《はじめに》 皆さんは、スペオペヒーローズをプレイしていて、こんな疑問を感じたことはあ りませんか? 「このヒーローは、普段はどんな恰好をしているのかな?」 「どんなところに住んでいるんだろう?」 宇宙船同士のチェイスをしたり、凶悪な異星生物と戦っている場面は想像できて も、服装や住宅など、普段の生活は意外と思い浮かばないものです。 そこで、本コラムではヒーローたちの素顔に焦点をあて、彼らの日常生活につい てシャレを交えながら想像してみようと思います。 今回のテーマは、真空の宇宙に住む生き物についてです。 真面目7分にホラ3分。大ウソついても小ウソはつくな、の言葉をモットーにや っていきますので、よろしくお付き合いください。
宇宙の生き物:真空キノコ 皆さん、パリの地下鉄に冬でもコオロギが住んでいることはご存じでしょう か? 人の出す熱気と地下鉄車両のブレーキ熱で冬でも暖かな地下鉄構内は、コオ ロギたちにとって安住の地でした。エサは人々が捨てるタバコの吸殻に残った 葉です。 20世紀初等にパリに地下鉄が開通して以来、ナチスのパリ占領時代も生き 延びたコオロギたちですが、昨年末の地下鉄ストライキと寒波が重なったこと により、絶滅の危機に瀕しているそうです。 心ある『パリ地下鉄のコオロギを守る会』(会員150名)の人々は、コオロギ を救うために「スト中も一日数本だけでいいから電車を動かしてほしい」と、 地下鉄労組に申し入れたのですが、聞き入れてもらえなかったとか。 (1995年12月28日の毎日新聞から) さて、これが今回の話とどう関わってくるかといいますと…… ユン「ふわあああああ(大アクビ)……あ、エド。どうだった?」 エド「まったくダメです。ネオ・ドルフィンのナビゲーターさんたち、すっか り交渉そのものを楽しんじゃってます」 ユン「ストはまだまだ続くか……いっそ、天測情報なしで出港しようか?」 エド「それはちょっと……なにせ、ここは5つの太陽が複雑な軌道を描いてい ますから。ちょっと間違えただけで十光年ぐらいは飛ばされちゃいますよ」 私たちの太陽系のように、太陽が一個しかない星系は銀河系では少数派です。 7割近くが、連星、三連星などの連星系で、複数の太陽を持っています。連星系 では太陽が互いに相手の回りをくるくると回っていますので、重力的なポテンシ ャルは実に複雑な動きを示します。 スペオペヒーローズの超光速航法『ジャンプ』は、重力場の影響を強く受けま すので、こうした連星系では注意が必要です。 ユン「人間なんかより、よっぽど三次元での空間把握能力に優れたネオ・ドルフ ィンを訓練して、連星系用のナビゲーターにする──」 エド「いい考えだと思いますよ」 ユン「連中がマジメに仕事をする気になりさえすれば、ね」 エド「そういえば、ストの交渉中に生物学者さんが乱入してわめいていましたよ。 なんでも、あまりストを長引かせるとこのあたりの生態系に悪影響が出るか ら、タグボートだけでも巡回させろ、って」 ユン「生態系? このへんって惑星一つない真空でしょ? 生き物なんていない じゃない」 学者「そんなコトはないぞ」 ユン「わっ! びっくりしたあ」 エド「あ。この人です、生態系うんぬん、って言ってたのは」 学者「まったく、どいつもこいつも頭が固くて困る。このままでは貴重な生態系 がみすみす失われてしまうというのに」 ユン「はいはい。ごたくはいいから何の用よ」 学者「お前さんがたにちょっとした仕事を依頼したくてな」 ユン「残念だけどね。ストが終わるまでお仕事はなし」 学者「なに、簡単な仕事だよ。ちょっと外に出て、水をやってきてくれ」 エド&ユン「「え?」」 そもそも生命がどこで誕生したかについては、今でも議論のネタになっていま す。優勢なのは原始地球の海(沼地説もあり)で『生命のスープ』をコトコトと トロ火で煮た結果、偶然にも我々のご先祖様が誕生したという説です。 しかし、中には生命は宇宙空間の星間ガスや彗星の中で誕生したという説も、 少数ではありますが根強く残っています。 学者「生命とは資源管理のゲームだ。手持ちの資源をうまく活用した種が生き延 び、繁栄する。真空中でもこの原則に変わりはない」 ユン「だけど空気がないと、呼吸できないじゃない」 学者「それは違う。地球の生物が呼吸──酸素ガスの利用──をはじめたのは、 植物が誕生して酸素ガスが増えた後の話だ。それまでの生物の多くにとって 化学的に活性の強い酸素は有毒なガスにすぎなかった」 エド「でも、自分の身体を構成する物質は必要でしょう。炭素とか窒素とか」 学者「その通り。現在知られている真空生物の多くが小惑星や衛星に定着してい るのはそのせいだ。だが、この星系では別の進化の圧力がかかった」 ユン「何よ?」 学者「5つの太陽だよ。相定まらぬ巨大質量の動きに、この星の惑星や小惑星は ピンボールの玉のごとく引き寄せられ、軌道から弾かれる。とてもではない が安住の地とはなりえない。そこで、小惑星から別の小惑星へと放浪するタ イプの生命が進化してきたわけだ」 エド「その事と、ボクらが外に出て水をまくことに、何か関係でもあるんですか?」 学者「もちろん。『彼ら』の水資源を奪ったのはわれわれ人類なんだからな。宇 宙港が、ここに建設された理由を知っているかね?」 ユン「ええっと……」 エド「水資源……氷の小惑星でもあったんですか?」 学者「正確には彗星のかけらだがな。何せ、ネオ・ドルフィンたちは閉所恐怖症の けがあるんで、直径数kmの大プールに水を満たさにゃならん。それで、たまた ま手近にあった氷を使っているわけだが、それはこの星の生命にとっても必要 不可欠だったわけだ」 エド「悪いことしちゃいましたね」 学者「そうでもない。一応は還元していることだしな」 ユン「そっか、推進剤! それで、ストしてると困るわけか」 宇宙船は対消滅で発生した熱エネルギーで推進剤(水)を加熱し、噴射して推力 を得ます。この噴射された水を、『真空生物』たちは拾い集めているわけです。 学者「うむ、その通りだ。しかも一つやっかいな話があってな──」 耳障りなブザーの音が、言葉を遮った。 《 警報! 警報! 外郭第7ブロックに亀裂発生! 総員、宇宙服を着用の上 所定の場所に避難せよ!! 》
『それ』の内部には、幾つかの疑問符が渦巻いていた。 もう少し知性を発達させたのであれば、疑問は不安と呼ばれる感情を喚起し たかも知れない。 水が、ない。 炭素型生命にとっては命そのものと呼んでもよい必要不可欠な資源が、周囲 のどこにも感じられなかった。 二重螺旋の命じるまま、『それ』は手持ちの情報を再度分析した。 結果は同じだった。 軌道要素のシミュレーションも、最近まで続けてきた分光分析も、この宙域 に大量の水がある事を示していた。 『それ』は再び全天に向け、電磁波を発振した。周辺に浮かぶ幾つかの塊に 当たった電磁波が戻ってくる。しかし、分光分析の結果は、周囲の小惑星が金 属塊であると示していた。 もしかしたら── 『それ』の、諦めを知らぬ本能が別の解釈を示した。 氷の塊に、何か別の物体が衝突して表面が汚れているのかも知れない。 埋もれた水を捜し出すため、『それ』は『傘』を開いた。
ユン「何よ、あれは」 エド「光の……螺旋? 太陽ヨット?」 学者「似たようなものだ。あの傘で光を受けて移動する」 当然のことですが、真空の宇宙では歩くことも泳ぐこともできません。移動 するのであれば、何かを進行方向の逆に放り投げ、その反動で進むしかないの です。しかし、だからといって自分の身体をちぎって投げる方式では、ムダな 贅肉がブクブクと身体にまとわりついてきます。やはり、推進剤は余所からも らうのが、快適な質量比を保つ秘訣です。 星系内での移動であれば、恒星の光圧を使ったライト・セール式が── 星系間の超長距離移動であれば、星間物質を使ったラムスクープ式が── それぞれ、手頃なダイエット方法です。 ユン「太陽の光なら、途切れることも目減りすることもないものね……って、 それどころじゃないでしょ!!」 エド「反射した光の焦点、宇宙港に収束していきます!」 学者「あれはじゃな──」 ユン「光を反射する帆を操って、受けた光を一点に集中させている! 見りゃ、 分かるわよ!」 機動戦士ガンダムでお馴染みの『ソーラー・レイ』(最近はハンニバルとロー マ共和国とのケンカに巻き込まれて死んだシラクサの哲学者に敬意を表して、 『アルキメデス・ミラー』なる名前も使われておりますね)です。 学者「ムッ。それだけではないぞ。連中が同族と互いに連絡を取り合う際や、 これが大事なのじゃが、繁殖期には──」 ユン「(聞いてない)エド、この船に武装は?」 エド「タグ・ボートですから……排障レーザーが1門だけです」 ユン「十分! 裏に回りこんで、本体をブチ抜くわよ」 学者「待て! あれを殺してはイカン!!」 エド「でも、このままじゃ宇宙港が壊されちゃいます」 ユン「……あいつ、水を探しているのよね? なら、これで──」
光を浴びて輝いていた小惑星の一つが、いきなり暗くなった。表面が蒸発し、 気化した物質が光を散乱させているのだろう。『それ』は結晶分光器と化した己 の一部を使って、蒸気の分子を解析した。 水。
エド「よかったぁ。どうやら騙せたようです」 ユン「ふぅ」 エド「3000tも水をばらまいた効果がありましたね」 ユン「タグ・ボートは大型船を引っ張るために質量比を挙げているから、水のタン クだけは大きいのよ」 学者「まあ、あいつがここに来たのも、タグ・ボートがばらまいた水に引き寄せら れたせいだからな。しかし、当座はこれで騙せるだろうがあれが本気で水の 補充を考える前に何とかしないといかんな」 ユン「大丈夫よ。どっかから彗星のかけらを持ってきて置いておけば」 エド「!! あいつ、また開いた傘を操作して──」 ユン「まだやる気?」 学者「いや。大丈夫だ」
『それ』は全天に散った、仲間へとメッセージを送った。 [ここに豊穣なる命の源あり。いざ、我らここに集わん]
学者「あれは仲間への通信だよ」 エド「なんて、言ってるんです?」 学者「水があるからみんな集まれ、だろうな」 ユン「集めてどうすんのよ」 学者「遺伝子や情報を融合させる……ようするにセックスだな。言わば、あれは愛 のメッセージってやつだ」 ユン「『ねえちゃん、水でも一緒に飲まへんか』って意味でしょ? いきなり下ゴ コロが感じられる愛のメッセージねぇ」 エド(ユンさんが言うとロマンのかけらもなくなっちゃうなあ)
[ここに豊穣なる命の源あり。いざ、我らここに集わん]
宇宙の生き物編:おしまい
作成者:銅 大(アカガネ ダイ)
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