コンベンション適性・コンディションについて知ろうと紹介に耳を傾けている。
セッション概要とは、GM名やシステム名等の基礎的な情報にはじまり、各種レギュレーションに関する情報等を指す。通常これらは決定事項であり、プレイヤーの要望等によって変更が行われない。
セッション概要として以下の点に関する情報を提示する。
これらはパンフレットやホワイトボード等によって補完される。
GMがシステム・シナリオ・マスタリングについて、どのようなスタンス(方針)をとるかについての情報。ここで示される内容は確定事項ではないが、尊重される。
プレイヤー候補者が関心を持っている最たるものが「GMのスタンス」である。
TRPGは同一のシステム・シナリオであっても多様なマスタリング・プレイングスタイルが受容される。そのため、相性の良くないスタイルの持ち主がそれと気づかずに同席してしまい窮屈な思いをしてしまう可能性がある。
コンベンションに参加するプレイヤー候補者は、貴重な時間を有効活用するために自分のスタンスと相性の悪いGMを避け、少しでも相性の良いGMを探そうとしている。このために自分のGMスタンスについて発信することは重要である。
GM候補者が、コンベンションでのGMをするに足る資質を持っているかを推察するための情報。プレイヤー候補者はこの情報を元に「コンベンションに不向きなGM」や「いい加減なGM」を候補から除外する。
「GMのコンベンション適性」とは、視野の広さ・誠実さ・公平さ・聡明さ・忍耐強さなどの心性および、ルール説明や司会進行などのスキルを指す。
これらは「コンベンション」が面識の浅い者同士が同席し、長時間をひとつのこと(TRPG)に従事して過ごす特異な環境において、楽しいセッションを共に築き上げられるかをプレイヤー候補者たちが判断する材料として用いられる。
残念なことに、経験が浅い等の理由からコンベンション環境をカジュアル環境と混同したまま気持ちの切り替えができてない「コンベンションに不向きなGM候補者」や「いい加減なGM候補者」は、一定数存在する。些細な発言によって彼ら/彼女らと混同されないよう常に注意しなければならない。
GMの肉体的/精神的な充実度合についての情報。
TRPGは参加者全員が長時間に渡って着座し会話によって進行される遊びである。中でもGMはプレイヤーに比べて発話する頻度が高く、その肉体的/精神的な負担は小さくない。
コンベンションGMとしての資質に富み、自分のスタイルと合致していたとしても集中力が切れたGMを相手にしてでは不満のあるセッションになる可能性が高まることとなる。そうならないためにも、プレイヤー候補者たちは一定水準の集中力を維持しつつセッションに関与できるだけのコンディションかについて高い関心を持っている。
GM紹介において聞き手の受けを狙った言動は不要である。
GM紹介において「受けを取る」「笑いを取る」ことには大きな意義がある。というのも、成功すれば重苦しい開会式の雰囲気を和らげ、「自分はプレイヤー候補者を楽しませる姿勢を大切にします」というアピールを全体に行えるからである。
しかし、以下の3点から受けを狙う必要性を棄却する。
「失敗しないGM紹介」という立場において、大きな時間投資をしてまで受けを狙う必要性はない。面白いことを言おうとして無理なぞせずに淡々と聞き手に向けて紹介を行おう。
GM紹介において伝えるべき項目は「GMの呼称」「システム紹介」「想定プレイ人数」「シナリオ概要」「GMスタイル」「初心者対応」「ルール・レギュレーション」「世界観を理解するのに参考となる作品群」「その他の選考にあたって参考になる情報」と、実に9点に上る。GM候補者はこれらを短い時間の中で盛り込むことになる。
具体的に紹介に盛り込む内容としては以下の9点があげられる。
GM紹介は言うまでもなく人前での演説である。この場合は、服装や姿勢・挙動や口調などに配慮することで印象が変化する。
ここでは筆者が意識しているものを取り上げるが、これ以外にもビジネス書などで多数のテクニックが取り上げられている。ここで挙げる方法にとどまらず、より自分に適した方法を模索することが良いだろう。
厳しい制約下で良い印象を残すためには、「目標の絞り込み」「説明項目の事前を整理」「視覚的道具の利用」などの手法が実際的である。
条件を吟味すると、GM紹介は決して容易いものではないと思えてくる。
GM候補者はこれらの制約を受けつつ、情報を提供し自らの資質を聞き手にアピールしなければならない。そのためには、いくつかの
GM紹介においては、口にするべきではない一言(禁句)がいくつかある。無思慮なままこれら禁句を口にした場合、GM紹介が失敗する可能性が飛躍的に高まる。
GM紹介では、不注意な一言がすべてを台無しにしてしまうことがある。ほとんどが十分な説明の上で発言すれば問題がないものだが、それを欠いた場合にGM紹介の出来に深刻な影響を及ぼしてしまう。
ここではそういった一言を「禁句」として紹介し、それが禁句と考えられる理由とその一言を禁句でなくすために加えるべき説明について整理する。
禁句を取り上げるのは、本来なら問題のないGM候補が些細な一言からGM紹介を失敗させてしまうという事態を回避するためである。
禁句を取り上げることには以下の影響が考えられる。
本稿は言うまでも無く後者を目的としている。
意識せずに禁句を使用してしまう(失言する)ことは問題だが、意識して禁句を使用することは問題として取り上げない。
本稿は「禁句」として取り上げる表現をGM紹介で使うことには反対しない。使用にあたっては、そのリスクを認識しできる範囲で対策を立てることを推奨する。
TRPGにおける「アドリブ」という用語は多義的であり、誤解を生じやすい。このためフルアドリブという語句からは「絶対的な準備不足」が連想されることが少なくない。そこで、フルアドリブという語句を使うには、この負の印象を払拭することが必須とされる。
払拭に強い自信がある場合を除き、「フルアドリブ」という単語を回避してのGM紹介を行う方が適切である。
アドリブには「シナリオが柔軟に変更されうる」「シナリオの細部が考えられていない」の二通りの意味で取れる。後者の文脈ではフルアドリブは「シナリオが用意されていない」と解釈される危険性がある。
TRPGのマスタリングにおいて「アドリブ」は以下の二通りで使われる。
十分な蓄積を持っていたり応用の利くGMであれば、用意したシナリオを柔軟に運用し、当初は想定されていなかった方向にも展開させることは可能である。そのようなセッションは他のものに比べてプレイヤーに課される制限が少なく、プレイヤーの創意工夫が生かされやすいという長所を持つ。
GM紹介におけるこの文脈での「アドリブ」は以下の2点に置換できる。
そして、同様に「フルアドリブ」を置換すると以下のようになる。
聞き手にこのように理解される場合は問題はない。しかし、十分な説明を欠いているという点ではマイナス要因と数えられる可能性がある。
「今日のシナリオはフルアドリブです」を「今日は多様な展開を許容するシナリオを用意しました。想定外の行動についても最大限に展開に取り込むマスタリングを行います」に言い換える。
シナリオの細部まで厳密に作成するのは現実的ではない。
いくら用意したとしても、それがPCの行動原理等とうまく合致せずセッション進行上の障害となれば、変更を余儀なくされることがあるためである。特にコンベンションはカジュアル環境と異なり、立卓されるまでプレイヤー候補について予見を持つことが出来ないため、この頻度は少なくない。
そこでシナリオの大枠と主だった要素についてのみ作成して、細部はセッションの中でプレイヤーに合わせて増補していくという方法が成立しうる。
GM紹介におけるこの文脈での「アドリブ」は以下の2点に置換できる。
そして、同様に「フルアドリブ」を置換すると以下のようになる。
聞き手にこのように理解された場合、シナリオを用意しない不誠実なGM候補として悪い印象を与える可能性がある。
「フルアドリブ」という文言を削除し、シナリオをきちんと用意する。
冒頭で述べたように、GM紹介とは用意してきたゲームについてのプレゼンテーションを指す。そしてシナリオはこのゲームを構成する重要な要素である以上、シナリオ準備を行わずに発表の場に立つのはGM紹介の主旨にそぐわない。
シナリオを用意せずにGM紹介を行うことは、聞き手に以下の印象を与える危険性がある。これらは直ちに致命的な損害を産むとは限らないが、可能ならば回避するのが良い。
あるいは「今日のシナリオはフルアドリブです」を「今日はシナリオを用意していませんが、プレイヤー参加者に十分な楽しみを提供する自信と根拠がきちんとあります」に置き換え、根拠についても提示する。
さまざまな危険性を踏まえた上で、それでもシナリオを用意しないというゲームスタイルを固持するのであれば、以下の3点についてきちんと表明する。
これらについて直裁に説明すれば、少なくともフルアドリブという不確かな用語を不用意に使うというマイナス要因は除去される。
システムに不慣れなことを告げるだけでは「失敗時の言い訳のため予防線を張っている」などと解釈される危険性がある。これを避けるために、立卓しようとしているセッションの主旨となぜ不慣れであると主張するのかについて明言する。
システムに不慣れなことを告げるだけでは「失敗時の言い訳のため予防線を張っている」などと解釈される危険性がある。
セッション手続を進行することは、GMの主要な役割である。そして、スムーズな進行のためには、使用ルールについての一定の理解が期待される。
にも関わらず「自分はこのシステムに不慣れである」という、期待に反する主張をするのであれば、「失敗時の言い訳のため予防線を張っている」などと解釈されてしまう危険性がある。
これを避けるためには、以下の点について明確にする必要がある。
卓に何かテスト的な意味合いがあるのか、それとも通常のセッションかを区別できるように表明する。
敢えて立卓を行おうとする場合、以下の2通りが考えられる。
立卓しようとしているセッションの主旨がどちらかについて、聞き手に理解できるように述べることが大切である。
システムに不慣れであると主張する理由(意図)をきちんと述べる。
コンディションの不調を告げることはセッション失敗時の責任負担を軽減しようとしていると見なされる危険性がある。そこで、GMを遂行するのに支障をきたすコンディションであるならばGM紹介で不調を告げる以前に立候補を辞退する。支障がないのならばコンディションについては特に触れないという方針をとる。
GMを遂行するのに支障をきたすコンディションであるならばGM紹介で不調を告げる以前に立候補を辞退する。支障がないのならばコンディションについては特に触れないか、可能な限り正確に申告する。
GMのコンディションでも触れているように、プレイヤー候補者は「GM候補者がセッションを遂行するに十二分なコンディションか」に強い感心を持っている。よって、GM候補者が自らのコンディションについて情報を提供することは基本的には歓迎される。
しかし、GMに立候補するという行為は「自分はGMを遂行するに十分なコンディションを持っている」ことが前提なので、これと矛盾するような情報は聞き手に混乱をもたらす危険性がある。
この混乱を回避するためには、普段の睡眠時間との比較などを織り交ぜて、できるだけ詳細に告げる必要性がある。しかし、限られた時間の中で正確な通知が難しいのであれば、コンディションについて特に触れないという対処もありえる。
「寝ていない」と告げると聞き手はGM候補者に対し、時間管理能力に乏しい、責任逃れをする人物であるといった悪い印象を持つ危険性がある。
プレイヤー候補者たちは「寝ていない」理由として、GM候補者が睡眠時間を確保する努力を怠ったか、時間管理能力が乏しく準備が終えることができなかったからと推測することがある。
さらに、プレイヤー候補者たちは「寝ていない」という発言の背後に「コンディションが万全でないことは事前に通告した。その上で自分をGMとして支持したのであるから、セッション不調の責任の一端はプレイヤーたちも負うべきだ」という主張を見ることがある。
これらはいずれもマイナス要因として働く。
この文章で取りこぼしている点として、以下のものがある。
この文章を作成するにあたりコンベンション雑談所の皆様から多くの意見をいただいた。感謝。
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