ブナの森についての覚書き。
ブナ(学名:Fagus crenata)はブナ科ブナ属。日本に存在する同じブナ属の樹木はイヌブナ(学名:Fagus japonica)。ブナ科には他にナラ属、コナラ属、クリ属、マテバシイ属、カシ属などがある。いずれも堅果(ドングリ)をつける。
尚、家具などに使われる「オーク」は北半球の温帯に広く分布する広葉樹のブナ科コナラ属の総称。日本でのミズナラやクヌギなどを指す言葉。
ブナは北海道から九州まで広範に分布しているが、分布量は日本海側の豪雪地帯、東北地方がもっとも多い。垂直分布は東北地方で500〜1500m(中心地域は1000m)。冷温帯林の重要な構成種であり、冷温帯林のことをブナ帯と呼ぶ。
ブナ帯の構成は日本海側と太平洋側で異なる。
ヨーロッパにはヨーロッパブナ(Fagus sylvatica)が存在し、ドイツを中心にアルプス・ピレネー山岳地帯、イタリア・バルカン半島の山岳地帯にも分布している。イギリスは寒さと乾燥のため、南部に部分的に分布するのみで、それ以外の地域では落葉広葉樹林の中心樹種はオークとなっている。
ブナ林の構成樹種は日本とヨーロッパでほとんど差異はないが、以下の3点が明確に異なる。
尚、家具などに使われる「オーク」は北半球の温帯に広く分布する広葉樹のブナ科コナラ属の総称。日本でのミズナラやクヌギなどを指す言葉。
日本では「オーク=樫」という誤訳が蔓延していた。
ブナをとりまく森の食物連鎖についてまとめる。
まずはブナの「木の葉」を基底とするグループ。ガは森の中で最も多い有機物である木の葉を餌として活用している。木の葉は成熟すると消化コストの高いセルロース含有量が増えるので、ガはまだ成熟していない初夏に集中する。小鳥類はこの時期に子育てを行い、雛の成長に不可欠な蛋白質をガの幼虫で確保している。
次いで「落ち葉」グループについて。ブナは落葉広葉樹なので、秋には大量の葉を落とし、これをミミズが食べ漁る。春にはコマツグミ(robin)がミミズを食べる。
ノウサギは密集した針葉樹林よりも樹林と草原が混在する視界の晴れた環境を好む。春から秋は野草を食すが、冬には潅木の枝や樹皮をかじる。そして、ノウサギはイヌワシとクマタカの餌となる。
「木の根」のグループ。ハタネズミは草原に住む草食性の鼠で、ブナの森ではササ原に生息する。彼らは一次消費者であり、異常繁殖は森そのものを脅かす危険な存在である。その一方でフクロウやキツネなど森の肉食獣の基本食料として生態系の大切な一片を担っている。
最後は「どんぐり」グループ。アカネズミとヒメネズミは森に住み、ナラのどんぐりやブナの実などの堅果を食す。また、土中で越冬しているガやハバチの幼虫・さなぎを食ため、害虫駆除として森林の維持に一役買っている。ハタネズミ同様に、フクロウやキツネの食料でもある。
春から秋は野草を食すが、冬には潅木の枝や樹皮をかじる。
同じくブナの枝や樹皮を食料とする動物としてニホンカモシカがいる。カモシカは落葉広葉樹林のやわらかい枝や樹皮に加え、林床に生える豊富な草を餌として利用する。夜行性で冬眠せず雪中でも行動する。
ニホンカモシカは1925年に狩猟禁止、1934年に天然記念物指定、1955年に特別天然記念物指定され、その数を増やしている。
彼らは一次消費者であり、異常繁殖は森そのものを脅かす危険な存在である。
一次消費者とは草食動物こと。生態系の土台である植物を直接減らすため、放置するとシステムそのものが崩壊する。
アカネズミとヒメネズミは森に住み、ナラのどんぐりやブナの実などの堅果を食す。
ブナの実は他の堅果と異なり毒性を持たないため、少量ではすべてネズミに食べ尽くされてしまう。そのためブナは結実量を周期的に増減させる生存戦略を採用している。平年はコストのかかる結実を控えてエネルギーを備蓄すると同時にネズミの繁殖を抑え、4,5年ごとに「豊作」を起こしてより多くの実を生き残らせようとする。このため、ブナの実の豊作年はネズミの被害が増える。
彼らは一次消費者であり、異常繁殖は森そのものを脅かす危険な存在である。その一方でフクロウやキツネなど森の肉食獣の基本食料として生態系の大切な一片を担っている。
「一次消費者」については2003.09.12:エルトンのピラミッドも参照。
人間のブナ利用については、以下の2点からまとめる。
ブナの実は菱形で長辺が1cm程だが、でんぷんに加えて脂肪分も含んでおり、栄養価が高い。また他の堅果がタンニンやサポニンといった毒素を含んでいるのに対し、ブナの実は無毒である。
日本ではそのまま食べたり、炒ったものを臼で粉にして香煎にしたり、発芽した新芽を食べたりした。ヨーロッパでは菓子代わりに食べたり、森に豚を放牧して食べさせたり、実を搾って食用油や灯油として活用した。
ブナは日本古来より建築材や家具材として用いられていたが、「育成に時間がかかる」「ねじれがある」「耐久性が低い」といった理由から近代に入ってヒノキや杉などの針葉樹よりも利用価値が低いとされた。現在は家具材や細工物に使われている。
中世ヨーロッパではブナの白い木材を薄い板に加工したものが、高価な羊皮紙の代用品として広く用いられていた。
ヨーロッパでは菓子代わりに食べたり、森に豚を放牧して食べさせたり、実を搾って食用油や灯油として活用した。
冬が厳しく長いヨーロッパでは、越冬用の保存食(ハムやベーコン)を充実させるため、秋に堅果類で豚を肥らせることが不可欠だった。
ブナは日本古来より建築材や家具材として用いられていたが、「育成に時間がかかる」「ねじれがある」「耐久性が低い」といった理由から近代に入ってヒノキや杉などの針葉樹よりも利用価値が低いとされた。
ブナは中国表記では「山毛欅」だが、国字では木へんに無と書く。これはブナが生態系で果たす役割の価値ではなく、木材としての価値で判断した字であり、時代を感じる。
木材としての狂いについて、先人たちは数年間水に浸す処置を加えることで対処してきた。
中世ヨーロッパではブナの白い木材を薄い板に加工したものが、高価な羊皮紙の代用品として広く用いられていた。
ブナはドイツ語でBuchen、英語でbeechと書くが、これは本(Buch,book)の複数形にあたる。このことからもブナとヨーロッパ文化の結びつきの強さがわかる。
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