宇宙のケンカ


《《はじめに》》

 今回は、気楽な日常から少し離れて、宇宙空間での戦闘・戦術についての解説で
す。
 それでも真面目7分にホラ3分。大ウソついても小ウソはつくな、の言葉をモッ
トーにやっていきますので、よろしくお付き合いのほどを。


1.宇宙の格闘技

《シーン1》
 ユンは半歩足を踏み出し、間合いを詰めた。腰を回転させ、下半身の力を腕に伝
える。
「はっ!」
 気合と共に、全身の力を乗せた拳を、男の腹部に叩き込む。会心の一撃。
 だが──
「ぐふふっ。その程度のパンチ、わしには効かないですトン」
 ユンの背中を、冷たい汗が流れた。

ユン「納得いかなーい!!」
エド「どうしたんです、いきなり」
ユン「上の戦闘シーンよ。なんでダメージが通らないわけ?」
エド「ユンさんはアーキタイプ『アマゾン』ですから、体力は1ですよね。パンチ
のダメージは体力と同じですから、こちらも1。相手が『マッスル』なら、体力4
+サイズ2で耐久値は最低でも6。これじゃ、ダメージは通りませんよ」
ユン「急所に当たっても?」
エド「命中達成値が高いとダメージが2倍、3倍になりますけど……」
ユン「耐久値6には届かない、か」

 スペオペヒーローズにおける、筋肉ダルマな大男(大女)のタフさは尋常ではあり
ません。
 エド君が解説してくれたように『マッスル』が相手の場合、並の攻撃では手傷を
負わせることはできません。
 レイガンやブラスターが普通に命中した程度ではカスリ傷ひとつ(!)つかない
のです。
 ましてや、なんの工夫もせず、ただ単純に素手で殴りかかったところで冒頭の戦
闘シーンを再現するだけです。


2.正攻法

《シーン2》
 つかみかかってくる腕をかわし、ユンは腰にさげた細い棒を抜き、構えた。
「暴れる猛獣には、お仕置きが必要ね」
 グリップのボタンを押す。棒の先端が青白い電光を放った。

エド「人にはそれぞれ得手不得手がありますから。ユンさんなら、エナジーソード
やスタンバトンを使えばいいじゃないですか」
ユン「じゃあ、武器がなくなったらどうするのよ」

 頑丈な敵に対抗するもっとも単純な解決方法は、こちらも重武装することです。
パワード・スーツに身を固め、重火器で針ネズミのごとく武装すれば、たしかに強
くなります。
 しかし、それがスペオペのヒーローとしてふさわしい戦い方か、と言うと疑問が
残ります。
 スペオペヒーローズはドラマを楽しむゲームです。
 そして戦闘におけるドラマというものは、弱敵を一方的にぼてくりこかす事で得
られる物ではありません。強敵を相手に苦戦しながら勝利を掴むところにあるので
す。

ユン「何の工夫もなく、ただ力押しで敵を叩きのめすんじゃ、芸がないわよ。芸が」
エド「だからといって、何の準備も策もなしで戦えってわけじゃないんですよ」

 エド君の言うとおり、戦闘の前に作戦をたて、装備を整えることは決して悪いこ
とではありません。
 なぜなら、用意してきた装備は、敵の攻撃を回避することに使えるからです。

ユン「どういうこと?」

 じゃ、ちょっと使ってみましょう。『マッスル』のパンチ攻撃が命中──おお、
6が出たから振り足して、回避値+5だからダメージが2倍になって──8ダメー
ジ。

ユン「ええ?! 重傷になっちゃうじゃない。ヒーローポイントを2点使って……」

 おっと。ここで、ヒーローポイントの『ダメージ軽減』を使うのは考え物です。
『命中回避』なら、1点ですみますよ。

ユン「でも『爆風で飛ばされ』たり、『持ち物に当たる』んでしょ?」

 それが狙いです。演出してみましょう。

《シーン3》
 スタンバトンの先端が、男の左腕に突きたった。火花が散り、男の体がビクン、
と跳ねる。
「ぬぅっ! この程度の電撃など、効かんですトン!」
 男は痺れた左腕を盾がわりにして突っ込んできた。
 花崗岩のような拳がユンに叩きつけられる。
「あっ!」
 手からはじき飛ばされたスタンバトンが、床の上をカラカラと転がっていった。

 このように、敵の攻撃を回避するだけでなく、ピンチを演出して場を盛り上げる
こともできるのです。


3.敵の弱点をつく

《シーン4》
 男がすり足でにじりよってきた。それに合わせてユンは後ろに下がる。
 背中が、壁に当たった。
「ふっふっふっ。もう逃げ場はないですトン。諦めて降伏するですトン」
「さあ、それはどうかしら」
 笑みを浮かべ、挑発する。
「たとえ、ここから逃げたとしても狭い宇宙船の中。どこにも行けないですトン」
 男はむきになって反論してきた。


ユン「ピンチを演出するのはいいけど、その後始末はどうつけるのよ」
エド「このままじゃ、勝ち目ないですね」

 強敵と戦う場合、正面からつっこめばいいというものではありません。敵の弱点
を探り、自分の利点を生かしてはじめて勝利が見えてくるのです。

ユン「『マッスル』の弱点? アクション・ポイントが少ないから手数が制限され
るってコトかな」
エド「……もう一つあります。ユンさん、ちょっと時間を稼いでください」
ユン「いいけど、どうするの?」
エド「ここが宇宙船の中だって事を利用するんです」

《シーン5》
「追いかけっこは、もう、終わり、ですトン」
 男がふいごのように大きな息をつく。ユンは、額の汗を拭いつつ答えた。
「そうね。そろそろカタをつけましょうか」
 通信機の送信ボタンを押す。
「エド、お願い!」
『はい!』
 通信機から元気のいい返事が聞こえてくると同時に、それまで低い振動として感
じられていたロケットの噴射がピタリ、と止まった。
 身体が、宙に浮かんだ。

 スペオペヒーローズの世界では、重力を自由に制御する技術は実用化されていま
せん。ロケットを停止させた宇宙船の中は無重力状態になります。
(居住区を回転させて、遠心力で疑似重力を作っている場合は別です)
 そして、無重力状態での活動──特に白兵戦──は、さまざまな制約を受けます。

エド「ルール的に言うと、行動の前に<無重力行動>で判定が必要なんです。白兵戦
だと難易度は7です」
ユン「あたしは月育ちで低重力、無重力には慣れているけど、『マッスル』はそう
じゃない、って事ね」
エド「何しろ、器用の能力値が1ですから」

《シーン6》
 男は身体を泳がせながらパンチを繰り出した。腰も何も入っていない、腕だけの
パンチだ。ユンは避けようともしない。掌で男の拳を受け止める。
「うン?」
 まるでヌイグルミを叩いているかのような頼りない感触が、拳から伝わってきた。
パンチを受けたユンの身体が宙に浮き、後ろへと滑っていく。
 ユンは身体を回転させ、壁に着地した。
「今度はこっちの番ね。宇宙での戦い方、教えてあげるわ」


4.無重力の打撃技(パンチ/キック)

 『暖簾に腕押し』という言葉があります。
 無重力で何の工夫もなくパンチやキックを浴びせても、この言葉どおりになりか
ねません。相手はあなたの打撃を運動量に変えてしまい、ダメージを受け流してし
まうのです。

ユン「特に中国拳法の寸勁のように、衝撃が長いタイプの『重い』打撃はほとんど
ダメージにならないの」
エド「そもそも足腰の踏ん張りがききませんから、寸勁は出せませんけどね」
ユン「むしろ速度重視の、軽いけど鋭いタイプの打撃技の方が有効ね。他にも──」

《シーン7》
 壁に『着地』したユンは膝を伸ばして宙に飛び出した。男が両手を広げて待ち構
える。
「どんと来いですトン!」
 だが、男の手は空を切った。ユンは男の頭上を飛び越え、天井を蹴って方向を変
えた。
「なにっ?!」
「もらった!」
 ユンの膝が、ほぼ直上から男の後頭部に激突した。


ユン「せっかく立体的に機動できるんだから、使わない手はないわよ」
エド「死角からの攻撃ですか。確かに無重力ならではの技ですね」
ユン「そっ。それに上からの攻撃だと、身体が動く余地が少ないからダメージを逃
がしにくいでしょ」
エド「でも──」
ユン「でも?」
エド「マッスルさん、まだやる気満々みたいですよ」


5.無重力の絞め技/関節技

《シーン8》
 男が後頭部を撫ですさりながら立ち上がった。
「さっきのはなかなか痛かったですトン」
(なんてタフなの)
 ユンは慄然とした。普通なら頚骨が折れていてもおかしくない一撃のはずだ。
(しかし、ダメージは残っているはず!)
 ユンは再び宙を飛んで男の背後に回ると、太い首に腕を回した。そして渾身の
力を込めて締め上げる。


 無重力になったからといって、人間の身体そのものが変わるわけではありませ
ん。首を絞められれば窒息しますし、関節を不自然な方向にねじられれば痛みを
感じます。
 では絞め技、関節技は宇宙でもそのまま有効かというと、そうでもありません。

ユン「無重力だと極めが甘くなるのよね」
エド「なぜです?」
ユン「体重を使って押え込むことができないからよ」

 たとえば、相手の腕を後ろにひねり上げてみたとします。苦痛から逃れるため
にはひねられたのとは逆方向に回転するしかありません。
 これが地上なら、自分の体重が邪魔で自由な動きはとれませんが、無重力では
違います。

エド「それじゃ、あまり意味がありませんね」
ユン「そうでもないのよ。他の技と組み合わせる方法があるの」


6.無重力の投げ技

《シーン9》
「おなごの細腕で、この私の首を絞めるのは無理ですトン!」
「なら、こうよ!」
 ユンは首を絞めたまま、ぐい、とひねりを加えた。男の身体が回転を始める。
「おおっ?」
 男がとまどった声をあげた。平衡感覚が喪失したせいだ。その隙にユンは男の
身体を引っ張り、頭から隔壁にたたきつけた。


エド「投げ技ですね。でも、重力がないところで使えるんですか?」
ユン「重力の助けはないけど、重力の制約もないから」
エド「??」
ユン「体重100kgオーバーのマッスルを地上で投げとばせると思う?」
エド「そうか、無重力なら『投げ』ることはできますよね」
ユン「その代わり速度がゆっくりだから、簡単な受け身だけでダメージは防がれ
ちゃうの」

 将来、無重力柔術が発展した場合、投げ技は『受け身が取れないようなら一本』
と、試合のルールが変更されるかもしれませんね。

ユン「それにしても、これだけ攻めまくってるのに、ちっとも有利になった気がし
ないのはなぜ?」

 そりゃそうです。無重力の格闘だからといって、ルール的には何らボーナスはあ
りませんから。マッスルはノー・ダメージですよ。

ユン「むぅ……やっぱ対戦車ミサイルでも用意してくるべきだったかしらん」
エド「(宇宙船のレイアウト図をながめながら)それじゃ間に合いません。ちょっ
と卑怯な戦法ですが、これならあるいは──」


7.無重力のケンカ技

《シーン10》
 無重力に慣れていないとはいえ、男は練達の武道家だった。ぎこちないながら、
ユンの身体を追って宙を飛ぶ。
 ねらいは、どこでもいいからユンの身体を掴むことだ。純粋に筋力だけの勝負と
なれば、負けはしない。

 戦いに勝つための基本は、『己の利点を生かし、敵の長所は封じる』ことです。
マッスルは、ユンの無重力の行動を妨害すれば勝機があると考えたのでしょう。

《シーン11》
 勝利の女神は、どうやら男の方に微笑んでくれたようだった。ユンが船室の中に
入り、ドアをロックしたのだ。ドアの奥は乗員用の狭い船室で、逃げ場はどこにも
ない。
「ついに追いつめたですトン!」
 男は壁を蹴ってドアに体当たりした。一撃。
 二撃。薄いドアが弾けるように開く。
「霧?」
 船室の中に飛び込んだ男を白い霧のような物が包んだ。
 それが無数の水滴であると気が付いた時には、すでに男の気管は大量の水を吸い
込んでいた。

 無重力状態での水、特に細かい水滴はきわめて厄介な存在になります。空中をふ
わふわと漂い、呼吸と一緒に気管へと入ってきます。
 いかに頑丈なマッスルといえど、溺れてしまえば戦闘不能です。

ユン「エアロックや隔壁を開放して真空責めにしちゃう、って手もあるわね」
エド「死んじゃいませんか?」
ユン「大丈夫、大丈夫。むりやり息を止めたりしなければ、肺胞も傷つかないし──」
エド「あっ、マッスルが逃げます!」
ユン「!! 逃がすか!!」

《シーン12》
 逃げようとする男の身体に、先端に重りのついた紐がぐるぐると巻き付き、動き
を封じた。
 薄れていく意識の中で男が最後に見たものは、水がほとばしるシャワーのホース
と、それをつかんだユンの姿だった。

ユン「ふう。エドにもらった重りつき紐(宇宙のファッション編参照)が役に立った
わ」

 ケンカ技の基本は臨機応変。周囲にある物をいかに活用するかも、重要な要素で
す。

エド「工具用のレーザー・トーチなんかは目潰しに使えますし、通信機やスピーカ
ーで物音や声を出して、罠をしかけた場所に敵を誘導するって手もあります」
ユン「ようは相手の意表を突くことね」
エド「皆さんも、いろいろと考えてみてください」


宇宙のケンカ編:おしまい

 作成者:銅 大(アカガネ ダイ)

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