宇宙の食卓
<<はじめに>>
皆さんは、スペオペヒーローズをプレイしていて、こんな疑問を感じたことはあ
りませんか?
「このヒーローは、普段はどんな恰好をしているのかな?」
「どんなところに住んでいるんだろう?」
宇宙船同士のチェイスをしたり、凶悪な異星生物と戦っている場面は想像できて
も、服装や住宅など、普段の生活は意外と思い浮かばないものです。
そこで、本コラムではヒーローたちの素顔に焦点をあて、彼らの日常生活につい
てシャレを交えながら想像してみようと思います。
人間の生活に必要な要素「衣・食・住」。今回はその一つである「食」について
考えてみたいと思います。相変わらずの「真面目7分にホラ3分」「大嘘ついても
小嘘はつくな」でまいりますゆえ、よろしくお付き合いのほどを。
part1:日常生活における食事
宇宙旅館『銀河園』の朝食
現代日本においては、なぜか旅館の朝食というと「ご飯、焼き魚、漬物、ミソ汁、
生卵、ノリ」というセットが食卓/お膳に並びます。
いつもは忙しさにかまけて朝食をとらなくとも、なぜかこのセットにだけは食欲
をそそられてしまう、という方も多いのではないでしょうか。
それでは、これらを宇宙で食べるにはどうすればいいかを考えてみましょう。
ユン「いっただっきまぁーす」
エド「ハシは使いにくいですね……ユンさんはお上手ですけど」
ユン「まあね。あたしは月コロニー生まれだけど、先祖はベトナムの出身だから」
大学の時にアジア史の先生からお聞きしたのですが、ハシを使うのは日本人、朝
鮮半島や中国、東南アジアのベトナムなどの「漢字」を使う民族なんだそうです。
(ですが、聞いたのは10年も前ですので一部に記憶違いしてるかも知れません)
と、言うことはすぺおぺ世界でも漢字を使っている民族はやはりハシを使い続け
ている……かも知れません。
ユン「まずは、お茶から……あちちちち」
エド「大丈夫ですか、ユンさん。ネコ舌なんですから、もっと落ちついて」
ユン「うっひゃい。おひゃはあひゅいのはひいの」
宇宙で食料の自給を目指した場合、まず問題となるのが「水資源」です。植物を
育てるにも、生活するにも、まずは水を確保しなくてはいけません。ですが、地球
という大きな重力井戸の底から水をくみ上げるのはなかなかに大変です。(軌道エ
レベーターを建設した場合は別ですが)
そこで、宇宙植民においては木星や土星の氷を大量に含む衛星やリング、星系外
縁の巨大な雪玉である彗星を水のタンクとして利用することでしょう。
**参考文献 「火星人の方法」(The Martian Way) **
アイザック・アシモフ氏のSF短編集「火星人の方法」(ハヤカワ文庫)に収録。
地球の「水の輸出禁止」により存続の危機にたたされた火星植民地。それに対し
て火星の人々がとった火星ならではの方法とは……?
1953年(今から41年前)に書かれた傑作SFです。もしあなたが「宇宙の
男(女)」でしたら「燃える」こと間違いなし。
ユン「(パクパク)アジがおいしいね」
エド「お魚は、宇宙でもわりあい簡単に養殖ができますからね」
ユン「(ちっちっち)でも、出来ないのもあるんだぞ。エドはマグロって食べたこ
とないでしょ?」
エド「はい」
ユン「今度、輸入物を扱っている寿司屋さんでトロを食べさせてあげるよ」
エド「でも地球からの輸入物って高いんでしょ。大丈夫です?」
ユン「(ギクッ)ま……まぁ、なんとかなるでしょ」
海洋生物は無重力にも適応しやすく、牛や豚などの家畜に比べて手間がかかりま
せん。水資源の問題さえ解決すれば、初期の宇宙開発から養殖されるはずです。
しかし、そのほとんどはプランクトンを餌とする小型の魚となるはずです。ハマ
チなどの大型の魚を食べるためには(植物プランクトンの養殖)→(動物プランク
トンの養殖)→(小型の魚の養殖)→(大型の魚の養殖)という結構な手間がかか
るからです。また、大型回遊魚(マグロなど)にいたっては、地球以外では地球型
の環境を持つ植民惑星でなくては不可能でしょう。
ユン「卵かけに海苔と醤油……海苔?」
エド「どれどれ……あぁ、宇宙海苔ですよ。ほら、袋に書いてあります」
ユン「……これって、海藻ではなくてコケの一種なんだよねぇ……」
鶏(ブロイラー)は、無重力でさえなければ宇宙で飼育できます。無重力ですと
「カルシウム流出」が発生し、卵がカルシウム抜きになってしまいます。卵からカ
ルシウムを抜くと……黄身と白身しか残りませんよねぇ。(でも、これまで宇宙で
養鶏を営んだ人はいないので、実際にはどうなるか分かりません)
醤油(の元となる大豆)は、宇宙の農場で問題なく作れます。当然、ミソも豆腐
も大丈夫ですね。ついでといっては何ですが、納豆も宇宙で作れます。納豆好きの
方、ご安心下さい。
海苔が宇宙海苔になっているのは、私の創作です。海藻の類は宇宙でも作ること
ができます。ただ、品種改良や遺伝子工学の結果、コケの類が食用になるのも面白
いかなぁ、と思いまして。
ユン「ご飯はやっぱりジャポニカ米ね」
エド「でも、ちょっと粘りが足りないような……」
ユン「どうして? インディカ米よりよっぽど粘りがあるよ?」
エド「ボクのコロニー(小惑星コロニー)では、もち米に近い品種を食べてたん
ですよ。低重力でも簡単にばらついたりしないように」
低重力/無重力でご飯ツブがばらつくと厄介です。そのため、宇宙生活者のホカ
弁当は粘りのあるもち米を混ぜて炊くようになる……かも知れません。
ユン「ごちそーさまあ」
エド「ごちそうさま」
ユン「あれ? エド、あんま食べてないね。食欲なかったの?」
エド「えぇ、ちょっと……」
ユン「何かあったの?」
エド「だって、昨夜はユンさんがボクを寝かせてくれなかったじゃないですか」
((周囲の客が一瞬どよめく))
エド「おかげで腰も痛いし……? なんでユンさん、顔が真っ赤なんです?」
ユン「そーゆー言い方をすることないでしょ。誤解されちゃうじゃない」
エド「?(明け方まで畳の上でカード・ゲームしたのが何に誤解されるんだろ)」
part2:宇宙のゲテモノ料理
ん?
んんん??
〔〔………チッ〕〕
〔〔ユンとエドのやつ、ネガティブ・ヒーロー・ポイントを使う間もなく逃げやが
ったか。まぁ、大事なキャラをここで始末するわけにもいくまいて〕〕
〔〔と、いうわけで。今回の進行役は君だ〕〕
雑魚A「………でぇーっっ!! なんで私がこんなところにぃ」
さて、広大無辺な宇宙に出た我々人類は、様々な星で新たなる食材に出会いまし
た。その中には地球上では味わうことのできなかった美味も含まれます。惑星エメ
ロードのアンキモサウルス(鍋物にすると良し)、惑星トリフィドのサンフラワー
(暗闇で光るので、飾りつけに最適)などです。
もちろん、中にはとても食用に耐えられそうにないシロモノも……〔〔なんや、
うるさいのう。横からゴチャゴチャと〕〕
雑魚A「勘弁して下さいよぅ。いくら私がやられ役専門のNPCだからって、こん
な死に方はいやですぅ」
〔〔まだ、死ぬゆうて決まったわけじゃあるまいが?〕〕
雑魚A「なら、その手に握った『宇宙衛生博覧会』(著者:筒井康隆/新潮文庫刊
/定価360円)はなんですかぁ」
〔〔……安心せぇ。『蟹甲癬』だけは勘弁しちゃるけぇ〕〕
雑魚A「いやだーっ! ドド豆はいやーっっ!! 顔──」(マイク・カット)
もちろん、中にはとても食用に耐えられそうにないシロモノもありました。しか
しナマコを食い、蛆を食い、孵化の途中の雛を食い、ついでに納豆を食ってしまう
ほど食い意地のはった人類を前にしては、いかなる食材も孤高の地位を保つことは
できません。人類の胃袋は、あらゆる食へと挑む永遠のチャレンジャーなのです。
1.究極のデザート! : ハラクダシの実(惑星トゥレン)
さて、最初は惑星トゥレンから来た『究極のデザート』、ハラクダシの実を紹介
しましょう。〔〔……ホレ、早よ食え〕〕
雑魚A「────」
〔〔大丈夫じゃ。一品目から致命的なんは出しゃあせんけぇ〕〕
雑魚A「(しかたなしに一口頬張る)……う、うまいぃぃ!! (ガツガツ食いは
じめる)」
植物が種子を散布する方法は様々です。バネの力を使う物(ホウセンカなど)、
風に乗る物(タンポポ)、そして動物などに運搬してもらう物、などです。
動物に運搬してもらう方法を選んだ植物はさらに運搬の方法によって『付着型』、
『食べ残し型』、『周食型』の3タイプに分けられます。
地球での代表的な『周食型』には、カキやブドウなどがあります。これらの果物
が『甘く』『美味しい』のは、偶然ではありません。食べてもらうことによって種
子をあちこちに散布しようという、植物の戦略なのです。
雑魚A「あー食った。食った。うまかったぁ。つまり、このハラクダシの実も『周
食型』として進化した結果、というわけですな」
いいえ、違います。
雑魚A「へ?」
たしかにハラクダシの実も『甘く』『美味しい』方向へと進化しました。しかし
この植物は『周食型』とは似て非なる戦略を持っているのです。
雑魚A「と、いいますと?」
〔〔まぁ、その前にコレを飲めや〕〕
雑魚A「? コレは?」
〔〔下剤。半日は大丈夫と思うが、早い方がええ。後で念のため、胃の洗浄もして
おこう〕〕
雑魚A「?……!……ま、まさか………(大慌てで下剤を飲み、トイレへ走る)」
『冬虫夏草』という物をご存じでしょうか。虫から草が生えている物で、漢方薬
の材料にもなります。実はこの草は寄生生物で、その虫を栄養源にして生育してい
るのです。
もうお分かりでしょう。ハラクダシの実は『冬虫夏草』と同じく寄生生物の一種
なのです。放っておくと、そのまま食べた動物の腹の中で生育し、その躯を栄養と
して育っていきます。
このようにきわめて危険な食べ物ではありますが、その味もまた『究極のデザー
ト』という名にふさわしく尋常ではありません。
なお、惑星トゥレン政府はこの植物の食用や輸出を禁止しています。
2.南海の死闘! : モンジュヒトデ(惑星スタレンジャー)
雑魚A「(ゲッソリとやつれて)ぜぇ、ぜぇ。あーひどい目にあった」
宇宙のゲテモノ料理、2品目は惑星スタレンジャーのモンジュヒトデです。モン
ジュヒトデという名前は、地球の海浜に棲息する棘皮動物(ようするにヒトデ)に
外観がきわめて類似している事から付けられました。
雑魚A「もう騙されませんよ。今度はどんな極悪な食べ物なんですか?」
....疑っているようなので、このモンジュヒトデの食用になる肉について説明し
ましょう。まず、味はというと今や地球でも伝説となった『マツサカ・ギュウ』を
上回る美味。柔らかく、そして味わい豊か。通常はステーキにして食べますが、新
鮮な間は刺し身にしても良し。口の中でとろけるような芳醇な味わいを楽しめます。
栄養のバランスにおいても(やや脂が多いですが)問題ありません。
どうです、食べてみたいですか?
雑魚A「(慎重に)そりゃ、食べてみたいですが....本当に食べた後で何かヘンな
ことにはならないんでしょうね?」
なりません。
雑魚A「なら、食べましょう------って、これは何なんですか?」
(プロテクターを着せられた上に、刃渡り1mはある刺し身包丁を渡される)
モンジュヒトデ「アンギャー!!」
(扉が開き、全長3mで触手の数が12本もある巨大なヒトデが現れる)
雑魚A「どわわーっ!!」
すぐに殺しちゃダメですよ。戦っているうちに触手の色が赤から緑に変わってい
きますからね。緑になってから触手を1本ずつ切り落として下さい。
雑魚A「ど....どういうことだぁー!!」
モンジュヒトデ「アンギャ、アンギャーッ!!」
モンジュヒトデは惑星スタレンジャーの生態系ピラミッドの上位に位置する、き
わめて凶暴な肉食獣です。そして、その戦闘力を支えているのが筋繊維細胞の中に
含まれる『ブースター・スパイス』です。『ブースター・スパイス』は銅を基幹と
する複雑な分子構造になっており、内部に大量の酸素を蓄えることができます。
モンジュヒトデは戦闘時など筋肉の活動が活発になった時に、この『ブースター・
スパイス』を分解して内部から酸素を取り出すことで、通常の方法では補いきれな
い酸素を補給しているのです。
この『ブースター・スパイス』はきわめて毒性が強いため、モンジュヒトデの肉
を食べるには、まず筋肉を酷使させて『ブースター・スパイス』を分解しなくては
いけません。分解すると、銅イオンの青色が皮膚の表面に浮かびあがります。
雑魚A「こんな危険なことをしなくても、他に方法があるでしょーがぁ!!」
モンジュヒトデ「アンギャ、アンギャ、アンギャーッ!!」
開拓初期の乱獲がたたり、モンジュヒトデは保護動物となっています。しかし、
その美味は捨てがたいのも事実です。そこでスタレンジャー政府は『闘牛』をヒン
トに、観光のためのショー的な色彩を持つ『ヒトデ狩り』法を制定したのです。1
対1の対決で、人間側は刺し身包丁だけを武器に戦いを挑むわけです。
雑魚A「サギだあー!!」
ベン!! (雑魚Aがモンジュヒトデの一撃で吹き飛ばされる)
....結局、切り落とせたのは1本だけですか。(タンカで雑魚Aが運ばれるのを
見て)時間が経つと味が落ちるので、さっさとこの場でいただくことにしましょう。
それではお時間になりました。皆さん、さようなら。
モンジュヒトデ「アンギャオー!!」(勝利の雄叫び)
3.究極の美味! :味覚誘導装置(パーマー・エルドリッチ星)
雑魚A「(包帯でぐるぐる巻きになって)はぁ....ひどい目にあった。いくら雑魚
キャラだからといって、あまりといえばあまりの仕打ち。(遠い目になって)
思えば生まれてからこっち、いいことなど何もなかったような気がするなぁ。
(病室の窓の外を見て)きっと、あの蔦のつるについている最後の一葉が落
ちたら、私も死んでしまうのだろう」
〔轟音と共に、ダーツ級小型シャトルが降下してくる。シャトルは1回病院の上空
を通りすぎた後、激しく噴射炎をまき散らしながら病院の中庭に垂直降下する。轟
音と突風がおさまった後の病室の窓の外には、最後の一葉どころか蔦のつるすら残
っていない〕
雑魚A「あああ....」
宇宙のゲテモノ料理、3品目(ラスト)は異星古代文明の遺跡の星、パーマー・
エルドリッチ星からお送りします。ここで我々スタッフが見つけた物こそ、『究極
の美味』という名がふさわしい代物だったのです。
雑魚A「ストップ! 私はもう何も食べないからな」
そうですか(平然)。別に食べてもらう必要はないんですよ(そういって雑魚A
の頭に何やらイボイボのついたヘルメットをかぶせる)。
雑魚A「これは?....はっ、口の中に何やら妙な感じが....」
20世紀末に生み出されたバーチャル・リアリティは、視覚と聴覚、そしてわず
かな触覚しかない、きわめて不完全な物でした。
しかし、彼が今かぶっているヘルメットは、嗅覚、さらに味覚までをも再現する
究極のバーチャル・リアリティ・マシンなのです。
雑魚A「おおっ。結局食べられなかったモンジュヒトデとは、こんな美味であった
のかぁ!!」
あらかじめ感覚テープで記録しさえすれば、どんな味覚でも思いのまま。何度で
も再現することができます。これぞ『究極の美味(を、もたらすもの)』と呼んで
いいでしょう。
ふっふっふっ....これさえあれば、全人類が私の前に跪くのも夢ではない。夢で
はないぞぉ!! はーっはっはっはっ。
ユン「いーかげんにしなさーい!!」(ゴキュッ!!)
エド「大丈夫ですか?」(雑魚Aのヘルメットを取る)
雑魚A「はっ....私はどうしていたのだろう?」
エド「(ほっ)良かった。このヘルメットをあまり長い時間かぶっていると、現実
と仮想世界の区別がつかなくなってくるんですよ」
ユン「原型はこの星の古代文明からの発掘品なんだけど、人間にはちょっと刺激が
強すぎるのよね」
エド「これを作った科学者さんの依頼で盗まれたのを探していたんですよ。まさか
こんな所にあるとは」
(ズルズル)筆者、警察に引きずられていく。
エド「と、いうことで『宇宙のゲテモノ』はこれでおしまいです」
ユン「次回からは再び(?)アカデミックに戻り、『宇宙の農園』をお送りします」
part3:宇宙の農場
1.宇宙船『センチュリー・ファルコン』号の船内にて
エド「ユンさん、ネズミとかは苦手ですか?」
ユン「ウチのご先祖様が地球にいた頃は御馳走の一つだって聞いたけど、あたしは
嫌い」(ユンは月生まれで、先祖はベトナムの出身)
エド「いや、食べるわけじゃないんですけど」
ユン「なら問題なし」
エド「どうやら水耕農場システムの中にネズミが住みついたようなんです。駆除す
るんで手伝って下さい(ソニックガンを渡す)」
スペオペヒーローズの宇宙船には『生命循環システム』という環境維持のための
システムがあります。これは人間が呼吸する空気や飲料水、生活用水、食料などを
リサイクルするシステムです。
現実においても、このタイプの生命維持システムは「CELSS(Controlled Ec
ological Life Support System) :管理生態系生命維持システム」と名付けられ、
アメリカ(NASA)や日本(航空宇宙研究所)など各国で研究が進められていま
す。今回は、その中の食物生産に関するレポートをネタに、想像や妄想をたくまし
くしていきます。
ユン「うわー、まぶしー」
エド「植物の生育には20時間たっぷりと光を浴びせ、夜の暗闇は4時間ぐらいに
するのがいいそうですから」
ユン「でも、あんまり温かくないね。むしろ涼しいくらい」
エド「植物の種類にもよるんですが、20度前後がいいそうです」
ユン「ふーん....あ、そこ! トマト畑に何かいる!」
ピシュン! ピシュン! ガサガサガサ....。
ユン「チッ、逃げられたか。それにしてもネズミにしちゃ、えらく大きくない?」
エド「それどころか。影しか見えませんでしたが、人型をしてましたよ」
宇宙の農場の利点は、何といっても『収穫に最適な環境』を人工的に作れる点に
あります。地上では『お天道様の気分しだい』で収量の変化する農業も、宇宙にお
いては安定した収量を期待できます。
では、どのくらいの広さの『農地』が必要なのでしょうか? これも存外に狭く、
小麦を用いた実験では、人間1人あたり12平方mの農場で必要なカロリーを満た
す収穫を連続生産できるだろうという結果が導かれています。
しかしながら、良いことばかりではありません。
ユン「そっちにはいたぁ?」
エド「いいえ。見当たりません。おっかしいなぁ。どこに隠れたんだろう」
ユン「あんまりドタバタしていたら、気分悪くなっちゃった」
エド「大丈夫ですか? この中の空気は二酸化炭素濃度が高いですから」
高い収量を得るためには、高い二酸化炭素濃度が必要です。水耕農場は気密とな
り、通常区画とは切り離された環境になるでしょう。気密をするのには他にも理由
があります。植物は様々な有毒性のガスを出すのです。エチレン、一酸化炭素、ア
ンモニア、酸化アミン、シアン化合物、窒素酸化物、硫化物などです。量的には微
量であり、自然界でなら環境に大きな影響を与えません。しかし、宇宙船のように
狭い人工の環境においては、どんな微量であろうと無視することはできません。
ユン「....理由を聞いたら、ますます気分悪くなったみたい」
エド「目には見えませんが、植物だって生存競争をしていますからね。知ってます?
トマトとレタスを同じカゴで水耕栽培すると、トマトがレタスを殺しちゃうん
ですよ」
ユン「キラー・トマトかぁ。なんだか、映画みたいねえ」
ウソのようですが、実話です。アメリカのロッキード・ミサイル・アンド・スペ
ース社が宇宙の水耕農場の実験結果として1990年に報告しています。トマトが
レタスの栄養を分捕ったのか、有害物質で生育を妨害したのかは分かりませんが。
エド「どこにも見つかりませんねぇ」
ユン「しかたない、今日はあきらめましょ(ウィンクする)」
エド「そうですね....あきらめましょうか(軽くうなずく)」
水耕農場システムのエアロックが開き、閉じる。
しばらくして。
水耕農場の天井を縦横に走るパイプから、小柄な影が下りてきた。閉じているエ
アロックを見て胸をなで下ろす。仕種が妙に人間くさい。
エド「動くな!」
米の栽培カゴの後ろから、ソニックガンを構えたエドが姿を表した。同時にエア
ロックが開き、ユンも姿を表す。
サル「うひゃぁ。撃たないで欲しいでゴザル」
ユン「さ....猿ぅ!?」
エド「お猿がしゃべった....」
驚く二人の前で、小柄な猿は必死にペコペコとおじぎをした。
サル「許して欲しいでゴザル。ホンの出来心でゴザル。お腹が空いてしかたなかっ
たんでゴザル」
エド「ど....どうします、ユンさん」
ユン「どーするって言われても....ま、話だけでも聞いてあげたら?」
サル「ありがたいでゴザル。拙者は門吉(モンキチ)という名前でゴザル。実は....」
2.農業用コロニー『白桃郷』にて
前回は宇宙船などで利用される水耕農場の特徴を見てみました。水耕農場は空間
を有効に活用し、短期間で大量の収穫を得るのには最適の方法です。
しかし、コスト的に見るとやはり割高な感は否めません。そこで、宇宙のコロニ
ーにおいては、住人の胃袋を満たすためにもう少し別の方法を取っています。
今回は、宇宙における大規模農業について考えてみましょう。
エド「ここが門吉が働いていたスペース・コロニーですか」
ユン「すごい....匂いねぇ」
エド「土壌の微生物ですよ。かなりサワー(酸性化)が進行しているようです」
お百姓さんは『土』を大事にします。
特に化学肥料のない時代において、肥沃な土は何にも勝る宝でした。
では、土の肥沃さは、何から生み出されたのでしょうか?
ユン「これだけボロボロになっちゃうと、もうダメなんでしょ?」
エド「ええ。土壌をまるごと入れ換えないと----」
ユン「わわっ!!」
エド「ユンさん!? うわっ....こいつは」
ユン「これ....ミミズ....だよね」
エド「たぶん....何世代か前までは....」
肥沃な土壌には、1立方cmあたり数万〜数千万ものバクテリアが確認できるそう
です。こうした目に見えない生物の働きがなくては、大地も単なる無機的な元素の
集合体にすぎません。ましてや、コロニーという狭い空間においては物質の循環を
司る大気や海洋の助力を得られません。その代わりとなる遺伝子改造した微生物群
が必要不可欠なのです。
しかし、大気と地磁気によって生み出された保護を失ったスペース・コロニーに
おいては、微生物に与える宇宙放射線の影響は無視できません。有害な突然変異株
によって、土壌全体が汚染される可能性があるのです。
ユン「それに、すごい湿気。肌がべたついちゃう」
エド「農業コロニーはどこでもそうですよ。熱帯雨林並に植物が密生していますか
ら」
コロニーでの植物の水やりはどういう方法をとるのでしょうか?
水資源を効果的に使うのであれば砂漠地帯で用いる、植物の根元に水滴を垂らす
方法が参考になると思います。
ユン「それにしても....どこを見てもおサルさんばっかりね」
エド「ネオ・チンプたちが自分達の家として購入したコロニーですから」
ユン「こんな廃棄寸前の農業コロニーを?」
エド「居住用のコロニーでは、食料は輸入に頼らざるをえませんからね。それに、
いかに知性化されたといってもネオ・チンプたちには自然に近い環境の方が心
が休まるんじゃないですか?」
ユン「おサルさんの牛飼いのどの辺が『自然に近い』のよ?」
植物が育つようであれば、家畜だって育ちます。
家畜の数は『10%の法則』によって制限を受けます。『10%の法則』とは、
食物連鎖の段階を1つ上がった場合、食料となった生物資源量(単位:カロリー)
の10%しか、実際の血肉にならないという物です。残りの90%は活動(呼吸)
のため消費されます。カロリーではなく重量で換算すると、この数値はさらに下が
ります。肉食という物がきわめて贅沢で無駄な物がお分かりいただけるでしょう。
エド「ヘンですね。ネオ・チンプたち自身は、あまり肉食をしないと聞きましたが
....」
老猿「あれは輸出用じゃよ、お客人」
ユン「あら。あなたは?」
老猿「わしの名は石白老。このコロニーに住むネオ・チンプの長ですじゃ」
エド「こんにちは。エドワード・ライトです」
ユン「ユン・ホウよ」
老猿「歓迎しますぞ、エドワード殿、ユン殿」
ユン「おじいちゃん。あの牛は輸出用だって言ってたけど、ネオ・チンプってお肉
は食べないの?」
老猿「食べないわけではござらん。もっとも、普段は合成タンパクとプライムが主
食ですじゃ」
エド「ボクの田舎といっしょですね」
肉食が資源の無駄とはいえ、やはりたまにはお肉も食べたいと思うのが人情でし
ょう。そこで登場するのが代用食です。
現代でも、ダイエット用に豆腐や大豆を使ったステーキが存在します。
とある大手ゼネコンでは、宇宙での肉食代用品としてエスカルゴ(カタツムリ)
を候補にあげたレポートを出したことがあるそうです(伝聞)。
SFネタとしては、アイザック・アシモフ氏の短編『美食の哀しみ(Good Taste)』
(創元推理文庫/『変化の風』に収録)があります。この作品では品種改良した様
々なキノコ(プライム)を主食とする宇宙コロニーが登場します。
老猿「お二人のことは、門吉から聞いております。なんでもわしらを助けていただ
けるとか....」
ユン「門吉の話だと、あの牛がそもそもの原因だそうね....とてもそうは思えない
けど?」
老猿「実はあの牛はわしらが購入した物ではござらん。とある人物が、牛100頭
と飼育用の様々な施設をわしらに寄付してくださったのじゃ」
エド「(口笛を吹いて)それは豪気ですね」
ユン「でも、その話にはウラがあった....でしょ?」
老猿「(うなずいて)そう。その代わりに、このコロニーの一角にあるプライム農
場を譲り受けたい、ともちかけられましてな....そのプライム農場は変異株に
汚染されているので変だとは思ったのじゃが....」
エド「変異株、と言いますと?」
老猿「これ、ですじゃ」
ユン「....ヘンなキノコね。何やら赤緑色の斑模様があって、毒キノコみたい」
エド「ユンさん、その印象は正しいみたいですよ」
ユン「?」
エド「これに似た物を見たことがあります。こいつはドラッグ・キノコです」
老猿「さようですじゃ。わしらの願いは、このキノコの生産を止めることですじゃ」
スペオペヒーローズの宇宙の法則に従いますと、悪人は実に様々なところで悪事
を企みます。そしてそれは農業コロニーにおいても例外ではありません。
では、農業コロニーにおける悪事とは何か?
それは麻薬の生産です。
高度な生物化学的な施設が揃い、外界からは切り離されている農業コロニー。麻
薬組織にとっては、これほど条件の揃った場所も少ないでしょう。しかもコロニー
には宇宙港も設備されていますから、輸送の手間や危険も惑星上に比べて大幅に短
縮できます。
しかし、ご安心を。
スペオペヒーローズの宇宙の法則に従えば、悪党の陰謀はけっきょく、ヒーロー
の手によって叩きつぶされる運命にあるのです。
ユン「そういうコト。まかせてよ、おじいちゃん」
エド「ボクたちがきっと悪党をこらしめてやります!」
宇宙の食卓編:おしまい
作成者:銅 大(アカガネ ダイ)
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